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黒川検事長の賭け麻雀に関する処分は妥当ですか?

「社員と黒川検事長らがこの3年間に月に2、3回程度マージャンをし1回の勝ち負けは1人当たり数千円から2万円くらいだった」(朝日新聞の調査結果)ということです。テンピン(1000点100円)レートでの賭け麻雀をしたにもかかわらず、黒川検事長は、賭博罪に問われることもなく、国家公務員法上の懲戒処分も受けませんでしたこれが、制度に照らして妥当かどうかを考えることにします。

賭博罪に該当するかどうか

麻雀を知らない人もいると思いますので、少し説明します。いろんな方法がありますが、25000点持ち30000点返しが一般的ですかね。そうすると、ドボンありルール(だれかが0点になった段階で半荘(1ゲーム)終了)だと、ハコテン(0点になった人)で3000円の支払いになります。2万円負けるには、6.6回ハコテンにならないといけません。どんなに弱いのか。早回しで半荘30分として、6.6回やるには、3時間20分かかります。ただ、一人勝ちすれば、2万円入ることはあるかも。また、1枚500円のチップを使ったり、差し馬(ふたりで勝ち負けを別途争うこと)を握ったりすれば、もっとお金が動くかも。

さて、テンピン(1000点100円)の賭け麻雀が賭博に当たらないという解釈が、過去の閣議決定に反しているという指摘がされているところです。指摘されている閣議決定は、質問主意書への答弁です。国会法74条に、国会議員が単独で内閣に文書で質問する仕組みがあって、これを質問主意書といいます。質問主意書の回答は、内閣法制局審査を経て、原則7日以内に閣議決定しなければならないので、霞ヶ関の役人は質問主意書が出されることを大変いやがります。わたしが役人をやっていた当時(20年以上前)も質問主意書が当たるとさらに残業が増えるので、大変いやでした。

過去の質問主意書は、衆議院ホームページ、参議院ホームページの「質問主意書」の項目から、国会の会期ごとにみることができます。

該当する質問主意書は、鈴木宗男議員によるものです。それも、安倍晋三総理大臣のときの閣議決定ということです。閣議決定文書は、すべての大臣が同意するもので、内閣としての最も権威のある文書です。ただ、原文をみると言い逃れができそうな内容になっています。

外務省職員による賭博に関する質問主意書 提出者 鈴木宗男(平成十八年十二月八日提出)
一 「週刊金曜日」(株式会社金曜日)二〇〇六年十二月八日号の投書欄に、「出向で三年間だけ外交官を務めた」大学教員の広川孝司氏による投書が掲載され、そこに、「外務省内の隠語での『社会党レート』は、あのころあった政党とは無関係で、馬鹿高い『自民党レート』ではない、一般『社会』の相場という意味です。」という記述があることを外務省は承知しているか。
二 外務省職員が在外公館で「自民党レート」という高額なレートでの賭け麻雀を行ったという事例があるか。
三 賭博の定義如何。
四 賭け麻雀は賭博に該当するか。
五 賭けルーレットは賭博に該当するか。
六 外務省在外職員は賭博に従事することが認められているか。認められているとするならば、その法令上の根拠を明らかにされたい。
 右質問する。
衆議院議員鈴木宗男君提出外務省職員による賭博に関する質問に対する答弁書(平成十八年十二月十九日)
一について 外務省として、御指摘の記述があることは承知している。
二について 外務省において保管されている文書からは、お尋ねについて確認することはできなかった。
三について 刑法(明治四十年法律第四十五号)において、「賭博」とは、偶然の事実によって財物の得喪を争うことをいう。
四及び五について 一時の娯楽に供する物を賭けた場合を除き、財物を賭けて麻雀又はいわゆるルーレット・ゲームを行い、その得喪を争うときは、刑法の賭博罪が成立し得るものと考えられる。
六について 一般論として申し上げれば、一般職の国家公務員が賭博を行うことは、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第九十九条に規定される信用失墜行為に該当する可能性があるものと考えられ、同条の規定は、外務公務員法(昭和二十七年法律第四十一号)第三条及び第四条第一項の規定により、外務省の在外職員にも適用又は準用される。なお、刑法の賭博罪には国外犯処罰規定がなく、日本国外において賭博を行うことが処罰の対象となるか否かについては、行為地の法令に則して判断されるべきものである。

