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鮮やかなデザインと丁寧な人々 -「ソーイング・ビー3」

今回は私が毎週楽しみにしているテレビ番組「ソーイング・ビー3」について書きます。これは英BBCで放送された裁縫バトル番組「ソーイング・ビー」の日本語版 第3弾だそうです。

裁縫もこういうバトルものも苦手な私が、なぜ毎週見ているのか我ながら不思議でした。まあ理由は「面白いから!」となるのですが、その面白さがどこにあるのか掘り下げてみました。以下ではネタバレを最小限にするため、出場者の名前は書かずにご紹介します。(ちなみに第1弾・2弾を私は見ていないので、第3弾についてのみの感想です。)

1.概要

概要について以下ページから抜粋します。

英BBC・裁縫バトル番組「ソーイング・ビー」日本語版の第3弾。人気コメディアンが新司会者として登場!名人の座をかけた裁縫バトルをユーモアたっぷりに盛り上げる。 ▽イギリス全土から集められた裁縫自慢たちが腕を競い、厳しい審査を勝ち残ってチャンピオンの座を目指す▽参加するのは20代~80代の老若男女8人▽2回にわたり指定されたテーマに沿って3つの課題に挑む

バトル、ということで毎回テーマが指定されて順位がつけられます。そして、3つの課題毎の審査結果で、ソーイングルームを去る(番組から脱落する)1名が発表されます。
この番組のざっくりした印象を考えたところ、愛と尊敬と苦しみ、が思い浮かんだためその観点から以下書きます。

2.ソーイングへの愛

まず随所に出場者そして審査員の服作りへの愛情の深さを感じます。出されたテーマに対して自分の思い入れとイメージが明確になった時、出場者のイキイキ具合の高さは画面越しにびしびしと伝わってきます。

一方、審査員も出場者の完成させた服のデザインが工夫されていたり、上手く縫えていたりすると「すごい!」と賛美を惜しみません。逆にうまく縫えていないところは「ここは綺麗に裾を縫ってほしかった・・・。」と残念そうに言います。審査員としての発言という面もあると思うのですが、それ以上に気持ちが入っていて、布に対する愛のようなものを感じてしまいます。

3.互いへの尊敬

出場者同士、そして出場者と審査員(+司会者)同士がお互いに尊敬している感じが伝わってきて、随所でなごみます。ライバル心や嫉妬心が芽生えることもあると思うのですが、それを表面に出さず、お互い助け合ったり1位を取った人には拍手やお祝いを伝えたりします。

一番感動したのは、水着がテーマの回で、唯一水着を縫ったことがある出場者がみんなの質問に丁寧に答えていた場面でした。質問されることで縫う時間が削られたはずですが、その人は「みんなの役に立てて良かった。」とにっこり。すごく心があたたかくなりました。

また、脱落者に対してのコメントでは審査員がその出場者の良いところや残念ながら脱落となった理由を話すのですが、丁寧にその人の特徴を見ていたんだなーと思い、出場者への敬意を感じます。
このように終始大人同士の気遣いがあふれる場でとても安心して見ていられます。

また、何かを完成させることで出場者の自尊心が高まったのかな、と思う瞬間があるのも魅力です。難しいデザインや布地にチャレンジして上手く行かない人も多いのですが、無難なものにせずにチャレンジし、自分のイメージ通りの服を完成させた出場者の嬉しそうな顔を見ると私まで嬉しくなります。
そしてその上手く行った部分を審査員に褒められた時、ある人は涙目で「信じられない。うまく言葉が出ない。」と感無量にコメントしたり、ある人は「へっへっへっ!」と笑うのみだったりでした。

出場者はみんな全力を尽くしているように見えるのですが、完成度や評価はテーマによって異なり、毎回高い評価をもらう、という人はあまりいません。ただ、完成度と評価が高く、自分もそれを自覚した時、こんなに自分は出来るんだとコメントしたりしていて、何かを作ることが心に与える影響を感じます。

4.苦しみ

そんな出場者の皆さんですが、作る時は総じて大変そう、苦しそうです。テーマも難しいし制限時間も厳しいものが与えられていると思うのですが、縫いにくい生地に苦戦したり、複雑なパターンに時間がかかって焦ったりしています。

出場者はよく「こんなことしたら審査員に怒られちゃう」など審査員を気にするコメントをするのですが、審査員が認める完成品を目指すからこそ苦しいんだろうなーと思います。審査員の求める高い基準は、ひいては自分や自分の服を着る人の基準でもあると思うのです。デザインが良くて、縫い目もきれいで、着心地も抜群。そういう喜んでもらえる服を作りたい!と基準が高くなるからそれを達成しようとして苦しみも深まるのかなと思ったりしました。

5.順位が表すもの

番組で指定される時間制限や順位付け、一人が脱落するというルールは厳しいなと感じます。BBCは公共放送ではあるからそこまで激しくはないものの、やはりテレビはエンターテインメント性を高める必要があるんだな、と思ったり。その方が出場者が焦ったりして盛り上がりますもんね。

ただ、あるテーマの完成品が最下位だったからといって、その人の裁縫の技術が最低であるという意味ではないと思います。練習をすれば、もっと時間をかければ、1位になれる可能性もありますし。ただ、それを混在して、自分はダメだと落ち込む人もいて、それが悲しくなります。順位は指標に過ぎなくて、上位であるほどその服を着る人が喜ぶ可能性が高くなることを意味するに過ぎないと思うのです。

なので順位や脱落者が発表される際は私もそわそわして、最下位の人には「・・・残念だったね!でもデザイン案はすごく好きだったよ!」と話しかけ、第1位のひとには「良かったねーー!」と一緒に笑顔になります。脱落者を決める時、司会の人が「決めなきゃダメ?」と残念そうに言っていて、「私もそう思うー!!!」と、この司会の人がより好きになりました。

ただ厳しい制限の中だからこそ、自分の弱みや強みをより強く知れたり克服しようとする面もあるのかな、と思うようにもなりました。

6.おわりに

まさしく制作側の意図通り、番組の展開に一喜一憂しているわけですが、今まで考えたこともなかった服の作り方を知って、こんなに技と工夫があるんだなーとそれも面白く感じています。難しい専門用語はイラストで解説してくれますし、毎回カラフルな布やデザインが楽しく、裁縫に関心がない人にも分かりやすく作っているのだなと感じます

何にしろ私の一番の関心毎は出場者がこの番組を通して、たくさん技術を学んで、今後の幸せな(ソーイング)人生に活かしてもらうことです。我ながら余計なお世話だと思いますが、それくらい感情移入させてくれるこの番組をこれからも楽しみたいと思います。

余談ですが、この記事を書くにあたりソーイング・ビーで検索したところ、「ソーイング男子が番組愛を語る」をテーマで男性3人の鼎談が以下に載っていました。ソーイング・ビー2について話しているのですが、出場者同士の仲の良さが触れられていて「ですよね!」と思ったり、お裁縫をする人ならではの目の付け所を話されているのが面白かったです。

追記:決勝戦を見た後の感想も下の記事に書いています。