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黒歴史公開・掌編小説 夏休みの計画ーまたの名を家族計画ー

 
 通知表の結果は散々だった。もちろん、ろくに僕が勉強していないからである。

 このままでは、いけない。

 明日から夏休みが始まるけど、悠長なことは言っていられない。僕は、生まれ変わるんだ。今までのように、土壇場の8月31日になってから宿題を無理やり片付けるようなことはしない。結局、間に合わずに担任からビンタくらうなんてことも、今年はナシにしたい。やっぱり、人間、計画的じゃなきゃいけないよね。うちの親父も、「ご利用は計画的に、ってつくづく胸に沁みる言葉だよ」って、よく言ってるし。親父は借金まみれで、こないだ僕の携帯に闇金から「息子さんは、お父さんの借金返すお手伝いできるかな?」って、電話が掛かってきた。手伝いなんてするわけないだろう。うん、まあ何事も計画的じゃないと、マズいってわけだ。じゃないと、親父みたいになってしまう。

 そこで僕は、さっそく夏休みの宿題に取り掛かることにした。

 手始めにと選んだのは、『夏休みの日記』。日記とは言っても、大きめの紙一枚に、その日あった出来事を天気と一緒に簡単に記入するって案配だ。どこの学校にも、よくあるようなものだ。昨年は、家に引きこもっていたので、特に書くことがなく、結局新作カップラーメンの味がどうこうとか、ゲームのプレイレポートに終始していた。担任に提出した際に、「こんなものはブログにでも書いてろ」と言われた。チラシの裏と言われなかっただけ、マシかもしれない。とにかく、これを夏休みの計画表代わりにすればいい。先に予定を決めて、その通りに実行していけばいいのだ。宿題と計画を兼ねた、一石二鳥なわけ。じゃあ、さっそく始めようか。

 ——よし、とりあえず最初の一週間を書いてみたぞ。

7/18:今日から夏休みだ。親父が部屋にこもって泣いていたが無視した。
7/19:親父が太宰治の『人間失格』を読んでいた。
7/20:市民プールに行ったら、親父が痴漢容疑で監視員にボコられていた。
7/21:家に、謎の黒服が訪ねてきた。親父は、屋根裏に隠れた。
7/22:親父が、ゴキブリとタイマン張って敗北する。
7/23:親父が、ロープを買ってきた。
7/24:親父が、「お父さんは旅に出ることにしたよ」と書き置きを残し、行方不明になる。
 
 ——ちょっと待て。このままじゃ、あまりにも悲惨すぎる展開になるぞ。あくまで計画表とはいえ、実現性が高 すぎるのも困りものだな。ちょっとぐらい理想的なぐらいがいいかもしれない。よし、そうと決まったら、さっそく書き直すか。

7/18:今日から夏休みだ。鏡を見たら、自分のカッコ良さに失禁しかけた。
7/19:『世界の中心で愛を叫ぶ』を読む。感動した。
7/20:市民プールに行ったら、クラスメイトの北堀真理さんが痴漢に襲われていた。僕が痴漢を撃退する。
7/21:家に、北堀さんが訪ねてきた。北堀さんと、夜を共にした。
7/22:北堀さんのお父さんが「娘が欲しかったら、ワシを倒してからにしろ」とタイマンを挑んできた。半日にも及ぶ激闘の末に、僕が勝利した。
7/23:北堀さんに婚約指輪を買ってあげた。
7/24:北堀さんと結婚式を挙げた。式の後は、世界一週の新婚旅行へと出発した。

「——で、次はどんな展開にしようかな~。やっぱり北堀さんとの新婚初夜かな~。うへへへへ」

「相変わらずアホ面だなあ、ヒロシは。我が息子ながら、情けないぞ」

 親父がいつの間にか、僕の部屋に勝手に入って来ていた。

「なんだよ親父。ノックぐらいしろよ」

 こっちは、せっかく学園一の美少女北堀さんとの妄想に浸っていたとのいうのに。

「入る前に一声かけたぞ。ヒロシが聞いてなかったんだろう」

「こっちは聞こえてないよ。とにかく、妄想——じゃなくて、宿題やってたんだから邪魔しないでよ。お金なら貸せないよ」

 このおっさんは高校生の息子相手に、顔を合わせるたびに金の無心をするという、どうしようもない男だ。ちなみに、見た目は田代ま〇しに似ている。名前も、佐藤まさしで似ている。伏せ字の意味がなかった。

「唯一の家族のお父さんを邪険にするなんて、ヒロシは冷たい奴だな。頭も悪いし、お母さんがいなかったのがよくなかったんだろう」

 借金まみれのアホなんだから、冷たくなるのは当たり前だろう。頭が悪いのは、認めたくないものの確かだが。

「だいたい母親がいないことなんて、関係な……」

「お父さんはな、ヒロシのためにこれまで頑張ってきたんだ。でもなあ、やっぱりひとりじゃ子育ては難しかったかもしれない」

 聞いちゃいねえ。

「そこで、お父さんは決意した。やっぱり、ヒロシにはお母さんが必要だと。おい、マリ! 入ってきなさい」

 マリって……え?
 
「こんばんわ、ヒロシくん。まさしさんと結婚させていただく 北堀真理です」

「子供が出来たんで、お父さんは責任取って結婚することにしたんだ」

 全く計画性のない、親父だった。

—了—

 今は亡き電撃文庫マガジンでの投稿企画に、応募したものの端にも棒にも引っ掛からなかった作品です。文字数決まってるんで、なかなか大変だったんですよ!

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