「自民党レート」が気になりますが、「賭け麻雀は賭博に当たるのか」という鈴木宗男議員の質問に対して、安倍内閣は「一時の娯楽に供する物を賭けた場合を除き、財物を賭けて麻雀又はいわゆるルーレット・ゲームを行い、その得喪を争うときは、刑法の賭博罪が成立し得るものと考えられる。」と答弁しています。この答弁に従えば、昼ご飯を賭けて麻雀を行うのは賭博ではないです。じゃあ、金銭を賭けて麻雀を行うのは賭博罪が成立すると断言してません。言い逃れとしては、「成立し得る」という答弁で「成立する」とは答弁していないというあたりでしょうね。少額なので可罰性がないので、本件は賭博罪が成立しないという解釈でしょう。ああ、1000点100円のレートだと賭博罪を適用しないっていう解釈を作ってしまったことになります。

国家公務員倫理法に反しているかどうか

では、このことが国家公務員倫理法に違反しているのではないかということを検討します。

国家公務員倫理法第二条第二項第四号イには、検事長が、この法律の「本省課長補佐級以上の職員」に該当することが記載されています。

国家公務員倫理法
(定義等)
第二条 
2 この法律において、「本省課長補佐級以上の職員」とは、次に掲げる職員をいう。
四 検察官の俸給等に関する法律(昭和二十三年法律第七十六号。以下「検察官俸給法」という。)の適用を受ける職員であって、次に掲げるもの
イ 検事総長、次長検事及び検事長
ロ 検察官俸給法別表検事の項十六号の俸給月額以上の俸給を受ける検事
ハ 検察官俸給法別表副検事の項十一号の俸給月額以上の俸給を受ける副検事

国家公務員倫理法第六条には、検事長を含む「本省課長補佐級以上の職員」は、「事業者等」から5千円を超える供応接待を受けた場合には所属長に報告しなければならないと規定されています。数千円から2万円のやりとりがあったということですので、5千円を超える支払いを受けた日もあったのではないかと思います(黒川検事長が異常に弱くていつも負けていたという場合は別ですけど)。

国家公務員倫理法
(贈与等の報告)
第六条 本省課長補佐級以上の職員は、事業者等から、金銭、物品その他の財産上の利益の供与若しくは供応接待(以下「贈与等」という。)を受けたとき又は事業者等と職員の職務との関係に基づいて提供する人的役務に対する報酬として国家公務員倫理規程で定める報酬の支払を受けたとき(当該贈与等を受けた時又は当該報酬の支払を受けた時において本省課長補佐級以上の職員であった場合に限り、かつ、当該贈与等により受けた利益又は当該支払を受けた報酬の価額が一件につき五千円を超える場合に限る。)、一月から三月まで、四月から六月まで、七月から九月まで及び十月から十二月までの各区分による期間(以下「四半期」という。)ごとに、次に掲げる事項を記載した贈与等報告書を、当該四半期の翌四半期の初日から十四日以内に、各省各庁の長等(各省各庁の長及び行政執行法人の長をいう。以下同じ。)又はその委任を受けた者に提出しなければならない。
一 当該贈与等により受けた利益又は当該支払を受けた報酬の価額
二 当該贈与等により利益を受け又は当該報酬の支払を受けた年月日及びその基因となった事実
三 当該贈与等をした事業者等又は当該報酬を支払った事業者等の名称及び住所
四 前三号に掲げるもののほか国家公務員倫理規程で定める事項

さて、このとき、新聞記者が「事業者等」に該当するかどうかという点が問題になります。「事業者等」の定義は国家公務員法第二条第五項にあります。法人その他の団体及び事業を行う個人ということです。このときの個人とは、当該事業の利益のためにする行為を行う場合における個人に限るとされています。

国家公務員倫理法
(定義等)
第二条
5 この法律において、「事業者等」とは、法人(法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものを含む。)その他の団体及び事業を行う個人(当該事業の利益のためにする行為を行う場合における個人に限る。)をいう。

つまり、たとえば、個人営業主と遊びに行ったとしても友達関係として遊びに行った場合は該当しない可能性があります。しかし、産経新聞社は、今回の件について「東京本社に勤務する社会部記者2人が取材対象者を交え数年前から複数回にわたって賭けマージャンをしていたことがわかりました。賭けマージャンは許されることではなく、また、緊急事態宣言が出されている中での極めて不適切な行為でもあり、深くおわびいたします。厳正に対処します」というコメントを出しています。つまり、今回の賭け麻雀は、取材という産経新聞社の業務の一環として行われた行為と認めているわけです。したがって、黒川検事長が相手をした記者は「事業者等」に該当すると考えます。

