“攻守に主導権”へ立ち返れ(清水-湘南まとめ)

内容からいけば勝点1を拾ったのは湘南ではなく清水、言い換えれば勝点2を失ったのは清水でなく湘南でした。そういうことも踏まえて振り返ります。

フォーメーション

GK権田
DF原・立田・鈴木義宜・山原
MF白崎・松岡
MFピカチュウ・カルリーニョス・乾
FWサンタナ


FW阿部・町野
MF平岡・茨田・タリク
DF中野・杉岡・大野・岡本・石原
GK谷

ガチガチの序盤とワンチャンス

おさらいとして、前節は広島ときっ抗した試合を繰り広げることができましたので、悔しい敗戦の後でも自信が揺らぐ心配はしていませんでしたし、ボールを握ることも、我慢することもできるようになってきた今は、質を上げることに目を向けられる期待はありました。ただし、今回は湘南が川崎Fや横浜FMという高強度のチームとの連戦から中2日。逆に清水は中6日で体力面のアドバンテージがあり、勝点がほぼ同じライバルをホームで倒すのはマストだという空気ができてしまっていたと思います。その空気は現場が一番分かっていたはずで、勝たなければならないプレッシャーから硬くなる可能性もあると思っていましたし、まして残り試合が少なくなったこの時期は、コンディションの差は簡単に埋まるものだとも思います。それに関係なく、“自分たちのサッカー”を押し出せるようになった時に初めて“成熟したチーム”と言えるのだと思いますが、今はまだ3ヶ月だということを思い知ることになります。

キックオフから、硬かったですね。湘南の日程と清水ベンチのコマを考え後半勝負というプランだった可能性も否定はできませんが……まずセーフティーにサンタナへ長いボールを蹴り込み、そこは当然のように湘南の大野が厳しいマークで自由を与えず。中盤の攻防でも白崎が良い形で奪ったかと思えば、ピカチュウがタリクに奪い返されるなど、攻守が頻繁に入れ替わる状況で、どちらもゴール前に詰め寄るというよりは来られたくないという意識の強い立ち上がりに。清水は重心を下げていて、むやみにボールに食いつかず、それによって相手にボールを動かされていました。

素直にボールを動かすだけでリズムをつかめない中、12分にワンチャンスで先制します。これも山原のサイドチェンジが町野にぶつかった時点でうまくいかなかったのですが、そのクリアが前方に流れた時、湘南は誰がそのボールに行くのか一瞬迷いが出て、拾った白崎がすかさずヒールで出して、サンタナの左足が火を噴きました。サンタナのコメントによれば、本当は白崎が飛び出す動きを狙っていたそうですので、とっさの判断で2人の動きがリンクしたのは見事でした。

ボール握れず、驚きの選択

この1点で体がほぐれるかなと期待を持ったのですが、その後もいつものテンポが出ません。そもそも全体の重心が下がった状態だと、カウンターに出ていくパワーはいつも以上に必要で、サンタナも全部は収められませんので、ならばボールを動かして、奪いに来た相手の背中を取る作業を丁寧にやる必要がありました。ただ、17分にいつもなら山原が自分で持ち出せそうな場面でもパスを出して乾に届かなかったり、なんとかカルリーニョスが下がってきて右に脱出しても左サイドに局面を変えるのが遅かったり……。解説の水沼さんが立田に「判断をもっと早く」と言っていましたが、全体的に立ち位置を取るのが遅れていて、でも彼自身はフィードに持ち出しに自信にあふれている状態で前に配給したいので、かみ合わないということだったのかなと思います。

なんとかしようとしていたのが右SBの原です。21分、サンタナがキープして原が受けて左に持ち出し、山原を使って原がそのまま左サイドで追い越してクロスまでいくという珍しいシーン。26分、今度は原がセンターサークルまで入り込んで相手を引っ張って右サイドを空け、立田と白崎を前に押し出し、引き取った原から松岡へのパスがズレなければビルドアップできたシーン。こういうひと工夫が出てくると相手を幻惑できますし、自分たちからポジションを変えていく勇気も出てきます。これでピカチュウと白崎の動きに流動性が出てくるかなという雰囲気もあったのですが、前に前に行こうとしすぎていてリズムに変化が生まれず、35分に原が定位置でプレッシャーを受けてピカチュウに配給できず、イラ立ちを隠せない顔が映っていました。ボールを握ることができていない証左です。

