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分解する物語(1)

いつもは数学概念の単発的な記事ですが、何かをテーマにして数学の考察ものを作ってみたいなと思いました。ひとつのテーマでどこまで広げるかという問題がありますが、まずは簡単なところで私なりの完了条件を定義して物語の完成に向かおうと思います。さらなる深い考察に関しては私自身もより一層精進しつつ、今後の記事にも役立てていけたらと思う次第です。

なお、対象ですが、おそらく多くの数学科出身の方にはよくご存知のことになります。定理の結論だけみれば代数学のいろんな本に載っていることでしょう。あくまで「読み物」としての意味合いでしかないかと思います。(読んでて何かおかしなところがありましたらご指摘いただけるとありがたいです。)

一方で高校数学まで学習したが、そのあと大学の数学がどんなことをやっているのだろうと興味のある方には、むしろその方々に向けて主に書いていきたいと思います。ただ、数学の文化というか、それなりの表現・体裁は私の中にも影響されていて、無意識にそのような表現になることがあるかもしれません。しかしながら数学の書籍全般によくある、「定義」、「定理」、「証明」が繰り返されるという形式にはしないようにして、私が一番好きな「一緒に考察する風」の文章で、自然につながるような形にしようと思います。ですから、考察のうちに気づいたら定理になっていることもあると思います。それはそれで楽しいもので、ストーリー性のあるものとしてみると、その成り立ちを含めて理解できて、知識が引っ張り出しやすくなってきます。

ここまでご覧いただきありがとうございました。冒頭はこれくらいにして、ご興味ある方は本編へどうぞ。

1.素数

素数とは、1または自分自身以外に約数を持たない自然数であった。そして素数が無数に存在することは少なくとも古代ギリシャ時代からは知られていて、ユークリッド(紀元前300年頃)による背理法の証明は今でも伝えられている:

【証明】
素数が無数にないと仮定して矛盾を導く。素数が有限個であるから全部でn個であるとする。それらの素数を
 p(1),p(2),・・・,p(n)
とおこう。このとき、これらの素数すべての積に1を加えた数p:
 p = p(1)p(2)・・・p(n)+1
はすべての素数p(1),p(2),・・・,p(n)で割り切れない。なぜなら、素数の積を左辺に移行すれば、
 pー p(1)p(2)・・・p(n)=1
となり、もしpがある素数p(k)で割り切れたとすると、この等式の左辺はp(k)の倍数である。しかし、右辺は1で、1は1よりも大きいp(k)で割り切れることはない。従ってどの素数p(1),・・・,p(n)もpを割り切れない。これはpが素数であることを意味する。しかしながら、pはすべての素数p(1),・・・,p(n)より、真に大きいから新しい素数である。これは素数が全部でn個であることに矛盾する。■

2.算術の基本定理

素数が無数にあることがわかって、次に自然数を一直線上に並べたときに素数がどのように分布しているのか、という疑問は自然と興味の向かうテーマかもしれない。しかしここでは算術の基本定理とも言われる次の事実:
 「どんな自然数もいくつかの素数の積で、しかもただ一通りに表される」
について、そのからくりを探求するというのをテーマにしよう。

例えば12は
 12=2×2×3
といくつかの素数の積の形に書き表される。これを素因数分解という。分解において同じ素数が重複して現れてもよい。この12の素因数分解は
 2×2×3
以外に積の順番を除いて方法がない。つまり素因数分解はただ一通りということである。

3.モデルの登場

さて、自然数のこのような事実の成り立ちを探求するにあたり、抽象的なモデルの上で探求することを提案する。

素因数分解は自然数の乗法に関する話であるから、自然数と乗法(×)に注目しよう。この乗法は我々のよく知っている次の法則を満たしている:
(1)結合法則
 任意の自然数a,b,cについて
 (a×b)×c=a×(b×c)
 を満たす。
(2)単位元の存在
 ある自然数1が存在して、
 1×a=a×1=a
 を満たす。
(3)交換法則
 任意の自然数a,bについて
 a×b=b×a 
 を満たす。

今、この性質に注目して、これら3条件を満たすような乗法(・)と呼ばれる演算が付与された集合Rを考える。(ただし、「自然数」という言葉を「Rの元」という言葉に置き換える必要がある。)この集合Rを可換な単位的半群という。付随する演算をセットに、
 (R,・)
という書き方をして、これを可換な単位的半群という方がより正確であるが、しばしば演算が明らかな場合はRと略記する。また、「可換な」という修飾語は「(3)交換法則」の条件を満たすことを言っている。交換法則を満たさないときは、単に修飾語「可換な」が取れて、単位的半群という。

逆に、集合Rとして特に自然数のすべての集合Nとし、Rの乗法をNの通常の乗法(掛け算)を採用すれば、上の(1)~(3)を満たすから、やはり(N,×)は可換な単位的半群である。

一方、Nに整数0を付け加えた集合
 N’=N∪{0}
を考えると(N’,+)は0が単位元とする可換な単位的半群となる。

なお、自然数の集合Nにおける加法(+)によるもの
 (N,+)
は上記「(2)単位元の存在」を満たさないから、単位的半群ではない。(そのような場合は単に半群という。)

このように、集合と演算をセットにして考えることが重要になってくる。しかし本論では、N’に加法(+)の構造を付与したものは、一般化されたRの一つの例として現れること以外では特に考えない。

こうして可換な単位的半群は、自然数の乗法構造に関して拡張したモデルになっている。

自然数の素因数分解に相当するものを一般の可換な単位的半群Rの中で考えることで、その概念を広く見直そうということだ。

4.今後の展開

それには我々のよく知っている自然数の世界をお手本にして、用語を少しずつ広げていきながら考察することを積み上げていく。一つ一つの考察を小分けにして、各回で完結するような小まとまりに話を「分解」して進めよう。(ただし、話の分解方法は一意的ではないだろう。)



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