このため、黒川検事長は5千円を超えて新聞記者から賭け麻雀のお金をもらった場合には贈与等報告書を提出しなければならないことになります。なので、黒川検事長が5千円を超えて勝った場合、贈与等報告書を作成していなかったとするならば、国家公務員倫理法に違反するおそれがあります。

国家公務員倫理法第九条によれば、この報告書は5年間保存され、2万円を超える部分については、いつでも閲覧請求できることになっています。むう。2万円を超える部分ですね。勘ぐってしまえば、公表された「2万円」という額は、この規程に「2万円」とあるからではないかと思います。しかし、5千円を超える場合には贈与等報告書が作成されていないと第六条違反となりますので、たとえば、この3年間に法務省において作成された贈与等報告書について情報公開請求を行えば、なんとかその存在・不存在が確認できると思います(個人情報は消されると思いますけど)。だれかやって

国家公務員倫理法
(報告書の保存及び閲覧)
第九条 前三条の規定により提出された贈与等報告書、株取引等報告書及び所得等報告書等は、これらを受理した各省各庁の長等又はその委任を受けた者において、これらを提出すべき期間の末日の翌日から起算して五年を経過する日まで保存しなければならない。
2 何人も、各省各庁の長等又はその委任を受けた者に対し、前項の規定により保存されている贈与等報告書(贈与等により受けた利益又は支払を受けた報酬の価額が一件につき二万円を超える部分に限る。)の閲覧を請求することができる。ただし、次の各号のいずれかに該当するものとしてあらかじめ国家公務員倫理審査会が認めた事項に係る部分については、この限りでない。
一 公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあるもの
二 公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるもの

国家公務員倫理規程に反しているかどうか

次に、国家公務員倫理法に基づく国家公務員倫理規程に反しているかどうかです。国家公務員倫理規程では、第三条において、職員は、利害関係者と共に遊戯又はゴルフをしてはならないなどとされています。しかし、第二条の利害関係者の定義では、許認可などの対象者を利害関係者と称しています。新聞記者は、この規定の利害関係者には該当しないと考えます。

(禁止行為)
第三条 職員は、次に掲げる行為を行ってはならない。
一 利害関係者から金銭、物品又は不動産の贈与(せん別、祝儀、香典又は供花その他これらに類するものとしてされるものを含む。)を受けること。
二 利害関係者から金銭の貸付け(業として行われる金銭の貸付けにあっては、無利子のもの又は利子の利率が著しく低いものに限る。)を受けること。
三 利害関係者から又は利害関係者の負担により、無償で物品又は不動産の貸付けを受けること。
四 利害関係者から又は利害関係者の負担により、無償で役務の提供を受けること。
五 利害関係者から未公開株式(金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第十六項に規定する金融商品取引所に上場されておらず、かつ、同法第六十七条の十一第一項の店頭売買有価証券登録原簿に登録されていない株式をいう。)を譲り受けること。
六 利害関係者から供応接待を受けること。
七 利害関係者と共に遊技又はゴルフをすること。
八 利害関係者と共に旅行(公務のための旅行を除く。)をすること。
九 利害関係者をして、第三者に対し前各号に掲げる行為をさせること。

倫理規程の第五条には、利害関係者以外の者との禁止行為が規定されています。「職員は、利害関係者に該当しない事業者等であっても、その者から供応接待を繰り返し受ける等社会通念上相当と認められる程度を超えて供応接待又は財産上の利益の供与を受けてはならない」とするものです。対象が新聞記者であってもこの規定にはひっかかります。そして、今回の対応は、「3年間にわたって月に2,3回賭け麻雀を行うこと」は倫理規程第五条にある「社会通念上相当と認められる程度を超えて」いないという解釈を作ってしまったことになります。それでいいんですか。

国家公務員倫理規程
(利害関係者以外の者等との間における禁止行為)
第五条 職員は、利害関係者に該当しない事業者等であっても、その者から供応接待を繰り返し受ける等社会通念上相当と認められる程度を超えて供応接待又は財産上の利益の供与を受けてはならない
2 職員は、自己が行った物品若しくは不動産の購入若しくは借受け又は役務の受領の対価を、その者が利害関係者であるかどうかにかかわらず、それらの行為が行われた場に居合わせなかった事業者等にその者の負担として支払わせてはならない。