湘南も清水のビルドアップに対して人を当てて奪うところまではできても、ボールの動かし方にテンポが出てこず、左ボランチの平岡がCBとSBの間(いわゆるハーフスペース)に飛び出しても清水側が対応できるような状態だったのですが、38分に白崎が前に出た背後で町野にロングボールを収められた流れから平岡にミドルを打たれると、41分、スローインからセカンドボールを拾われ、また白崎が出たスペースで町野に収められてしまい、石原から斜めにクサビを通された流れから阿部に決定的なシュートを打たれます。権田が止めてくれましたが、いわゆる“門を通させない守備”ができず、間、間を使われてしまいました。

するとその直後に、それまで湘南のアンカー茨田を見ていたカルリーニョスが右サイドに移動し、5-4-1でブロックを組み始めました。前半終了間際に思い切ったシステム変更です。

GK権田
DFピカチュウ・原・立田・鈴木義宜・山原
MFカルリーニョス・白崎・松岡・乾
FWサンタナ

前半のラストに湘南の3バック右の岡本がエリア内に入ってきてシュートを打ったのは、この配置変更で前に出やすくなったのが関係しています。ピカチュウとカルリーニョスが平然と対応していたのを見ると、オプションとして準備していた可能性が高いですが、清水が苦手とするハーフスペースを原と鈴木義宜で埋めて、ワイドも山原が石原を、ピカチュウが中野を見るようハッキリさせました。意図は分かりますが、異例の対応でリスク管理をしたくなるくらい、うまくいっていない前半だったと見るべきでしょう。

強まる湘南の矢印

後半も守備時5-4-1は継続。ビルドアップについては、乾がワイドに張らず中央のレーンに立ち位置を変えていました。これは負担の大きいサンタナのサポート、原とピカチュウが寸断されていたところのクッション役の意味があったと思われ、52分にピカチュウがエリア内で倒されてPKをアピールしたシーンも乾がラストパスを出しています。それが功を奏せば、前半特に窮屈だった山原が上がるスペースを作れて解放できるという狙いもあったんだと思いますが、湘南は清水の変化に釣られることなく、山原をつぶすことが清水の攻撃を封じることにつながると分かっていたようで、石原が一発目でつぶしてショートカウンターを発動。サンタナから山原に展開するコースもタリクに切られていました。

そして49分、鈴木義宜が内側に持ち出したところで一瞬迷ったスキを突かれてボールを失う危機が訪れるも、町野がパスを選択して松岡と原がよく戻り、窮地をしのぎます。確かにフィールドプレーヤーはつかまれていたものの、後ろには権田がポジションを取り直して待っていましたので、シンプルに下げてやり直すで良かったと思うのですが、この試合は湘南の前への矢印を折るどころか、逆にその矢印を太くする判断ミスが目に付きました。57分にも松岡が高い位置でサポートするも、内側を走っていく山原の動きを使わずロスト、その背後を突かれて鈴木義宜が町野に置いていかれました。権田が冷静だから防げますが、1-0でリードしているのに一番やっちゃダメなシーンです。

湘南はサンタナに食らいついていた大野のアクシデントがあり、3バックの中央ができる石原が山原とのマッチアップを考えると動かせないという中で、山本をそのまま使ってきましたので、サンタナとのマッチアップで質的優位を作れそうでしたが、いつになくサンタナが疲弊していました。守備時5-4-1だと山本とアンカーの茨田2人をサンタナ1人で見なければならず、配給できる茨田がフリーになる場面も散見し、茨田を消そうとすれば後ろに重くなるのはやむを得ません。湘南は5-4-1攻略へ、左WBの中野がカットインしたり裏に配給したり、清水の最終ラインの手前と裏を自在に使い分けてきており、かなり押せ押せです。

