取り戻した保持と引き換えに…(福岡-清水まとめ)

結果は残念でしたが、前節の湘南戦に比べると安心した部分もあります。振り返ってみます。

フォーメーション

GK権田
DF原・立田・鈴木義宜・山原
MF白崎・ホナウド
MFピカチュウ・カルリーニョス・乾
FWサンタナ


FWルキアン・山岸
MF金森・前・中村・クルークス
DF志知・宮・グローリ・前嶋
GK村上

戦前の構図と立ち上がり

残りの試合を考えた時に、一番難しいのは今節の福岡戦だと考えていました。一般的には10月の川崎F戦や鹿島戦が難しいと思われそうですが、攻める時間を長くしようと前に出てきてくれるので、スペースを作りやすいメリットがあります。逆に福岡は公式戦7試合勝ちなしとはいえ、もともと4-4-2の3ラインが整った堅い守備と、奪ってからのシンプルな攻めが特徴です。しかも、8月以降はずっと連戦で調整する時間が取れていませんでしたが、清水戦を前にやっと1週間空きました。直接対決という位置づけでもあり、仕切り直しをしてハードワークしてくるだろうというのは想像がつく話でした。

なので、最初は押される展開になるのも覚悟の上でしたし、いきなりルキアンが宣戦布告かのごとく激しく来ましたが、良くなかったのはボランチのポジショニングです。松岡でなくホナウドを選んだのは福岡のパワーや高さに対抗するためだったとゼリカルド監督が話していますが、白崎が前に出た時にホナウドが中央におらず、福岡が蹴ってきたあとのセカンドボールを拾えませんでした。ルキアンが前で引っ張りながら、その手前に下りてくる山岸を捕まえ切れなかったですし、ボールを持った時も距離が離れていて、失ったところからゴールまで持っていかれる危険を感じる最初の10分でした。

早期の修正、イメージ通りの先制点

しかしながら、ルキアンのシュートが立田の後頭部を直撃して時間ができたところで、ゼリカルド監督がホナウドを呼び寄せ、ほかの選手たちも立ち位置を確認。そしてすぐ、ホナウドが中央の空間で引きつけてから右サイドを自ら突破してクロス、こぼれを自らフィニッシュして最初の決定機を作りました。ホナウドが中央にとどまるようになって、セカンドボールも拾えるようになりましたし、全体のバランスは改善したと思います。福岡の圧に呑み込まれる前に落ち着きを取り戻せたのは良かったです。

福岡は2トップとサイドハーフの4人がパスコースを切るように迫ってくるので、焦れて前にパスを供給すると奪われるリスクがありますが、サイドにボールを運んで詰まったとしても、中央の権田やホナウドを交えながらやり直す意識はあり、湘南戦に比べれば我慢強く動かせていたと思います。例えば右サイドで言うと、福岡は左SHに走れる金森を使ってきましたので、おそらく原が定位置でボールを持った時にプレッシャーを掛ければ回収できるという判断があったと思いますし、実際に原がタッチライン際で持っても少しの迷いで奪われるシーンは散見しました。ここは継続課題です。でも途中から、原が金森や左ボランチの前をけん制しようと彼らの背中に入り込んで、ピカチュウを下ろす、あるいは白崎を下ろして相手を迷わせるように工夫し始め、立田が右にも出せるし中にも出せるという状況を作れたのは悪くありません。左サイドでは乾が中に入って福岡の右SB前嶋を揺さぶって、山原が左サイドで前進しやすい状況を作り始めました。このビルドアップを見て、ひとまず湘南戦のようなことは起きないと確信できました。

そして29分に先制に成功します。ホナウドが鈴木義宜と立田の間に下りて左へ展開し、福岡の右SHクルークスのスライドが遅いのを利用して、乾が内側の山原を使おうとしたところでクルークスに当たるも、それが前に転がってサンタナと山原が結果的にワンツーするような形に。前嶋が乾のマークに出ていたので山原にはCBのグローリが出ていくことになり、ゴール前のディフェンスが手薄なのを察知した山原は、右足に持ち替えてすかさずクロスを供給。そのまま吸い込まれて山原のゴールにはなりましたが、ニアのカルリーニョス、中央のピカチュウと、それぞれ相手の前にしっかり走り込んでいて、GKの村上が出られないようになっていました。自陣から組み立てて、イメージの共有ができてゴールまで行けたと捉えて良い場面でしょう。

