紙一重の攻防(名古屋-清水まとめ)

清水サイドからすれば、喉から手が出るほど欲しかった勝点3ですので、今日はホッとしたいところですが、勝つべくして勝ったのか?と言うとそうではなく、ちょっとしたことで逆のスコアになっていてもおかしくありませんでした。個人的に長谷川健太監督率いる名古屋の試合もすべて観ている中で、清水がボールを保持しながら進む展開になるだろうという推測はついたのですが、結局はどちらにゴールが生まれるかなので、その点で言うと紙一重だったと思います。

まず前提として、名古屋が怪我人の多さに加え、おそらくコロナの影響で、登録18人に入れたいはずの選手が何人か欠けており、湘南への移籍が決まった阿部や、2種登録したばかりの貴田をベンチに入れざるを得ない台所事情でした。なので、途中から交代策でパワーアップするのは現実的ではなく、どうしても先に点を取らなければならなかったはずです。

なので、立ち上がりにフルスロットルで来るのは当然ですが、清水は悪い癖でそれを受けてしまいました。開始1分、マテウスが仕掛けてペナルティーエリア内でキープして、下げたパスにレオシルバのミドルがクロスバーを直撃。3分、名古屋の右CB中谷がボールを持った時、右WBの森下が幅を取っていて、そこに山原がつかないといけないので、その裏である右奥へマテウスに走られてパスが通り、鈴木義宜が釣り出された状態でクロスに柿谷のヘディング。17分にも、カウンターを受けた時に宮本・白崎・神谷の3人とも上がっていて、中央で柿谷がフリーになっており、マテウス→柿谷であっさり最終ラインを破られたのですが、枠外で救われました。

いずれのシーンも、これまで再三にわたって指摘しているラインの上げ下げが追いついておらず、失点の危険性は高かったと思います。また、決定機まで至らなかったシーンを含めてですが、名古屋は中谷が高い位置に持ち出した時に中央へのパスを差し込みやすい状態になっていて、清水は早くスライドして中を閉めないといけませんでしたが、できていたとは言い難いです。結果だけ見ると忘れがちですが、失点ゼロはラッキーだったと捉えたいです。

清水の決定機は5分、山原が左サイドから中に運んだ時、右サイドの西澤が内側から縦に抜ける動きをして相馬を引っ張り、大外の片山をフリーにしてクロス。カルリーニョスが押し込めなかったのは残念ですが、名古屋の3人のCBに対してニアで西澤、中央でサンタナ、ファーでカルリーニョスとしっかり散らばって相手の前に入れていたので、練習している形なのかなと思いました。

このワンシーンから、ジワジワと清水がボールを握る展開にはなりました。名古屋はできるだけ高い位置でボールを奪いたかったはずですが、清水は各選手が意図的に低い位置に立ち、名古屋が前に来る力を利用しながらパスを回して、中→外→中とじっくり動かしながら前進。名古屋はスペースを空けたくないので徐々に下がっていきました。そうすると前に出るには余計にパワーを使うので、なかなかスイッチが入りません。名古屋は、清水のビルドアップで宮本が中央に残る時に柿谷をつけていましたが、マテウスと柿谷が縦関係になれば、原や鈴木義宜は前にボールを運びやすいので、このあたりは健太さんもベンチで悩みながら見ていたかもしれません。

先制点は38分ですが、これも名古屋がスローインの流れから素早く攻め、それを権田がセーブして逆襲という紙一重の展開。全体が素早く切り替えて、宮本→神谷→カルリーニョスで左サイドを突破し、名古屋の戻りが間に合わない中で神谷とサンタナが左右に立って相手DFを引っ張って、真ん中にスペースを空けて、そこに西澤が走り込んで右隅に決め切りました。神戸戦で物足りなさが残った西澤がしっかり回答しただけでなく、わずかな時間でもみんながしっかり画を描いて取った良いゴールでした。