土俵際で踏ん張るも…

そこで66分にホナウドと中山を投入して中盤の強度を高め、こうなりました。

GK権田
DFピカチュウ・原・立田・鈴木義宜・山原
MF中山・ホナウド・松岡・白崎
FWサンタナ

中山は攻撃においてはFWの役回りとはいえ、守備時5-4-1の右シャドーなので妥当な人選です。ただ、ここまで押し込まれているのはボールを持てていないからなので、今回は鈴木唯人を入れて時間を作ってもらうという選択肢もあって良かったかもしれません。しかし、現状では引いた相手に対しての切り札扱いと見られ、かつシャドーに入れるのは守備組織にヒビを入れる可能性があったので、見送られるのも理解できます。

その後もビルドアップは改善せず。ハーフスペースを埋めている原が良い形でボールを取った後、自分で持ち運んで打開策を示すも中山と息が合わず。守備時5バックから攻撃時4バックへの変化に不慣れさが否めず、ゼリカルド監督は76分、山原とサンタナを下げて片山とコロリを投入して割り切りました。

GK権田
DFピカチュウ・原・立田・鈴木義宜・片山
MF中山・ホナウド・松岡・白崎
FWコロリ

5バックにした時点でこういう展開になることをどこまで想定していたかで評価は変わると思います。この試合は勝てばいいと踏んだように見えますが、蹴って走ってを繰り返すしかない状態は苦しいです。誰かが落ち着かせてボールをキープするように促したかったですが、「このまま行くぞ」という覚悟みたいなものを感じました。

79分、白崎がキープできなかった流れから山田のミドル。直後のCKではサンタナ交代後で山本に間に入られてヘディング。90分、松岡のクリアが短くなってつながれて最後は池田のミドル。90+4分、クリアするので精いっぱいで拾われ続けて山本の折り返しに岡本→ウェリントン合わず。そして、とうとう逃げ切るのかというラストワンプレーで、茨田の浮き球からウェリントンに叩き込まれてしまいました。アイスタではいつもウェリントンですよね。このシーンだけ切り取ると、湘南の右ボランチ池田が、片山と鈴木義宜の間にできたスペースに走って手前を空けています。清水はその池田に対して松岡が対応しにいこうとしましたが、スクランブルで白崎がついていったので2人とも下がる状況になり、茨田に寄せられませんでした。厳しいことを言えば、広島戦の最初の失点に続いて受け渡しが不完全だったということにはなります。

しかし、跳ね返す作業にこれ以上を求めるのは酷です。振り返れば柏戦、京都戦、湘南戦と、いずれも1-0でリードして終盤にヒヤヒヤという展開は同じで、追いつかれた2試合の失点が最後の最後だったから“逃げ切れなかった”というイメージがつきまといますが、それまで本当によく耐えています。時間を追うごとにボールを持てなくなり、前に急ぎすぎて後ろに負担を強いるという傾向は最近の試合でも見られていました。それがこの試合は前半からでしたから、耐えるのがしんどいのは当然です。勝利への執着心が増したことは評価できますが、我慢強くなったことが“劣勢でもいい”というふうに舵を切らせているとしたら、意識を変えないといけません。また、交代枠を1つ余らせたのは、白崎をピッチに残したオーガナイズを優先したのだと思いますが、とにかく少しでも時間を稼ぎたかったので、鈴木唯人でも北川でも常に出せるように準備しておくべきだったのと、それまでの交代も1人ずつにするなど対処の仕方はあったと思います。

まとめ

ゼリカルド監督が来てから最も悪い試合だったのは間違いないですが、いずれは壁にぶち当たるものなので、それがここで来たかという感じはしました。なのに連敗を回避して勝点1を積み上げましたので、正直まだ追い風と言えます。清水は攻守に主導権を握るチームのはずです。このところアタッカー陣が揃い、どこからでも突撃できる分、前のめりになりすぎました。そこを微調整して、じっくりボールを握ることに回帰できれば、心配は要らないと僕は思っています。次節はまた勝点の近い同士で連敗中の相手というシチュエーションですが、スペースを与えてくれない福岡が相手ということは、それだけ前のめりになるのは危険ということなので、課題を見つめ直せたかを見極める試合になると思います。コンセプトの体現が、勝点3への近道です。

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