よもやの連続失点

自分たちがボールを持ってコントロールでき、福岡が得意とする肉弾戦でも根負けせずに頑張っていましたので、あと怖いのはボールを奪われた後のカウンターとセットプレーだけです。先制点を取る前に、カルリーニョスまでスムーズに運べたあとに逆襲を食らい、ルキアンに背後へ走られたシーン以外、これといって脅威には感じていませんでしたが、36分に中村の直接FKで追いつかれてしまいました。これはもうペナルティーエリアの手前でファウルをしてはいけないという典型例だと思いますし、そもそも最初のFKをクリアして、乾が自陣から持ち出せそうなところでサンタナへのパスをカットされたのが痛恨でした。時間帯や場所を考えた時、スキを見せないのが大事というのを思い知らされる場面でした。

それでも1-1で折り返せれば悪くなかったですが、息を吹き返した福岡が再び圧を強めた42分、ホナウドがルキアンのプレスバックに遭ってボールを失い、カウンターからCKを献上。志知が肩に当てたボールがファーサイドで待つ山岸へこぼれ、左足で押し込まれてしまいました。最初はオフサイド判定でしたが、奥で白崎が残っていましたので、VARで覆るのは仕方ありません。キッカーのクルークスは左利きですのでゴールから遠ざかるボールになります。ファーサイドに蹴られたところで福岡の選手4人が散らばって、中村がゴールと反対方向に離れていきましたので、ボールの雲行き的にも原は中村を見ようと山岸から離れざるを得ません。山岸が大外で余るというのはおそらくデザインされたもので、鈴木義宜が弾けなかった時点で負けでした。まんまとやられました。福岡が逆転したのは今季初ですので、普段起こらないことを起こしてしまったと言えます。

後半はリードした福岡が守ってカウンターの色を濃くする、であれば清水は辛抱強くボールを握ってカウンターをさせず、ボールを奪いに来たスキを突けるかが問われました。しかし、あっさり3点目を献上したのはいただけないです。ルキアンと原が競り合う状態になったマッチアップのアンバランスさもありますが、カバーしていたホナウドが簡単に山岸と入れ替わってしまったのが良くなかったですし、ピカチュウも全速力でカバーしてほしいところでした。福岡は立田が競りに出た裏のスペースを狙っていたフシがあり、普段は右サイドで張って待つクルークスが斜めのランニングで鈴木義宜を釣り出して、山岸の走るコースを空けていましたので、対清水でトレーニングしていたのではないかと思います。63分にも、オフサイドにはなりましたが同じシーンを作られましたので、対策が必要だと思います。

ビハインドも焦らず前進

これで苦しい状況にはなりましたが、福岡も最近は勝てていませんし、4点目を狙うほど強気にいけるシチュエーションではなかったので、徐々に圧力を掛けられなくなって逃げ切り態勢に入るのは自然な流れでした。清水としては引いてくる相手をどう崩すのかという、広島戦で数的優位に立ってからの時間帯と同じ状況になったと思いますが、解決策として、原が前半以上に中へ入り込む回数を増やし、白崎とピカチュウとのローテーションを盛んに行っていました。福岡も金森がどう守ればいいか迷っていましたので、強気で動かせたのは良かったと思います。

56分には左から乾が絡んできて右サイドに人を溜め、引っ張り出した先にホナウドがCB-SB間に進入してCKを獲得するなど圧を強めると、58分にPKを獲得。最初に2トップ間で受けてピタッと止まって相手の脚を止めたのも白崎なら、バイタルエリアで原が絡んだあとに左の山原へ展開したのも白崎ですし、相手がラインコントロールした瞬間に原やホナウドの飛び出しを活かそうと配給したのも白崎でした。いかにこの18番がチームを司っているか分かりますが、決して苦し紛れにボールを動かしたわけではなく、相手の状況を見ながら逆を取っていき、原が左に流れていく動きをしたことで福岡の中村はついていこうか迷い、でもホナウドも出てきて、マークの受け渡しが不完全で焦ったからこそ手を出したと思います。サンタナがPKを決めたのは意外にも初みたいですね。

