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日本の年金はどのような制度ですか?

* この記事の文字数は3,910文字です。

回答

日本の公的年金制度は、現役世代全体で支えるという考えのもと、20 歳以上 60 歳未満の全ての人が加入する国民年金と、会社員や公務員等が加入する厚生年金により構成されており、高齢期に達するなど要件を満たすと給付を受けることができる社会保険です。任意の私的年金として税制優遇のある企業年金および個人年金が準備されています。

ポイント

  1. 公的年金制度は国民年金と厚生年金の2階健て

  2. 私的年金制度は企業年金と個人年金(3階部分)

  3. 長期的な財政運営


ポイント解説

1. 公的年金制度は国民年金と厚生年金の2階健て

年金制度とは、高齢期に達するなど要件を満たした方に、定期的に一定の金額を給付する仕組みのことです。自分自身の老後のために自ら備えを行う必要がありますが、経済の状況や社会の在り方などは刻々と変化します。このリスクに個人で対応することは難しいことであるため、社会全体で備えるために公的年金制度がつくられました。あらかじめ保険料を納めることで、必要なときに給付を受けることができる社会保険です。現役世代が支払う保険料を仕送りのように高齢者などの年金給付に充てるという「世代と世代の支え合い」という考え方を基本としています。

年金制度の仕組み|厚生労働省
公的年金の保険料の納め方|厚生労働省

日本の公的年金制度は、20 歳以上 60 歳未満の全ての人が加入する国民年金(基礎年金)があり、さらに会社員や公務員等はそれにプラスで厚生年金に加入しなければなりません。いわゆる「2階建て」と呼ばれる構造です。ちなみに、公的年金に上乗せして給付を行う私的年金が「3階部分」にあります。これは公的年金とは別に任意で加入して年金保険料(保険料)を納めるものです。

まずは2階建ての公的年金について説明します。

自営業者や学生などは第1号被保険者(国民年金)に区分され、毎月一定額(16千円ほど)の保険料を自分で銀行に行き納めることになります。もし会社員や公務員であれば、第2号被保険者(国民年金)及び厚生年金被保険者となり、毎月定められた保険料率 (18%ほど)で計算した額を会社と折半で負担します。この保険料率には1階部分と2階部分が含まれているわけです。従業員へ支払う給与から半額を源泉徴収し、残りの半分を会社が負担します。
また、厚生年金に加入している人に扶養されている配偶者などは第3号被保険者(国民年金)となります。この場合は保険料を納める必要はありません。

ここで、第1号被保険者と厚生年金被保険者を比べてみます。月20万円の収入がある人の場合、もし第1号被保険者であれば、毎月16千円の保険料を支払うことになりますが、第2号被保険者だと18千円(20万円×18%、半分は会社負担)です。会社員などの厚生年金加入者の方が保険料を支払う負担は大きくなります。

しかし、いざ年金を受け取ることになった場合はどうなるでしょうか?

年金制度の仕組み|厚生労働省
年金制度基礎資料集より|厚生労働省

国民年金を納めていた方々は老齢基礎年金を受給することになりますが、会社員として厚生年金を納めていると、国民年金に加えて老齢厚生年金を受け取ることができます。年金の支払額と受給額がともに大きくなるわけです。ちなみに、2003 年4月より、受給額の計算で用いる報酬額にはボーナスまで含めてもらうことになりましたが、同時に、被保険者期間分の給付乗率は1,000 分の7.125から 1,000分の5.481まで引き下げられています。このような制度変更が年金制度の維持を目的に行われることがあります。

昨年2023年は物価高対策として春闘での賃上げが相次ぎました。上記の計算式を見ると分かると思いますが、このような賃上げなどにより保険料と将来受け取る給付額が両方ともに大きくなります。自分自身で計算してどのような影響があるか確かめることをお勧めします。その際には時間的価値を考えることになるでしょう。インフレにより30年後に平均月収が100万円になっていたらどうでしょうか?ビッグマックが1個2千円になっていたらどうでしょうか?物価に比して受給額が低くなってしまいます。そのため、物価と賃金を加味して年金額を計算する「マクロ経済スライド」と呼ぶ仕組みが導入されています。ただし、現役世代が保険料を納められないと、年金制度は維持できないことから、インフレ時でも物価の上昇幅ほど年金額は上がりません。