人事院の懲戒処分に照らして妥当か

国家公務員の懲戒処分の方針については、人事院が平成十二年に指針を出しています。賭博は、減給又は戒告常習として賭博をした職員は停職となっています。黒川検事長は、懲戒処分の対象にならず、訓告です。戒告にも至っていません。

懲戒処分の指針について(平成12年3月31日)
第1 基本事項
  本指針は、代表的な事例を選び、それぞれにおける標準的な懲戒処分の種類を掲げたものである。
  具体的な処分量定の決定に当たっては、
 ① 非違行為の動機、態様及び結果はどのようなものであったか
 ② 故意又は過失の度合いはどの程度であったか
 ③ 非違行為を行った職員の職責はどのようなものであったか、その職責は非違行為との関係でどのように評価すべきか
 ④ 他の職員及び社会に与える影響はどのようなものであるか
 ⑤ 過去に非違行為を行っているか
 等のほか、適宜、日頃の勤務態度や非違行為後の対応等も含め総合的に考慮の上判断するものとする。
  個別の事案の内容によっては、標準例に掲げる処分の種類以外とすることもあり得るところである。例えば、標準例に掲げる処分の種類より重いものとすることが考えられる場合として、
 ① 非違行為の動機若しくは態様が極めて悪質であるとき又は非違行為の結果が極めて重大であるとき
 ② 非違行為を行った職員が管理又は監督の地位にあるなどその職責が特に高いとき
 ③ 非違行為の公務内外に及ぼす影響が特に大きいとき
 ④ 過去に類似の非違行為を行ったことを理由として懲戒処分を受けたことがあるとき
 ⑤ 処分の対象となり得る複数の異なる非違行為を行っていたとき
 がある。また、例えば、標準例に掲げる処分の種類より軽いものとすることが考えられる場合として、
 ① 職員が自らの非違行為が発覚する前に自主的に申し出たとき
 ② 非違行為を行うに至った経緯その他の情状に特に酌量すべきものがあると認められるとき
 がある。
  なお、標準例に掲げられていない非違行為についても、懲戒処分の対象となり得るものであり、これらについては標準例に掲げる取扱いを参考としつつ判断する。
第2 標準例(抜粋)
 3 公務外非行関係
 (9) 賭博
   ア 賭博をした職員は、減給又は戒告とする。
   イ 常習として賭博をした職員は、停職とする。

では、過去の閣議決定でも、賭博罪に問われうるとされていた賭け麻雀を3ヶ月間にわたって定期的に新聞記者と行っていたという黒川検事長を、懲戒処分にできないのでしょうか。結論は、制度的にはできます。やらないだけ、です。

まず、前提として、賭博行為は、かならず戒告以上の懲戒処分です。今回、懲戒に至らなかったということからも、今回のケースは、賭博には当たらないと解釈したということを意味します。賭博に至らない常習的な賭け麻雀については、標準例に掲げられていません(そんなものがあるなんて)。しかし、標準例に掲げられていない非違行為についても、懲戒処分の対象となり得るとしっかり書いてあります。

処分指針では、以下の事項を総合的に勘案して処分を決定することになっています。第一に、行為の動機、態様及び結果です。新聞記者は、情報入手という明確な動機がありますが、黒川検事長側には、職責を全うするために賭け麻雀が必要であるという動機は全くありません。第二に、故意又は過失の度合いです。黒川検事長は自分の判断で産経新聞の記者の自宅に赴いて賭け麻雀をやっています。ここでも酌量の余地はありません。第三に職員の職責です。検察庁のナンバー2というきわめて重い職責を負っています。酌量の余地無しです。「非違行為を行った職員が管理又は監督の地位にあるなどその職責が特に高いとき」には、逆に重い処分を考えなければなりません。第四に、他の職員及び社会に与える影響です。これも、検察の権威を失墜させる点できわめて重いです。「非違行為の公務内外に及ぼす影響が特に大きいとき」といった場合には、重い処分とする方向で検討すべきです。第五に、過去の行為です。3年間にわたって常習的に行っていたということで、ここでも情状酌量の余地はないでしょう。第六に、日頃の勤務態度非違行為後の対応等です。これらは、適宜、考慮するものです。日頃の勤務態度については、わたしはわかりません。非違行為後の対応ですが、自分から申し出たわけではなく、週刊誌にすっぱ抜かれて明るみに出たものですから、こちらで情状酌量はできません。

