見出し画像

50音パングラム「うるう」

あれから約一か月、そういえばこのパングラムをnoteに載せていなかったので。

かすむ もり ほしよ ふけろ
つきひ へて いちにん
あまらせぬ こと ゆめみ わな を おく
はやされる その ね うたえ

霞む森 星夜更けろ
月日経て 一人
余らせぬこと 夢見 罠を置く
囃されるその音 歌え

* * *

このパングラムは、うるう日の終わりに小林賢太郎演劇作品「うるう」を改めて流しながら考えたものです。
制作後記的なものを残しておいてみようかな。

まず、「うるう」という言葉は”う”を2回使うし「マジル」という言葉は”ジ”という濁音を使うので作れない。「ヨイチ」という言葉こそ作れるため、導かれるようにその言葉をまず作った。

でも、足りなくて余る彼を名指しで登場させることに違和感を感じて取り消した。

きっかけが欲しくて、シャッフルしたひらがなのカードをとにかく並べていると、「かすむ」という言葉が出てきた。その時、私の脳内には霧深い森の奥が浮かんだ。そこに佇む曖昧な輪郭の男も。これを軸に風景が見えてきた。

明かりのない暗い森の空にはあまねく星が散らばっている。あの星らのように皆光を放ち共に生きているが、彼だけは違う。更ける程に輝きを増すその星らを、彼はもう否定しない。諦めを超えた楽しい独りの夜がそこにあった。さあ更けろ輝け、さして私には関係のないこと。

長い長い時を生きてなお一人。それでもただ、一人とて余らない世界を夢見てしまう。それは彼の根幹に根付き、生活に紐づく。ウサギ捕りの落とし穴は、彼の寂しさを紛らわせるための大切な罠。だって世界から余った奴が落ちるかもしれないだろう?

穴を掘り、掘り、閉じこもろうとしていた彼の耳にどこからか音が届く。低く、どこか人の声にも似た響きを真っ直ぐに轟かせるそれは、彼の心を締め付け、囃し立てた。楽器…弦楽器、チェロ。40年の時、あの畑。あの畑から聞こえる。少しずつ確信に変わる音の主のもとへ、ただ一心不乱に走る。

秘密の畑に響き渡る旋律は、あの時約束したカノン。
幼げなひらがなで丁寧に書かれた歌詞を頭の中でなぞり、口からメロディーが溢れる。

「まちぼうけ」

本当に、待ちぼうけていたよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?