自由への旅路『ペルセポリス II マルジ、故郷に帰る』
『ペルセポリスI イランの少女マルジ』。の続刊です。
概要は以下の紹介の通りです。
1984年、マルジ14歳。彼女は学校に行くため、混迷するイランをはなれ、一人ウィーンで生活を始めた。思春期を迎えたマルジは、ありがちな“自由の落とし穴”にはまる。恋を知り、クスリに手をだし、路上生活まで経験してしまう。真に生きる意味を見出したマルジは、イランに帰る決意をする。そして結婚、やがて離婚。テレビやニュースではわからないイスラムの真実がここにある。
・・・正直、マルジさんが苦しむ姿が多く読むのが辛かったです。それは彼女がより自分にとって良い人生を選ぶために必要なことではあったのですが・・。
前回と同じように印象的な部分を書きます。
◆絵
相変わらず綺麗な構成と絵。ただ、1巻よりもより現実的な描写が増えたと思ったのは気のせいか主人公が大人になり考えがよりシビアになったからか・・・。
◆生活と政治
(前回のイラン)→オーストリア→イラン、のカルチャーショックの大きさは、凄まじいの一言。オーストリアでは文化の違いイラン人への差別に晒され傷つき怒り、ホームシックをずっと抱えて。文字通り心も体もボロボロになって帰ったイランでは更にひどくなった社会規範の締め付けにあって。
正直に自分の意見を言うマルジさんに、どちらの国でも反感を持ち排斥しようとする人々がいるのですが、たいていちゃんと人付き合いをして自分と合う人を見つけるところが本当に偉いと思います。
◆時代
マルジさんがオーストリアからイランへ帰った時は、イラン・イラク戦争が終わっていましたが、その影響は至る所に。(街の通りの名前が殉教者の名前を冠した誰々通りになっているなど)「抑圧された社会」という言葉がぴったりと来る生活、後半にこんなセリフが出てくるのも納得でした。「体制側はわかっているのだ。外出時の格好を気にする人間は・・もう疑問を持たなくなるのだ。」「当然だ。人は恐れると、分析や反省の分別をなくしてしまう」
◆イスラム教?
イランに帰ったマルジさんは服装の細かい点を批判され、恋人と出歩くこともあまり容易ではなく・・・(若い未婚のカップルが出歩くと革命委員会に連れて行かれ、鞭打ち刑を回避するため親が迎えに来て罰金を払うなど)
・・・ここまで書いてきて思ったのは、人々が従っている規範はイスラム教のものなのでしょうが、それは政府が国民を管理する事に利用されているのだなということです。時に呆れるようなものもあったり(例:彼女は大学で美術を学ぶが、男性モデルをデッサンしている時に生徒監督がいったことが「なぜこの男を見ているんだ?」「君が男性を見つめることは許されていない。それはモラルに反する」)。
マルジさんは本当に自分の信仰を大切にしていますが(1巻では特によく神様に話しかけています)、それを表す方法が体制側の言及する狭い手段に限定されないことを理解しています。
・・・ということで、マルジさんの自由への闘争があますことなく伝わる2巻でした。その成功の一つが、30ヵ国に翻訳されたという『ペルセポリス』だったのかなと。
彼女の勇敢さと努力に改めて敬意を表します。