銀行の資金繰りの実際について。

企業が破綻するのは、収益で費用をぜんぶ賄いきれず、赤字が続いたときでしょうか。

それとも、債務超過といって、資産をぜんぶ処分しても負債を返済しきれなくなったときでしょうか。

いえ、企業が破綻するのは、資金繰りがつかなくなってしまったとき、つまり手元の現金・預金が尽きて、弁済期が到来している仕入れ先からの買掛金や従業員の給与などの負債(債務)を支払うことができなくなったときです。

会計上の赤字が続いても、手元の現預金を確保して、足りなくなったら銀行から融資を継続してもらえる限り、事業は継続できます。

債務超過になったとしても、いきなりすべての負債を返せ!と迫られるわけではありません。

倒産は、現預金が尽きてしまって、仕入先からの債権者からの請求も待ってもらえないという時点で起きるわけですね。

ところで、追加融資に応じるかどうか、企業の資金繰りの生命線を握っているのは銀行です。

銀行自体は、漠然としたイメージとして、無限に現金を持っていて自身は資金繰りが行き詰まることがないようにも思われているのではないでしょうか。

今日はこの銀行自体の資金繰りの実態について、お話してみようと思います。

1.銀行の負債の返済期日ははっきりしていない。

銀行の営業拠点の金庫には、それなりの現金が保管されていますし、ATM(現金自動受払機)にはお金が詰まっていて、空っぽになっているということはまず、あり得ません。

これは、もちろん預金者からの現金払い戻し請求に備えて準備されているわけです。

預金は、銀行にとっては負債であり、預金者は銀行から見ると債権者です。

一般の事業会社が負っている負債としては、商品仕入代金の買掛金や、建物を借りているときの賃借料、従業員給与などがあります。

買掛金であれば毎月月末締めの翌月末支払い、賃借料であれば1か月分を毎月末支払い、従業員給与であれば毎月25日と、支払期日はほぼ確定しています。

会社の経理に仕入先がやってきて買掛金をぜんぶ今すぐ現金でくれ、従業員がいきなりやってきて、働いた分の給与を今すぐ現金で払ってくれという事態はまず、あり得ないわけです。

銀行も、棚卸資産はありませんので買掛金は存在しませんが、給与や賃借料については返済期日が設けられているのは同じです。

ところが、銀行の最大の負債である預金の「返済期限」ははっきりしていません。

一般に使用されている普通預金は「要求払い預金」とも呼ばれ、預金者はいつでも予告なしに何のペナルティも負うことなく銀行に対して現金の支払いを請求を要求できるのです。

満期が定まっている1年定期定期預金であっても、利率の引き下げというペナルティを預金者が受け入れればいつでも現金化できることに変わりはありません。

これでは、銀行は資金繰りの計画が立てようがない・・となりそうですが、銀行の預金者はいっせいに「俺の預金を現金に替えてくれ」とは来ないわけです。

払い出しする人もいれば、預け入れていく人もいる。

年金支給日や給料日には現金が払いだされるのかは、経験則的に把握されています。

銀行のバランスシートを見ますと、現金は預金総額の1%前後しかないことがわかります。

この手許現金をATMや窓口に用意しておいて、預金者からの請求に備えているわけですね。

2.預金が急激に流出すると・・

銀行が平常通り営業していれば、経験則で偶数月の15日(年金支給日)、給料日(毎月25日、月末など)に現金が多く払い出されることがわかっていますので、ちょっと多めに現金を用意しておくことでじゅうぶんに対応できます。

預金者は、銀行を信用しています。いつ行っても、いくらでも現金を用意してくれるわけですから。自分の財産である預金の安全性について疑念を抱くことはないわけですから。

ところが、銀行の経営状態が悪化すると、預金者は銀行を信用しなくなり、預金を他の金融機関へ移す預金者行動が起き始めます。

こうなると、窓口には預金を解約して、現金を引き出そうとしたり、他の銀行へ振り込んでくれ、との依頼が殺到することになるわけです。

最近、不動産融資向けで不正が発覚したスルガ銀行では、信用が失われて全預金の10~15%程度がわずか数か月の間に解約され流出することになりました。

先ほど申しました通り、通常の銀行は、預金残高に対して1%程度の現金しか保有していません。

15%の預金者が短期間に押し寄せたら、とても対応できないわけです。

現金が用意できないとなると、今度は振込対応です。

たとえば、スルガ銀行から、信用力の高いお隣の静岡銀行の自分の口座へ振り込みしてくれ、となるわけです。

現金を用意しなくていいから、一安心、ではありません。

スルガ銀行は、振込した預金残高に相当する金額を、日本銀行の当座預金をとおして渡さなければならないからです。

1億円以上の振り込みになりますと、支店で電算機に打電した瞬間にスルガ銀行が日本銀行に保有している当座預金口座から、静岡銀行の日銀当座預金へ振替処理されます。RTGSと呼ばれる仕組みですね。

経営不安により預金流出が続きますと、ATMや窓口には潤沢な現金を置かなければならないですし、日本銀行にもじゅうぶんな残高を保有しておかなければなりません。

何しろ、どの預金者がいつどのくらいの金額を払い戻してくれと来るのかはわからないですし、現金引き出しでも振込でもどちらでも対応しなければならないので、これはなかなかにキツイ事態になります。