後半に入り、まず47分、鈴木義宜のインターセプトからサンタナ→カルリーニョスと渡って西澤が左足で巻いたシュートがポストを直撃したシーン。まさに「こういうのを決めておかないと…」になり得る絶好機でしたが、前半に原がインターセプトからミドルを打った場面を含め、CBが狙いをもって高い位置で奪えています。それは自分たちがボールを持ってコントロールしているがゆえに、準備をしやすくなっているということで、試合を重ねるごとに余裕が生まれつつあるのは継続の賜物だと思います。

逆に1分後、名古屋は右サイドで森下がワンツーで抜けて、クロスを権田が弾いた後、稲垣がたたきつけて決めるもオフサイド。判定は神戸戦とよく似た微妙なシーンだったので、ここまでくると運の要素が強いですが、やっぱり深い位置まで入られた時に全体が下がって、手前が空いてしまいました。まだ課題は継続中です。

名古屋は前半と違ってプレスの位置を高くし、片山や山原には仙頭や稲垣がしっかり行くように徹底し、ビルドアップの時はレオシルバの横に稲垣が立って、片方がマークされたらもう片方を使って脱出するようにしていました。スコアも0-1だったので、名古屋が押し返す時間を作るのは自然なことです。

粘り強く耐えつつも、試合運びが問われた清水は66分、コロリと同時に負傷明けのホナウドを投入。苦手としているバイタルエリアの管理を宮本とホナウドに託し、白崎には1つ前で仕事をしてもらうほうに舵を切りました。ですが、ここで名古屋は狭いスペースでも仕事ができる阿部の登場です。71分には左サイドのスローインをクイックで始めて、阿部の絶妙なクロスに中谷がコースを変えてポストに当てる決定機。73分にも阿部が抜け出してワンタッチでマテウスに落とし、最後は内田という惜しい場面を作ってきました。追いつかれても全くおかしくありません。

そしていよいよ、11失点も喫している“魔の時間帯”ラスト15分に入ったところで、ゼリカルド監督は井林を入れて5バックにする新たなオプションを見せます。今日の相手は3バックで両ワイドに森下と相馬が広がっていたので、両方上がってくると前が5枚になります。それを5人でしっかり受けようということで、もちろん時間が早すぎる可能性はありましたが、驚くような手の打ち方ではなかったと思います。

そこからベンチワークが白熱。名古屋が吉田豊を3バックの左に入れ、同数で守りながら攻撃に厚みを加えようとすると、清水ベンチは右サイドに位置を変えていたコロリの負傷を受け、ゼリカルド体制になって初めてベンチに入れていた岸本を投入。ならば清水がもう前に出てこないと判断した名古屋ベンチは、後ろを1枚削って中谷を前線に上げるパワープレーを開始しますが、直後に岸本が右サイドを抜けて吉田豊の背後を取り、DOGSOでレッドカードを引き出す大仕事をしました。これも、この時間になっても的確なポストワークをするサンタナと、ホナウドが冷静に右奥へスルーパスを出したという一連の流れが生んだものです。

とはいえ1点差でスクランブル状態なら何が起こるか分かりませんが、この日は出し尽くして終わろうという選手たちの気概がにじみ出るラストで、山原が左サイドで猛然と運んでいったシーンは感動ものでした。そして最後に片山のワンタッチパスから岸本→サンタナで豪快な一撃が決まり、フィナーレとなりました。

今日は局面局面でどっちに転ぶかというのがすごく多かった中、清水に転がった試合でした。守備面の課題がいきなり克服されたわけではないです。でも、鈴木義宜にしろ、原にしろ、今日こそは我慢強く食らいつこうという姿勢は見えました。それが過度に意識しなくてもできるようになるまで、やり続けるしかありません。

あと気になるのは、ここ2試合で先発したカルリーニョスはイージーなロストなどパフォーマンスが上がり切っておらず、かつ負傷して、その代役になり得るコロリも痛めてしまいました。コロナ陽性1人と発表されており、離脱者は増えるかもしれません。でも、今日の1勝は「なんとしてもこの戦い方で強くなるぞ」というチーム全体の意思があるからこそつかめたものだと思うので、進むべき道は明るいと思います。ゲームをコントロールすることができつつあるので、このままいきましょう。

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