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僕らは狂った未来に生きている

メロスは激怒した。

メロスは激怒した!なんとよくわからない靴下が80万円まで値上がりしているのだ! 

メロスにはDefiがわからぬ。

ユニスワップはもっとわからぬ。

メロスは、薄給の会社勤めである。

上司の目を盗んで、ホチキスの芯を抜いては、窓から投げ捨て暇を潰して来た。けれども儲け話に対しては、人一倍に敏感であった。

きょう未明メロスは渋谷を出発し、山手線に乗って、十里はなれた此この鶯谷にやって来た。

メロスには貯金も、人望無い。女房も無い。珍宝は付いている!

メロスは、鶯谷で、韓国人熟女を買うつもりだ!

メロスは、それゆえ、資金繰りのためにリップルやらを買いに、BitMexにやって来たのだ。なぜ日本からログインできるのかは誰にもわからぬ。

先ず、BitMEXでフルレバでリップルを買い集め、それからFTXの板を覗いた。

メロスには竹馬の友があった。アフロである。彼はFTXの市で、仕手行為をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

板を覗くうちぬにメロスは、バイナンスの様子を怪しく思った。ひっそりしている。バブルも終わって、相場の雰囲気が暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、枯れ相場のせいばかりでは無く、市況全体が、やけに寂しい。のんきなメロスも、だんだん不安になって来た。

「これ、焼けるんじゃね?」

ツイッターで逢ったムカつく学生トレーダーをつかまえて、何かあったのか、「二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、バイナンスに上場すれば爆上げ間違いなしだったが?」と質問した。若い衆は、首を振って答えなかった。しばらく歩いてじっちゃまに逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。じっちゃまは答えなかった。メロスは両手でじっちゃまのからだをゆすぶって質問を重ねた。じっちゃまは、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。

「草コインは、脳を殺します。」


「なぜ殺すのだ。」


「スケベ心を抱いている、というのですが、誰もそんな、スケベ心を持っては居りませぬ。」


「たくさんの人を殺したのか。」


「はい、はじめはポンポンさんを。それから、モブ仮想通貨民を。それから、インフルエンサーを。それから海外煽り勢を。」


「おどろいた。CZは乱心か。」


「いいえ、乱心ではございませぬ。出来高を信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、新規の上場コインをも、お疑いになり、仕手ごと殺す事を命じて居ります。御命令を拒めばストップがすべって殺されます。きょうは、127人REKTされました。」

モモモモモモ!モンスターキル!!

聞いて、メロスは激怒した。

「呆あきれたCZだ。塩漬けロングして置けぬ。」


 メロスは、単純な男であった。MEXでフルレバしたリップルの無茶な利確指値を、出したたままで、のそのそバイナンスにはいって行った。

たちまち彼は、BNBチェーンのようわからないコインにに魅了された。相場をしらべると、メロスはウキウキしてしまって、父親の財布から金を盗んで入金して、$spxの先物に無茶な板を出したので、メロスの頭のなかの騒ぎが大きくなってしまった。メロスは、ADHDなのだ!

そして、父親にバレて居間に引き出された。
「俺の財布から金盗んで、何をするつもりであったか。言え!」父親は静かに、けれども威厳を以もって問いつめた。その父親の顔は蒼白そうはくで、眉間みけんの皺しわは、刻み込まれたように深かった。


「バイナンスをCZの手から救うのだ。」

とメロスは悪びれずに答えた。


「おまえがか?」父親は、憫笑びんしょうした。

「仕方の無いやつじゃ。言ってる意味がわからない。」

「言うな!」とメロスは、いきり立って反駁はんばくした。

「BNBチェーンを疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。お父さんは、草コインのロマンをさえ疑って居られる。」

「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、草コイン達だ。外人の「Buy Now」は、あてにならない。バイナンスも、もともと私慾のかたまりさ。信じては、ならぬ。」

父親は落着いて呟つぶやき、ほっと溜息ためいきをついた。「わしだって、爆益を望んでいるのだが。」


「板も出さずに爆益がだせるか!家計を守る為か。」

「そりゃそうだろ!だれのおかげでお前は飯を食えるんだ?」

メロスは、急に態度を変えて深々とお辞儀した。

「いつも美味しい、ごはんありがとうございます。」

「いや、急にに態度変えるなや!話を戻すぞ!」父親は、さっと顔を挙げて報いた。

「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、レバロング焼け焦げになってから、泣いて詫わびたって聞かぬぞ。」


「ああ、父さんは立派だ。でも、私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。逆指値など決してしない。ただ、――」と言いかけて、メロスは足もとに視線を落し瞬時ためらい、

「ただ、私に情をかけたいつもりなら、リップルロングの精算までに三日間の日限を与えて下さい。多少ベアトラップがあるかもしれませんがに、三日のうちに、リップル爆上げしして利確します。」
「ばかな。」と父親は、嗄しわがれた声で低く笑った。

「とんでもない嘘うそを言うわい。精算ラインわったら精算されるだろう。」


「いや、大丈夫だと思う。」

メロスは必死で言い張った。

「私は約束を守ります。精算価格を割っても三日間だけ許して下さい。リップルロケットが、私の爆益を待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、FTXにアフロという外人がいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、精算されたら、アフロを絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」


 それを聞いて父親はこれはもう本当にだめなやつだな。と思って、無気力に笑うしかなかった。

いや、どうやっても精算されるでしょう。と思った。

「えっ、ちょっと待ってアフロがくるの?アフロが来るなら好きにしていいよ。」


「なに、何をおっしゃる。」


「はは。いや、アフロは絶対に家にこないぞ。」

メロスは口惜しく、居間で地団駄じだんだ踏んだ。ものも言いたくなくなった。


 アフロは、深夜、実家にやってきた。父親の面前で、佳よき友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。メロスは、友に一切の事情を語った。アフロは無言で首肯うなずき、メロスをひしと抱きしめた。友と友の間は、それでよかった。二人と全く関係のないセリヌンティウスは、縄打たれた。メロスは、すぐに出発した。初夏、満天の星である

2時間後リップルは精算された。

アフロは死んだ。

 勇者は、ひどく赤面した。

そして、セリヌンティウスはまだ鞭で撃たれていた。




うーん。ドッスン