蕎麦とビールの山形の冬

朝、と言っても11時過ぎに目が覚める。
あぁ今日もやることは沢山だ。そんな日になにかしたいな。
そう思って近所の蕎麦屋に行くことにした。

12時を回ってようやく布団から出ることを決意。
いくら暖房をつけたって、ロフトの階下はまだ寒い。冬でもショートパンツのパジャマを着ている自分を朝は毎日のように恨む。
それでも肌とお布団が密着する快感には抗えないものだ。

身支度は適当でいい、別に知人に会う訳でもなく、蕎麦とお酒を楽しんだらサクッと帰るだけなのだし。
というか昨日風呂に入りそびれて前髪がベタつく気がする。それもまた適当に整える。
寝巻き代わりのパーカーはそのまま、ショートパンツだけ長いジーンズに履き替えた。
窓の外を見ると小雪がチラつくけれど晴れ間が見えているし、なんてったって蕎麦屋まで徒歩30秒もない。
マフラーもコートも着ず、財布と携帯だけポケットに突っ込んで家を出た。

暖簾をくぐり、カラカラと鳴る戸を開ける。
1人です、と店員に伝え、混みやすい昼時でも偶然空いていたお気に入りの席に座る。
座敷席の窓際端っこ。そこが私のお気に入りの席、鯉が泳ぐ池が見えるからだ。
今日も元気かなと思い窓の外を覗くと雪深い池で静かに眠っている鯉たちがいた。

お茶を持ってきてくれた店員に、天ざるそばとビールを頼んでしばし待つ。
先にビールと漬物が届く。メニューには「瓶ビール(大)」と書いていたけれど、こんなに大きかったかと少し瞠目する。
なんせ瓶ビールを飲むのは初めてなのだ。
せいぜいハイネケンの小さめの瓶ビール程度だった。
塩辛い味付けの漬物はビールとよく合う。
蕎麦が来るまでの間、ポリポリと外を眺めながら咀嚼した。

少し待つと蕎麦が来た。
この店で一番好きな天ざる蕎麦。
蕎麦が美味しいのはもちろんだけれど、ここの天ぷらは季節の食材が入っている。
秋冬はキノコなのだろうか、今日はぶなしめじだ。

そしてわたしがこれを一番好きな理由、それは海老が2本も入っていることだ。
わたしは好きなものを最後に食べる派の人間。
でも、料理は出来たてがいちばん美味しい。
だからいつも好きなものを最後に残して食べごろを逃してしまうのが常だった。全く学習しないものだ。
それでも大好きな海老天が2本も入っているとあれば、熱々のうちに1本食べ、そして〆にもう1本を食べることが出来る、夢のような天ぷらの配置だ。

蕎麦つゆに辛味大根とネギを入れて溶く。
それに蕎麦をつけて口へ運び、蕎麦を食らう。
間髪入れずにビールを流し込んだ。
ああ美味い。
蕎麦に詳しい訳ではないわたしでも美味しいと感じる。
なによりうどん派だったわたしが、山形に来てから蕎麦派に変わったのだ。山形の蕎麦は言わずもがな美味い。

わたしの少し後に隣の席に来た夫婦の客の旦那の方も、妻のお酌でビールを飲んでいる。
豊かな時間が流れている気がした。

サクサクの天ぷらを食べ、ビールを飲む。
口にじゅわ、と広がる野菜の旨味も衣の油も天つゆも全てビールで流す。
ふぅ、と息をついて雪のやんだ外を眺めた。
海老天の尻尾まで飲み込む。
多いかもと思った瓶ビールももう底をついた。

最後の蕎麦の1口を楽しみ、蕎麦湯を飲む。

そのまま多くなってきた店内を抜け会計を済まし
今日も美味しかったですと言付けて晴れた外に出た。

アルコールで幾分かポカポカになった身体に少しニヤけながら帰路へと歩を進める。

山形の冬は今日も綺麗だ。

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