黒川検事長の賭け麻雀は、検事長の重責にありながら、職務遂行上の動機がなく、故意に行われ、他の検察官や社会に重大な影響を与え、常習性も認められるわけです。なおかつ、テンピンの賭け麻雀が賭博に当たらないという規範は、今回の処分判断以前には存在しておらず、刑法の賭博罪が成立し得るという閣議決定すらありました。黒川氏が賭け麻雀を行った時点では、法を犯す行為ではないとは、わからなかったはずです。情状酌量の余地があるとすれば、日頃の勤務態度ですが、職員の職責と行為の影響からは、過重な処分を行うべき事案でもあったわけです。このような彼の賭け麻雀について賭博に該当しないと判断したとしても、彼の行為を国家公務員法上の懲戒処分にすることができないわけがない。ただ、そうしなかっただけです。

検察庁法に照らして妥当か

検察庁法第四条では、検察官は、「法の正当な適用」を求め、「公益の代表者」として事務を行うと規定されています。特に、検事長は、検察庁のナンバー2として、一般の国家公務員よりも、高い職業倫理が求められていたはずです。

検察庁法
第四条 検察官は、刑事について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、且つ、裁判の執行を監督し、又、裁判所の権限に属するその他の事項についても職務上必要と認めるときは、裁判所に、通知を求め、又は意見を述べ、又、公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う。

検察庁は、次のような検察の理念をwebsiteに掲載しています。

我々が目指すのは,事案の真相に見合った,国民の良識にかなう,相応の処分,相応の科刑の実現である。そのような処分,科刑を実現するためには,各々の判断が歪むことのないよう,公正な立場を堅持すべきである。権限の行使に際し,いかなる誘引や圧力にも左右されないよう,どのような時にも,厳正公平,不偏不党を旨とすべきである。また,自己の名誉や評価を目的として行動することを潔しとせず,時としてこれが傷つくことをもおそれない胆力が必要である。(抜粋)

まず、黒川検事長は、検察庁法第二十二条に規定する検事長の定年である六十三歳が到来したにもかかわらず、検事長職にとどまりました。検察庁法第三十二条の二では、検察官の職務と責任の特殊性に基づいて、国家公務員法の特例として、検察庁法第二十二条を定めたと明記しています。六十三歳を超えて検事長の職にとどまったのは、明らかに検察庁法第三十二条の二に違反しています。この点一つとっても、黒川氏が検事長、いや検察官として不適格だったことがわかります。

検察庁法
第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。
第三十二条の二 この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。

さらに、今回の賭け麻雀ですよ。何をかいわんや。これが「いかなる誘引や圧力にも左右されない」行動ですか。検察の理念をいちじるしく損ない、組織全体の信頼を傷つける行動ではないですか。懲罰処分の対象にもしないという判断は間違っていると考えます。

結論

内閣が黒川氏を懲戒処分にもしないことは、いろいろな法解釈を変えていけば、法的に成立してしまうかもしれません。しかしこのことによって、以下の状況が生まれました。
1)1000点100円のレートだと賭博罪を適用しないという解釈を作ってしまった。
2)「3年間にわたって月に2,3回賭け麻雀を行うこと」は国家公務員倫理規程第五条にある「供応接待を繰り返し受ける等社会通念上相当と認められる程度を超えて供応接待又は財産上の利益の供与を受けてはならない」という規定に該当しないという解釈を作ってしまった。
3)検事長職にある者が新聞記者と3年間にわたって月に2,3回賭け麻雀を行うことは、人事院が定める懲戒処分の指針に照らしても処分対象ではないという前例を作ってしまった。
黒川氏を懲戒処分にしないことによって、さまざまな社会のルールが歪みました。任命権者は内閣です。安倍晋三総理はもとより、官邸官僚のみなさんは「泣いて馬謖を切る」という言葉を知らないようです(黒川氏は一般社会的には「馬謖」(ばしょく)ほどでもないですけど)。さすが、人知を優先して、法治をないがしろにする内閣ですね。どんどんこの国のガバナンスが悪化していきます

「泣いて馬謖を切る」:軍律に反して敗戦した馬謖を、諸葛孔明が「軍律どおりに処刑しなければしめしがつかない」と泣きながら処刑したことに由来する言葉です。『三国志』第八冊第九十六回にあります。

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