鮮やかに展開する抒情詩『ペルセポリスI  イランの少女マルジ』

雑誌に紹介されていた絵がとても魅力的だったので手に取った、マルジャン・サトラピさんによる『ペルセポリスI  イランの少女マルジ』。読んでみると、イランの歴史、それを通して感じられる人間の生き方など本当に素晴らしかったので紹介します。

内容は以下紹介の通りです。

イスラーム革命、イラン・イラク戦争などのイラン激動の時代。主人公・マルジ6歳から14歳までの、死と隣り合わせの日常生活を、普通の少女の目線で描く。社会風刺とブラックユーモアがきいた、マルジ6歳から14歳までの自伝的グラフィックノベル。

自伝は作者の視点からの話である事(作者は一般的なイランの方よりも裕福かつ政治に精通した家庭のようです)に気をつけなければいけませんが、それでもなじみのなかったイランについて理解が進んだ気がします。印象的な様子を並べてみます。

◆絵
 1コマ1コマ、白と黒のコントラストが美しくて絵だけでも十分楽しめました。残酷/悲しいお話しの時も絵や構成は乱れず、一層感情が揺さぶられました。

◆生活と政治
 1979年のイスラーム革命が起きた後、彼女が経験をしたことを中心に話が進むのですが、普通の10代の生活(家族や友達との日常、淡い恋、両親への反抗)と並行して容赦なく悪化する情勢による非日常のコントラストが激しかったです。

特に辛いのが、政治によって迫害されたり家族と離れ離れになって精神的に痛めつけられた人々が、どんどん爆撃によって亡くなったり殺されたりすることです。そしてそれをなるべく幼い作者に隠そうとする両親(「殺されるため投獄されたのに、旅行中なのでいない」と言ったりする)の気遣いが悲しく・・・。
血も涙もない現実に対応する血の通った人びとが随所で際立っていました。

◆時代
 当時の国王(シャー)について家族で話す場面で、シャーの父親レザーがクーデターを企てたのは様々な国で「共和制の理想に燃えていた時代」と言うところです。1900年代を意味するのでしょうか、インドのガンジー、トルコのアタチュルクが例として出されます。

・・・無知な私は「共和制って何だっけ」と思ってしまったのですが、広辞苑によると「主権が国民にあり、国民の選んだ代表者たちが合議で政治を行う体制。国民が直接・間接の選挙で国の元首を選ぶことを原則とする」だそう。その反対が君主制です。現在イランの国名は「イラン・イスラム共和国」となっています。

◆イスラム教
 様々な場面で「イスラム教」の考え方や行動様式が描かれるので、興味深いです。そして情勢の変化によってその締め付けが厳しくなったりするので、服装が思想を表すサインとなったり。(女性のヴェール着用が義務付けられた後、前髪を少し見せることで体制に対する抵抗を示したり。男性はひげを剃るか口髭だけにすると原理主義と異なり進歩的とみなされていた等。イスラームでひげを剃るのは望ましくないそうです。)

などなど、色々な要素があり書ききれません。。

興味がある方は、以下のページで立ち読みが出来ますので、覗いてみて下さいませ。
http://www.basilico.co.jp/book/books/901784-66-8d.htm