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もうダメかもわからんねと感じたときの即興詩・ナイフと花


僕は弱い
だから戦場に出たら
マシンガンに蜂の巣になり
あるいは刀で首を切り落とされ
またあるいはナイフで心臓を抉り取られていただろう


僕は弱い
だから戦場には出られなかった
だけど罵倒のマシンガンに蜂の巣になり
暴言の刀で首を切り落とされ
蔑視のナイフで心臓を抉り取られていた


現実のナイフで刺されたら血が飛び出るけど
言葉のナイフで刺されたら何が出てくるんだろう

毎日毎日僕は言葉のナイフで刺され続け、そのたびになにかが自分のなかから出ていく気がしていた

ぐさりぐさり  パパッ
ぐさりぐさり  パパッ

刺されるたびに自分が自分でなくなっていく気がしていた

それでも僕は毎日毎日言葉のナイフに刺され続けていた

ぐさりぐさり パパッ
ぐさりぐさり パパッ

ぐさりぐさり パ
ぐさりぐさり ……


いつしか、刺されてもなにも出ていかなくなった
刺されるたびに僕の心はすり減っていった
刺されるたびに僕の感情は失われていった


もうないよ
もうなにもないよ
よろこびもかなしみもくるしみも


それでも彼は僕にナイフを刺し続けた
昨日も刺した
今日も刺した
明日も刺した

もうないんだ
きみにたいしてのいかりさえも

僕はもう疲れてしまったんだ

ある日雨が降った
はげしいはげしい雨だった

翌日になっても水たまりが残った
僕は水たまりに映った自分の顔を見た

なにもなかった
もうそこには僕はいなかった

僕は泣きたかった
昨日の雨のように
心の底から泣きたかった

だけど涙すら流れなかった
泣こうとするやせ細った僕のみにくい顔が水たまりに映っていた

雨よ
ああ雨よ
君が次に泣くときは
どうか僕のからだをその激しい涙で貫いてくれ
そうだ僕は君の激しい大量の涙に埋もれて溶けていくのだ
そしてやがて地に還ろう
そしてどろどろに溶けきった僕のからだは大地の肥やしとなるだろう
どうかどうか美しい花を咲かせますように
太陽の暖かい光を浴びたその花はほかのどんな花よりも美しいだろう
その花を見て君が笑ってくれたらいいな

そうだ僕は花になろう
いつか美しい花になろう
君の手に摘まれる事を夢見て

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