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おいしいエッセイ

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おいしいお店を紹介。平野紗季子さんに憧れた“パクリスペクト”な文章たち。
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2022年5月の記事一覧

おまかせ全部レビュー #築地青空三代目丸の内

 カウンター寿司デビューをしたい人や、ちょっと贅沢なデートをしたい大人カップルにおすすめしたいお店がここ。つまみ4品に加えて、業界では有名なフジタ水産の鮪3貫を含む握り9貫が8800円で食べられるミドル級の人気店です。4回目の訪問でもしっかり楽しめる質を維持している板長佐野さんの努力に頭が上がりません。  この店が面白いのは、チェーン店だということ。実は本店が築地にあって、東京はもちろん名古屋や沖縄にも複数店舗を構えている実力派です。更に面白いのは、仕入れや料理が全て板長の

"普通"を積み上げたおいしいお店 #ラドリオ

 神保町は雰囲気で人を酔わせる。ぼんやりと薄暗く、歴史を凝縮したような密度の高い空間が一人一人を場に溶け込ませ、街を1つにする。そこには自も他もなく、逆に大きな孤立を生むような感覚。浮遊感のある孤独というのか、私には心地良く感じる。  そんな神保町を更に濃縮したのがラドリオ。路地を極めたような場所にある、大人の秘密基地を彷彿とさせる喫茶店だ。店内は神保町らしく本で囲まれたスペースや、年季の入ったバーカウンター、寛ぐには丁度良くも物足りないような赤いソファで独自の世界観を構成

【実食編】ビターチョコレート / もえぎ(萌黄) / そうかい(蒼海) #Little MOTHERHOUSE

 「途上国から世界に通用するブランドをつくる」ことを軸に、アパレルからフード事業に場を広げたLittle MOTHERHOUSE。前回はブランドの紹介に留まりましたが、今回は3種類のチョコレートを実食レビューします。  第一印象のほのかな甘みが、カカオエッグのアクセント通過することで苦みをメインとした香ばしさや酸味の複雑な味へと進化/深化を遂げる。スラウェシ島を結晶化した王道の味。  真夏を凝縮したマンゴーとパッションフルーツに、涼しい風を吹かせる新茶の香り。ホワイトチョ

懐の深い味 #ほうとう不動 東恋路店

 スープを一口飲めば具材の鮮やかさを感じ、これから何種類の味に出会えるのかを想像してワクワクする。「ほうとう」と言われて想像する平たい麺よりは太く、コシのあるもっちりとした食感が存在感を放っていた。香るなめこに甘いかぼちゃ、温もりを吸い込んだお揚げに食感を加える白菜、他にも様々。最後まで味に満ち溢れていて、それがちゃんとスープにも染み出ているのが調和の証拠。  これを人で表すとしたらどうだろう。大きな器にいろんな経験を詰め込んで、全部まとめて温かさで包み込む。何か辛いことが

レバーがうまい店は全部うまい #大膳

 下手な焼き肉や居酒屋から入ると苦手意識を持ってしまう人の多いレバー。苦手な人でも「ここなら食べられる」と言わせるお店の1つ。連れて行ってもらった先輩が予約の電話をする時、どうやらレバーだけは予約注文をしていたので期待がぐっと高まる。  18時前、まだ空いている居酒屋のスピード感は気持ちいい。お通しも注文も客の目線だけで全て察する店員さんの連携プレーに倣って、自分も早速レバーステーキをレビューすることにする。  ここほど大きくカットしてくれる店を知らない。これなら確かに「