2. 私的年金制度は企業年金と個人年金(3階部分)

私的年金には、企業が従業員のために実施する「企業年金」と、個人が自ら加入する「個人年金」と2つあり、さらに確定給付型(DefinedBenefit、DB)確定拠出型(DefinedContribution、DC)があります。DBは加入期間などに基づいてあらかじめ給付の算定方法が決まっていますが、DCは予め定められた拠出額とその運用収益との合計額から年金給付額が決定される仕組みである。
先に述べたように、この私的年金が3階部分に該当するわけです。

企業年金を簡単にいうと退職金です。会社は従業員の退職金資金を用意するために、外部の年金制度に拠出したりするなどして退職金支払いに備えているわけです。税制上の優遇措置が認められている企業年金としては、厚生年金基金、確定給付企業年金(DB型)および企業型確定拠出年金(DC型)があります。DC型は、加入者ごとに拠出された掛金を、加入者が自ら運用した結果に基づいて給付額が決定されます。加入した従業員は、対象の金融商品の中から運用先を選択しなければならないため、事前に金融知識を備えておいた方が良さそうです。

個人年金は、自営業者などに退職金が無いことから、その代わりとして老後の所得保障の役割を担うために設けられた制度です。一定の要件が課せられるとともに税制上の優遇を受けられる国民年金基金個人型確定拠出年金(iDeCo)があります。iDeCoにおいても、自らが拠出した掛金を、自らで運用して資産を形成します。国民年金基金と併用することができ、掛金上限は月額68千円となります。

ちなみに、確定拠出年金(企業型、個人型)の場合、運用により生じた配当金や売却益に対して所得税が非課税となります。さらに、掛金は所得控除されることから納める所得税と住民税が少なくなります。例えば、毎月5万円を積み立てる場合、年間で60万円が所得控除されるため、12万円(60万円×税率20%)も納める税金が少なくなる計算です。この点が税制上のメリットとされているわけです。

3. 長期的な財政運営

年金財政の仕組み|厚生労働省

年金制度は長期的な視点で制度設計をしなければなりません。全ての人が年齢を重ねていき、やがていつかは老後生活に入るわけです。基礎年金の財政は、そのときの現役世代全体で支えるという考えで運営されており、毎年度の年金給付に要する費用は、保険料収入および国庫負担で支出されています。もし支出が保険料収入と国庫負担を上回る場合には、積立金及びその運用収入が充当されることになります。現役世代が納めた年金保険料のうち、年金給付に用いられなかった分が積立てられているわけです。

この積立金の運用は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)という組織が行います。長期的に、安全かつ効率的な運用を行うために、厚生労働大臣が達成すべき業務運営の目標として中期目標を定め、GPIFがこの目標を達成するための具体的な中期計画を策定して運用しています。巨額の運用資金は世界中の株式や債権で運用されています。GPIFについてはまた改めてご説明します。

時折、国民年金保険料の納付率が低下することにより、年金財政が破綻してしまうのではないかという指摘がなされることがあります。公的年金制度は支払った保険料に応じて給付が決まる仕組みであり、収入がなければ給付が減るものの、未納者は全体の約2%に過ぎないため影響は限定的だと考えられています。また、先に述べたように、年金制度においては一定の積立金を保有することになっており、その積立金及び積立金を運用した際に発生する運用収入を活用することができます。日本を取り巻く環境は変化していますので、年金制度の維持には日本全体で考えて意識を醸成することが求められています。

〈参考〉

あとがき
年金の財源を確保する手段として積立金の運用が行われています。世界経済の成長が私たちの年金にとって希望の光であるのかもしれません。


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