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あふれるポワロ愛とプロ意識 -「ポワロと私 デビッド・スーシェ自伝」

今回は俳優デビッド・スーシェさんのご著書「ポワロと私 デビッド・スーシェ自伝」について書きます。
私はドラマを数回しか見たことがないのですが、ものすごく面白かったので、私的素敵ポイントをご紹介します。私の中では「ポワロさん」という呼び方がしっくりくるので、以下そのように書いています。

ちなみにトップはAlmeidaによるPixabayからの画像です。ドンピシャの画像でびっくりしました。

・内容紹介

ミステリの女王アガサ・クリスティーが生んだ名探偵エルキュール・ポワロ。世界中で愛され続けているのは小説のすばらしさはもとより、ドラマの力が大きかった。ポワロ俳優として著者が過ごした四半世紀を余すところなく綴る。
http://www.harashobo.co.jp/book/b612668.html

デビッドさんは「ポワロ俳優」として有名なことも、ドラマが世界中でどれほど人気なのかも、この本を読んで知りました。

・素敵ポイント①:役への掘り下げ方が深い!

デビッドさんはポワロさんを演じるにあたって、すごく原書を読み込んでいます。そして93に及ぶ特徴リストを作り、役作りをされたそうです。

それまで映像化された作品では、ポワロさんの風変わりな特徴が強調され、「道化」「笑いもの」のイメージがあったそうです。でもデビッドさんは原作にある「深みと品格」を画面に引き出そうと、服装、歩き方、人への接し方を細かく設定し、リアル感を出していきます。

・素敵ポイント②:みんながポワロさんを好きすぎてほっこりする

デビッドさんは、自分の演じるポワロさんをとても好きなのが随所に渡って感じられ、心があたたかくなります。

そしていくつかポワロさんファンとの交流も紹介されていて、それもすごく素敵でした。特に好きだった話しが以下です。

ヘイスティングズという町でロケをしていたデビッドさんは、少し考えたいことがあり、撮影舞台から離れ静かな脇道に入りました。立って考えごとをしていたら、小柄なおばあさんが歩いて来て「こんにちは、ムッシュ・ポワロ」と挨拶をします。

一瞬ポワロさんとして答えるか、素の自分として答えるか迷ったそうですが、デビッドさんは「ボンジュール、マダム」とポワロさんの声とマナーで答えたそうです。

おばあさんは微笑んだ後、不安そうに「何か事件があったのではありませんか?」そして「その、殺人か何かあったのでは?」と声を震わせて聞いたそうです。そこでもデビッドさんは返事に困りつつ、彼女を安心させるために、
「ノン、ノン、マダム。リアン。何もありません」
「メ・バカンス、マダム。ここへは休暇に来ております」とポワロさんらしく答えました。

最後におばあさんは「ヘイスティングズを(バカンス先として)選んでくださってありがとう」と去っていったそうです。

・・・おばあさーーーん!ポワロさんは架空の人物だよおーーーって叫びそうなエピソードですが、デビッドさんの優しさやポワロさんがどれほど親しみを持って受けいれられているかが分かって、すごくいいなあと思いました。

・素敵ポイント③一貫したプロ意識

本を読んで意外だったのは、ポワロさんのドラマは初回から人気が出たにも関わらず、デビッドさんはほとんどの場合、次のシリーズが撮影されるのかを気にしなければいけなかったことです。

ご家族がいらっしゃるので、次のシリーズがないなら、生計を立てるために他の仕事を受けなくてはいけません。でも続きについて制作局から回答がない・・・という場面が複数回あり、新聞の記事からドラマの打ち切りを知ったこともあったそうです。そのことを制作局に問い合わせても「一、二週間はあれこれ言い逃れをされるばかりで、はっきりとした回答はなかった」そう。でも結局は打ち切りは決定されていたようです。

この時の気持ちをデビッドさんは「決定そのものというより、その対応にがっかりした」そうですが、その後にこう書かれています。

私は自分自身に対しても、その決定について訊いてくる誰に対しても、「それがショービジネスというものだ。何事も永遠には続かない」と言えるだけのプロ意識があった。

その後ハリウッド映画の仕事でテロリストを演じ、舞台で(一見)愚かな役に深みを与え・・・とデビッドさんは常に自分の出来ることをされています。

新しいポワロさんドラマの話が次に出たのは、打ち切りの発表から5年後。それまでにデビッドさんはキャリアを磨き続けます。ポワロさんが当たり役だったとしても、デビッドさんの深い役作り、プロ意識がなければ、長年演じることは難しかったのではと思いました。

・おわりに:自分の仕事を顧みる

私がこの本に惹かれたのは、デビッドさんのお仕事のとらえ方が新鮮で勉強になったからです。

自分がやりたいのは「スター俳優」ではなく「性格俳優」であるとして、そのために作者が求める姿を演じる努力をされます。それがポワロさん役をはじめ、俳優としてデビッドさんが高い評価を受ける理由だと分かりました。

「重要なのは自分ではない」「重要なのは、幸運にも自分が演じることになったキャラクター」であると気付いたそうですが、私もそのタイプなのかなと感じました。

存在感のある同僚(スター俳優的な人?)と自分を比べて、もっと自分を出すべきかと迷う時があったのですが、私は自分がどうしたいかよりエンドユーザーがどうしたいか、それを叶えるために自分がどうすべきかを考えるタイプだと考えています。

それは「性格俳優」の仕事の仕方に似ているのかなと勝手に感じ、それを極めれば、仕事の成果も得られると希望が見えてきました。いずれにしろ、プロフェッショナルとして、本当に格好良い仕事をされてきたデビッドさんについて知れて、とてもワクワク・ほんわかする本でした。

細かな所はお伝え出来ないので、ご関心あれば是非お手に取って下さい~。