預金入出金に関する長年の経験則がまったく通じなくなるわけですから。

また、銀行は利息を稼ぐために資産の大部分を貸出金・有価証券として運用しており、現金も日銀当座預金も利息は生みません。

日銀当座預金にいたっては、一定残高を超えるとマイナス金利すら化されることに。

このため、一般的に、銀行としてはなるべく手許現金を持たないようにし、日銀当座預金にもできる限り持ちなくないと思って行動します(金融緩和による日銀当座預金のお話は、ちょっと別問題なので考慮外とします)。

預金流出が続くと、銀行の資金繰り自体が非効率なものになってしまうことにもなります。

3.銀行自体は資金繰りのためにどこから現金を借りてくる?

事業会社は支払いに充てるための現金が足りない場合は、銀行に行って融資を受けます。

銀行は、現金が足りなくなったらどうするのでしょうか。

現金そのものは、その名の日本銀行券という名前ですから、日本銀行から渡されるわけです。

交換するものは、銀行が日本銀行へ預け入れている預金=日銀当座預金ですね。

日本銀行が「銀行の銀行」と呼ばれるわけですね。

ところで、日銀当座預金の残高がないと、日本銀行は民間銀行にお金(日本銀行券)を渡してくれないのは当たり前のことです。

これは、残高がない預金口座のカードをATMに入れても「残高不足」と無情にも返されてしまうのと同じですね。

では、銀行は日銀当座預金をどうやって増やすのでしょうか。

大きくは、3つくらいでしょうか。

第1に、預金者が現金を預け入れてくれるか、他所の銀行から振り込んでくれる場合。

第2に、銀行が保有している有価証券を売却した場合。

第3に、銀行が他の銀行から借り入れする場合。

まずは第1のケースの説明ですが・・預金者が、現金を窓口に持ち込んだり、ATMで入金したりすると銀行の手元に現金が溜まります。

これが金庫に入りきらなくなれば、銀行は日本銀行の支店窓口に現金を持ち込み、当座預金への預け入れを申し込みします。これで日銀当座預金増加です。

また、先ほどのスルガ銀行・静岡銀行の例でいいますと1億円の振り込みが行われた瞬間に静岡銀行の日銀当座預金が増加することになりますね。

第2のケースですが、昨今の金融緩和というものの大きな手段の一つとして、民間銀行の保有している国債を、日本銀行が買取しております。

民間銀行が保有している100億円の国債を日銀へ売却すれば、代金は日銀当座預金が振り込まれ、100億円増加することになります。

第3のケースですが、銀行は保有する資産の多くを貸出金や有価証券で運用してなるべく利息を生まない現金を保有しないようにしていますから、一時的に日銀当座預金が足りなくなるケースもあるわけです。

このときは、短期金融市場で、銀行からお金を借りてくるわけです。

短期市場ですから、資金の貸し借りの返済期日は翌日(オーバーナイトと呼ばれます)だったり、1週間程度だったり。

呼ぶ(コール)することですぐ返ってくる資金ということで、貸す方はコールローン、借りるほうはコールマネーと呼ばれますね。いまだに取引は電話で約定されていることがほとんどです。その後の確認は電子化されていますけども。

多くは銀行同士の信用で貸借が行われますから、無担保・無保証であることがほとんどです(短資会社相手の有担保取引もあります)。

さて、ここで問題なのは、やはり銀行の信用力です。預金者が安心してお金を預けているのは銀行を信用しているからで、銀行という法人も、他の銀行を信用しなければお金を貸すことはありません。

信用がない銀行は、短期金融市場で他の銀行から相手にされず、どこからもコールマネーを借りることができません。

1997年の金融危機では、北海道拓殖銀行がそのような立場に追い込まれてしまいました。

誰からもお金を貸してもらえなくなって、負債、ここでは預金ですが、これを払い戻すことができなくなってしまえば、やはり銀行は経営破綻=倒産してしまうわけですね。

しかし、銀行は無数の預金者からお金を預かっていますし、預金者同士の資金決済も仲介しています。いきなり預金は払い戻せません、となったら経済がパニック状態になってしまうことになりまかねません。

そこで、銀行が預金払い戻し不能になったときは、日本銀行が「最後の貸し手」として現れ、預金と決済を保護してくれる仕組みが整えられています。

一般の事業会社の倒産では踏み倒しされたら泣き寝入りですが、銀行が経営破たんした場合は、金融システムを守るために、このようなしくみも存在しているわけですね。

この日本銀行からの民間銀行への貸出の仕組みは、銀行の経営破綻時だけにしか使えないものではなく、担保の範囲内でいつでも使えるのですが、これを申し込みすることは「民間の銀行からお金を借りられない」=信用喪失状態であるととらえられることを嫌い、ほとんど利用されていないのが実態です。


今は空前の金融緩和もあって、全般に銀行の資金繰りは極めて安定しております。

しかし、個々の銀行をみますと、経営の失敗で信用が失われて短期間のうちに預金が大幅に流出したりしている銀行もあれば、人口減で静かにじわじわと預金が減っていく銀行もあります。

今後も注目したいと思っております。


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