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おいしいエッセイ

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おいしいお店を紹介。平野紗季子さんに憧れた“パクリスペクト”な文章たち。
運営しているクリエイター

#日記

シンプルに作り上げる濃厚なガトーショコラ #Minimal

 Bean to Barのチョコレートを食べていると必然的に意識するようになるのが”素材”本来の味。素材そのものを表現するためには複雑性を避け、できるだけ1つのものに集中し、如何に手をかけるかが重要になると思います。  このシンプルさを「引き算の哲学」や「素材なり」と表現し、そのフィロソフィーを名前にまで反映したのが『Minimal』。カカオ豆と砂糖だけで作り上げる、だからこそ個性が際立ち、それぞれに違いを生み出します。  ブランドストーリーの中で日本食を例に取り上げてい

止まらないナンとラッシーのリズム #ザ・タンドール

 大手町と神田の間には明らかな境界線がある。都会の緊張が解けない大手町から、気楽に歩ける神田の街並み。2駅の中間に位置する内神田は飲食店が多く、ふらっと入れるお店も、行列のできる人気店もあるハイブリッドランチタウン。昼休憩を少しずらして、お店も決めず、その瞬間の気分に従って何を食べるか選ぶのも楽しい。  今日はなんとなくインドカレーの店に決めた。昼から匂いの強いカレーを食べるのは気が引けるが、お腹が空いてるのだから仕方ない。そんな一瞬の葛藤を抱えながら入店するも、漂うスパイ

まぐろに強いお店の秘密のネタ #海鮮三崎港

 回転寿司の楽しみがレーンに帰ってきた。タッチパネルと"新幹線"の登場で回っているお皿の需要が減り始め、今ではコロナの影響で外気に触れ続けるレーンを使う人はほとんどいなくなったようなもの。  私がタッチパネルを使う理由は2つ、「鮮度」と「衛生面」。ICチップでの時間管理や、カバーを用いた飛沫対策はよく見るものの、だからといってレーンからお皿を取る気にはならない。  マルハニチロが毎年出している「回転寿司に関する消費者実態調査」でも回転寿司の“新幹線シフト”が表れている。注

深夜のハイカロリーアドレナリン #らーめん雷豚

 深夜11時。夜ごはんを食べ損ねて車を走らせても、街に残るのは黄色のMかオレンジの牛丼チェーンばかり。お腹が空いているので何を食べても美味しいと思うのだろうが、脳ミソよりも先に、身体がハイカロリーを求めている。  深夜に輝くギラギラな看板。深夜の街灯に虫が集まるように、深夜のラーメン屋に人も集まる。  先に届いたセットの小丼は思ったより具が乗っていなかったが、空腹状態に米を流し込めるだけで合格点。ラーメンが届くまでに食べ切ろうと、味わう暇もなくスプーンを動かし続ける。今は

田園風景を思わせる異国焼酎 #DEDESUKE SAIGON KITCHEN

 ベトナムと言えばフォー、フォーと言えばパクチーとばかり考えてしまうが、現地を想像すると一面の田園風景が頭に浮かぶ。広大な緑の中にたたずむ三角の帽子(「ノンラー」と言うらしい)を被った一人の農民、そんなシーンを想起させる米焼酎に出会った。  ルアモイとネップモイはベトナムの米焼酎。うるち米(普通のお米)を使ったルアモイは、クセのほとんどない透き通った味わい。焼酎という響きから感じる重さはなく、軽やかに飲める水の上位互換のような口当たり。  私のお気に入りはもち米を使ったネ

懐かしく、愛おしい味 #登治うどん

 うどんはあまり好きではない。ただ、好き嫌いを超えた味が数年ぶりに私を呼び戻した。これは懐かしの味、高校の部活終わりによく食べていた青春の一部。昔は窓際の座敷で食べていたな、と回想しながら空いているテーブルに座る。  メニューを見渡す。親からの小遣いでやりくりしていたあの頃は一番安い「もり」ばかりを食べていたが、数年経った今はお金を気にせず注文できる。成長した私はちくわ天うどんにランクアップし、更にはミニかき揚げ丼を追加するまでに成長した。  合わせて1000円足らずのか

おまかせ全部レビュー #いしまる

 埼玉でビシッと決まった江戸前寿司を食べたい時は「いしまる」に。高価格帯のカウンター寿司では珍しく、客の訪問時間に合わせて個別で食事を始められるのが魅力です。時間指定の一斉スタートが現在の潮流ですが、親方は信念を持って個別スタイルを貫いています。  開店当初はフジタ水産の鮪を使っていること、居酒屋出身の親方が独学で握っていることばかりが注目されていましたが、最近では沼里親方の仕込みが光る実力派として知名度を上げているように思います。その証明として、食べログの百名店にも選ばれ