その後も白崎と原のポジションチェンジ、ホナウドの飛び出しも続行。65分にはライン間に下りたカルリーニョスを確認した山原が足元へ入れて相手を釣りだし、バランスが崩れて白崎にアプローチできず、サンタナのキープからホナウド、カルリーニョスのシュートと惜しいところまで行っています。揺さぶることはできていましたので、あとはクロスにしてもシュートにしても精度を高めるしかない状況です。

わずかに間に合わず逃げ切り許す

そこでさらに活性化を図るべく、70分に中山と鈴木唯人を投入。左へ回ったカルリーニョスは乾と同じ、中山もピカチュウと同じ動き方で、サイドの役割はハッキリしていたと思いますが、PKを奪ったシーンのように背後の意識が高かった分、手前で受けたい鈴木唯人になかなかボールが入らなかった印象で、そこは課題が残りました。80分にカルリーニョスに代えて北川を入れ、鈴木唯人を左へ回したのは、下りてくる動きを活用したかったのかなと。また、福岡がポジションチェンジに左右されず割り切ってきそうな時間帯に入ったところで原に代えて岸本を起用し、右サイドは縦に仕掛けられる2人を置いて勝負。動きが被らないか不安でしたが、中山がライン間で受けて岸本が大外という立ち位置の整理はされているようで安心しました。

83分には立田が前のスペースを確認して自ら持ち出して山原にスルーパス、クロスにサンタナが合わせられれば1点。そしてCKが続き、中山の決定的なボレーが生まれます。山原がCKを蹴る前に、鈴木義宜が中山に話しかけていて、おそらく「スペースが生まれるからここにいろ」という感じだったと思いますが、立田がニアに走って1人引き連れ、そこにできたスペースに鈴木義宜が走り、サンタナはファーに走って1人引き連れ、中山がフリーになるように仕立て上げていました。とっておきの形だったはずで、シュートも良かっただけに、サンタナが慰めるのも分かるシーンでした。

さらに90+1分、大外で待つ岸本を利用して中山が内側を走って立田からパスを引き出し、スピードを活かして仕掛けてクロス、ニアに北川、奥にサンタナがいて、手前の鈴木唯人に合わせれば1点という理想的な形でしたが精度を欠きます。90+3分にもまた立田から山原へスルーパスが出て、深い位置を取ってクロスまでいくもホナウドに合わせ切れず。湘南戦の清水ではありませんが、福岡は耐えるだけになっており、でもベタ引きになるのを嫌ってか5バックにするようなこともなく、清水はその恩恵でスペースを突けていただけに、あと一息だったのは間違いありません。最後は福岡に時間を使われてVAR交信が入り、プレーが数分止まったことで流れが切れてしまいました。

まとめ

自陣で失ってFKを与えた1失点目、敵陣で失った流れからのカウンターでCKを与えた2失点目、自陣で簡単に潜り込まれた3失点目。いずれも自分たちがエラーを起こしたスキを突かれてのもので、それがそのまま福岡のストロングポイントを発揮させることにつながってしまいました。これが、福岡にボールを持たせるような戦い方だったら逆のことを起こせたかもしれないですが、今の清水はボールを持って主導権を握ろうとしているチームですので、戦術的な相性が悪いのは確かです。7月、8月と段階を追って攻守に安定感を高めてきましたが、ここはもう一度、手綱を締めるタイミングなのだと思います。

その一方で、福岡のような堅実なスタイルに対して2点を奪い、追いつけそうなチャンスを何度も作れたことは悲観するものではありません。ビハインドになっても、自分たちがボールを持っていれば何かを起こせるんだと信じて戦っている様子は、近年の清水にはないもの。それも湘南戦のようにしんどい戦いをした次のゲームで、攻撃の組み立て方を取り戻せたことが、最大の収穫なのではないかと思います。この姿勢を保ったまま、状況に応じたプレー選択の質を上げ、ミスが起きてもカバーするという細部の詰めができれば、おそらくどういう相手にも良い試合はできると思います。次は静岡ダービーで、勝ちしか要らない試合になるのは分かり切っていますが、そういう試合を前に思い出せたことがあるのは良いことじゃないかと思います。10月を良い月にするために、この2週間でディテールを詰めて、必勝戦に臨んでもらいたいと思います。

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