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ナイフはどこまで落ちるか(1)

最近は「落ちてくるナイフを掴むな」という格言を見ない日がありません。英語で探すと「don't try to catch a falling knife」がありますが、場合によっては素手でつかむな、掴むなら手袋をはめろ、といった亜種もあるようです。個人的には、単に掴むな、がいいと思っています。

直近の相場を見ながら、暗い見通しの論調は増えてきました。アリアンツのエラリアン氏のここ数日の解説は分かりやすいです。

難しい局面が続くのですが、今のナイフがどこまで落ちていくのかについては、ご紹介する2つの論考が参考になると思っています。漆黒の底を理解できると、分かることも多いためです。一回目はクレジットリスクの話です。

3月9日に、運用会社グッゲンハイムのマイナードCIOは、バタフライ・エフェクトと称したコラムを書き、話題になりました。日本語だとBloombergの要約がありますが、まさかと思われるような因果性で経済が連関する中で、特に原油価格や地政学のリスクが膨れ上がっており、その波及先として、例えばエネルギーや航空、宿泊、小売といったセクターの信用コストの高まりがが言及されています。様々なリスクが嫌気される結果、(米国の)10年物国債金利も年末には0.5%を切る一方で、(最近まで3%台であった)ハイイールド債のスプレッドが7.5%を上回ってくる見通しすらあります。

そのようなケースでは、企業の実態として問題がなくても、借り換えが不可能となってしまうリスクがあります。前の金融危機の際にもこのリスクは金融機関で顕在化し、それっぽい表現をするならソルベンシーの問題よりもリクイディティが問題だった、と言われました。今回は、金融機関に関する公的保護はより明確な線引きが行われ、資本も分厚くなっているため、借金の多い事業会社の負債に焦点が当たっていくこととなります。マイナード氏のエッセイでは、投資適格な債券が、ハイ・イールド化していく予備軍が1兆ドル相当あるとみています。また、不況シナリオではS&P500指数が2000ポイントに近づく可能性も述べています。同コラムを最後まで読むとチャーチルの引用が出てきます。

"This is not the end. It is not even the beginning of the end. But it is, perhaps, the end of the beginning."

これまでの株高を支えてきた一つの背景に、企業が借金をしてでの自社株買いがありました。これもまた、10年前の金融危機の打開策として、世界中で中央銀行が行ってきた金融緩和がこの動きを後押ししてきた中で、その効果を巻き戻す可能性があるともいえます。

このような話を総合すれば、原油・地政学・米中摩擦とかの影響は除くというずるい想定の下で、底の底として、多くの経済前提が10年前の状態まで戻る可能性があるといえるのかもしれません。一方で、救いとしてあるのはボルカールール等により銀行は厳しい規制に置かれるようになったので、その分だけ不確実性は抑えられている、という見方になるのだと思います。

次のコラムでは、もう一つの特徴である国債の膨張に触れたいと思います。

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