体系的に学ぶって、どうすれば。

会計と税務に関する仕事をしております。

特に会計や税法に関する大学教育を受けてきたわけではなく、ほぼ独学です。

実務で出くわした問題を解決するためにあれこれ本や雑誌記事をめくったり。

新しい会計基準が適用になるとなれば、それへの対応をいろいろ調べて考えたりして。

こういう勉強の仕方だと、自分が経験したことがある事例には異常に強くなれるのですが、ちょっとだけ離れた隣の分野だとまるでわからなかったり、会計基準や税法の「根本にある思考方法」を理解していないくて、思わぬ誤解をしてしまっていたりという弱さも。

というような自分の弱点についてはじゅうぶんに自覚していたので、なんとか体系的な学びが欲しいなあ、とずっと考えてきたわけです。

そんなとき、地元大学に設置されている大学院で、「働きながら学べますよ」と学生を募集してるのを見かけました。

会計や税法の講義も設置されている!

で、これは行くしかないということで、偉い人に行かせてくれって直訴してみたわけです。今のままのやり方では、早晩詰まってしまうし、これほど難しくなっている会計や税務を自力救済していくのは無理だ、と。

「直訴はご法度ですぞ!」と腰巾着の小者達から取り押さえられるかと覚悟して臨んだのですが・・そもそも妨害とかなくて。あっさり、大学院へ行くことを承諾してくれました(企業派遣で学費は会社負担)。

あれ?っと拍子抜けした部分も正直ありましたが、気が変わらないうちに行くぞ!ということでこの年齢になって大学院へ進むことになりました。

働きながら学べる長期履修制度というのを利用して、4年間かけて単位をそろえて、ほぼ丸2年かけて修士論文を書き上げて、修士の学位を取得。

修了できたのは2年前のことになります。

さて、「体系的な学び」というものは得られたのでしょうか。

今日はそんなお話をしてみようと思います。

1.大学院は「体系」を教えてくれる場ではなかった!

2.修士論文で「体系」の一欠片を掴む?

3.体系的に学ぶって、どうすれば。

1.大学院は「体系」を教えてくれる場ではなかった!

いきなりですが・・大学院というところは学問の体系を教えてくれる場所ではありませんでした。

私の空想で、会計分野であれば、会計公準から始まって、企業会計原則を一つ一つ解きほぐして、個々の会計基準の成り立ちと意義などを延々と学んでいく・・ことを想定しておりました。

でも、ちょっと落ち着いて考えればわかるのですが、そんな順番で体系的な会計学を講義形式でやっていったら、いくら時間があっても足りないですよね。

修士課程、学部と同じように講義があって論文以外に30単位ほど取らなければなりません。講義は「ただ教授の言うことを受け身で聴いているだけ」という形式のはほぼありません。

冒頭の数コマ講義があったら、続いては課題を出されて、指名を受けた学生が次週までにレジュメにまとめて発表、学生同士で議論して教授のコメントを受けて直して・・という形式がほとんどでした。

この方式、初見のお題について、1週間で教科書の1章と関連文献を調べて読み込んで理解し、それをA4で2~3ページにまとめてプレゼンするということになります。

体系どころかブツ切れ断片的な知識、理論にしか身ににつきません。他の学生(ほぼ社会人でした)の当てられた章についても、読み込んでいかないと発言できないので、私はしっかりとやりこんでいきましたが・・ぜんぜんやってこない人もいて、講義時間中にまともな発言もできず、置き物状態になっている方もおりましたね。

こんな断片的な課題をこなすために細切れ知識を集めていて、「体系的な学び」とかできるのだろうか、とも一瞬考え・・ませんでした。とにかく仕事をしながらの講義なので、目先の課題をこなすので精一杯。

でも、この訓練が実は基礎体力作りであり、修士論文を書くときに役立つトレーニングになっていたとはそのときは気づきませんでした。

ということで、4年計画の大学院のうち、2年ほどでまずは単位を揃えて、ようやく修士論文というものを書き始めることになるわけです。

2.修士論文で「体系」の一欠片を掴む?