コスパも威勢も最高な回転寿司 #天下寿司 池袋店

 適度な空腹を保ち、寿司に向かって池袋を無心で歩き、店に着いたと思えば待ちの列に並ばされ、目の前にレーンがあるのに皿を手に取れない葛藤が最大に達した時に席まで通され、まず手に取ったのは本まぐろ赤身。最初は烏賊だの白身だの考えることもせず、ほとんど無意識にまぐろを手に取ってしまうあたり、赤い引力には逆らえない。  回転寿司と言っても大手チェーン店のような巨大な設備ではなく、2畳ほどの細長い板場を囲うこじんまりとしたレーンがあるだけ。狭い楕円の中には熟練の板前さんが2人体制で握

流行とは一線を画す完成された韓国料理 #赤坂一龍 別館

 ソルロンタンと言えば、塩やオキアミの塩辛で自分好みの味を作り上げるもの。そのためスープが薄く、味気のない状態で出てくる印象があるが、ここはかなり完成されたバランスで提供される。背骨のビシッと通ったような牛骨スープに、食べ応えもありながら旨味を邪魔しない濃度の塩加減は、素人の私が下手に味変してしまったら申し訳ないと思わされるほど。  メインはソルロンタン一択で、足りなければサイドを頼む。入店と同時に人数分のソルロンタンを頼んで、後はその日の気分で食べたいものを追加すれば良い

自分なりのうなぎ屋の楽しみ方 #小川菊

 久しぶりに母と外出。私の母はあまり好みが合わないので、2人で食べるものは決まって鰻かとんかつのどちらか。とんかつは最近食べたので鰻をチョイス。川越では1、2位を争う有名店に1時間待ちで入店。  シンプルではあるが必要なものは全て揃っていて、老舗の余裕も感じさせる、そんなメニュー表。本日はお母様がご馳走してくれるとのことなので遠慮なく食べたいものを決める。  まずは「うざく(鰻ときゅうりの酢の物)」を頼んでウォーミングアップ。正午の太陽に晒されて火照った身体を酸味と冷たさ

【実食編】はるはな(春花) / しゅうせい(秋声) #Little MOTHERHOUSE

 四季を色と味で表現したイロドリチョコレート。「春」と「秋」、どちらも極から極へと移り変わる中間の季節ですが、人は全く異なる感覚でそれらを捉えます。今回はそんな季節を表した2種類を実食レビューします。  待ちわびた春の陽の下で美しさを競う花々のように、いちごとパッションフルーツが輝く鮮やかな味。はっきりとしたいちごの甘みとパッションフルーツの南国を思わせる香りが私に活力を与えてくれる。  なめらかな舌触りで表現する日本茶の奥ゆかしさ。抹茶の苦みはじわりと舌に浸透して存在感

【実食編】あじさい(紫陽花) / ゆうぐれ(夕暮) #Little MOTHERHOUSE

 インドネシア・スラウェシ島から届ける四季の味、「イロドリチョコレート」。萌黄(もえぎ)、蒼海(そうかい)、夜風(よかぜ)に続いて新たに2種類を実食レビューします。  ホワイトチョコレートの甘みは前半で落ち着き、鼻を通るラベンダーの香りとブルーベリーの酸味が合わさって最後まで残る。ほのかな刺激も感じさせる後味は涼しげな印象。梅雨の合間の雫を帯びた紫陽花とはこのことか。  全身で感じる夏から心で感じる秋へと移り変わるように、カシスからブランデーに向かって味から香りへと楽しみ

下町風情を味わう #七五三

 浅草散策の最終目的地に設定したお店。下町の味と言えばもんじゃとお好み焼き、こういう町は奇を衒わずに王道を楽しむのがいい。信頼できる浅草の住人がおすすめしてくれた「七五三」を事前に予約しておいた。  浅草は毎月祭りをやっているらしい。この日(6/11)は鳥越祭りだったらしく、男たちが豪華な神輿を率いて練り歩いていた。下町の枯れないエネルギーを感じながら店に到着。町の賑わいを吸収して増幅させる場所。  お腹が空いたのでまずはがっつりお好み焼きを食べたい気分。定番の豚玉は有無

大手町の"うまい、やすい、はやい" #リトル小岩井

 仕事が長引き、遅めのランチ。大手町の地下街の端、時刻は14時を回っているにも関わらず活気に溢れたお店がある。先客2人の後に並んでどれを食べようか、メニューを眺めながら気分と相談する。それにしても、全てが安い。大盛りもたったの60円。こういうお店はピンかキリのどちらかであることが多いからハラハラしてくる。  並びながらメニューを決めあぐねていると、すかさず店員さんに注文を聞かれて自分の優柔不断さを知る。いや、9種類という絶妙な品数が私を優柔不断にさせている。メニューは多すぎ