論文では、租税法と企業会計が交錯するテーマを選びました。

私の書こうとした論文の手法は、昨今の論文の多くを占める統計データを駆使した実証研究ではなく、税法の解釈と企業会計への影響を「あるべき論」で書く規範的研究というものです。

税法テーマの修士論文というとほぼ形式が決まっていて、課題の提示と概略、先行研究の整理、裁判例の検討とそれへのコメント、最後に自分の意見を述べて終わりという流れになります。

規範的研究では、その学問分野で基本書とされる文献をしっかり読み込んで理解しておかないと「ぼくのかんがえたさいきょうのぜいほうりろん」をやらかしてしまうことになります。

実際、先に論文に取り組んでいたけど、基本書の読み込み方が甘いのか、なんだかよくわからない主張を展開し、だんだん斜めに曲がってきてダメ出しを食らっている方もおりました。

あれ?「1」で最初に書いたことと合わないですね。

そもそも大学院では論文を書くうえで必要な知識の「体系」は教えてくれません。

なのに、自分の論文を書くためにはそれなりに自分で基本書を読み込んで、理解して、それを敷衍して論文に引っ張ってこなきゃいけない。

そこで使うスキルが、毎週繰り返された課題とレジュメまとめとプレゼンです。

修士論文の前に、こういう地味というか、直接的に知識は与えられないけどトレーニングを積む機会が与えられているので、ここでしっかりやっておけば、自分の書きたい論文テーマに進んだときに、応用が効く。

限られた時間で文献を読み込んで理解し、自分の言葉でまとめる。

社会人ばかりのゆるい大学院でしたので、トレーニング機会である講義で質の低いプレゼンをやっても単位を落とされてしまうことはなく、とりあえず論文の前には座れる。

ところが、真剣にやってこなかった人は、スキル不足でぜんぜん論文を書けないという事態に落ち込んでしまうわけです。

ゆるふわ大学院でしたが、さすがにそれなりの水準の論文を書かないと学位は出してくれず、留年してようやく書いて修了した人も複数、結局論文を書けず仕舞いで中途退学してしまった人も複数おりました。

論文というのは、どの学問分野に限らずごくごく狭い範囲のお題についてグッと深く掘り下げて論じていくことになりますが、その前段として、その分野でのお約束事とか共有されている規範とかをしっかりと理解しておかないと、「ぼくのさいきょうのりろん」になってしまい、学位はもらえないのではないかと思います。

論文の前提の規範とか、講義で「注入」してくれるわけじゃありません。

「教えてくれない!」と大学当局と教育プログラムに文句を言っていた方々は、一人は留年してようやく修了、一人は中退してしまいました。

確かに、片田舎の小さな地方大学の大学院ですから、カリスマ教授もおりませんしデータベースも図書館も貧弱でしたが。

論文を書くための「調べる方法」についてはしっかりと教授してくれたように思います。

というわけで、なんとか私も論文を書き上げることができました。

会計・税務についての体系を身につけられるかも、と期待してきたわけですが、一編の論文を書き上げたということで、そのひとかけらくらいは手にできたのではないかと思っております。

3.体系的に学ぶって、どうすれば。

4年間という時間と、授業料は企業負担だったものの、文献代・論文コピー集めなどで多額のお金も費やして大学院を修了し、得られたものはなんだったか。

一枚の修士号の学位記というものはもらえましたけど、企業勤めの身ではこれで直接的な便益はありませんし。

入学前に希望していた「会計・税務に関する体系的な学び」を完全に得られたわけではありません。

でも、この経験を通して、まったく初めてのことでも「何から調べていけば解決方法に辿り着けるのか」というスキルが身についたように思います。

先日、その効果を実感できた機会がありました。

同じ税法分野とはいえ、ふだんやっている企業会計関連とは畑違いの財産評価について、明らかに担当者が出してきた数字がおかしく、疑問に感じて自分で条文と通達を調べて計算してみたら、ちゃんと正解を出せたという(後で社外の税理士法人に検算してもらって正解が判定できたので)。

こういう「ぜんぶを知っているわけじゃないけど、調べる方法はわかっている」というのが普通の人が到達できる「体系」の山裾の入り口なのかな、と。

自力でここまで学べてそういう能力を習得できる人もおりますし、国家資格などの勉強で身につける人もいます。

ごくごく稀に、訓練しなくとも生来でそういう能力を得ている人もいるでしょう。

私の場合は、大学院に行かせてもらえたことでそれを得られました。

職業人としての人生はだいぶ後半ですけど、人生はまだまだ続くので。

せっかく山裾に辿り着けた会計・税務の体系ですから、これからも少しづつ登っていけたらいいな、と思っております。

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すらたろう
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