私と赤い公園

記事を書いてる今は2020年、年の瀬。
spotifyに今年リリースの良かった曲をプレイリストにまとめた。

https://open.spotify.com/playlist:76aCvfcsNQFXm3s2GVaeJH

良かった曲といっても、今年発表された世界中の膨大な音楽の中のほんの一握りのたまたまチェックしていたアルバムやシングルからのピックアップで、とても偏ってて抜けも多いと思う。それでも1アーティスト1曲に絞らないと聴く気も失せてしまうほど膨大になってしまうかもしれないので頑張って絞った。赤い公園以外は。赤い公園の曲だけはどうしても1曲というわけにはいかない。

僕が赤い公園の音楽をちゃんと聴きだしたのはまだつい最近といえる今年の8月からだ。赤い公園の前に、ゲシュタルト乙女という台湾出身台湾在住で、日本語で歌ってるバンドの曲をたまたま耳にして自然で渋くて良いなーと興味を持ち、ゲシュタルト乙女ヴォーカルギターのMikanさんのTwitterアカウントを覗いていたらMikanさんは日本のバンド赤い公園をとてもリスペクトしていて、赤い公園のニューアルバムの中では「Unite」が一番好きというツイートを見て意外に思い、速攻「Unite」を聴いてみたら衝撃的に良かったことから始まった。

10年前、僕は東京立川にあるとある営業事務所で働いていて、立川のライブハウスBABELがある道を歩いて毎日通勤していた。ある時、立川のレコード屋さんか練習スタジオか食堂かの壁に貼ってあった「立川出身の赤い公園のメジャーデビューを私たちは応援しています!」的なことが書いてあるポスターを目にして、メンバーの写真からして若いギャルバンなのかなということと共にそこで初めて赤い公園というバンドの名前を認識した。立川にはわりとヤンキー文化があるイメージだから、僕がなんとなく想像した赤い公園の音楽性は"どろっとしててキャッチーさの薄い垢抜けないガールズパンクバンド"って感じだった(イメージって怖い)。いかにも売れなそうな名前だけど頑張ってんだね〜くらいに思った記憶。10年間その勝手なイメージはずっと引きずってしまっていた。1、2回ちょい聴きチェックをした覚えはあるが、イントロと歌い出しを少し聴いてこんな感じね〜なんてパスしてた。

赤い公園でなくとも音楽にちょい聴きで判断することは音を聴く行為として本来的には邪道だ。しかし音楽ファンの中でもちょい聴き判断は絶対しないなんて言える人はほとんどいないんじゃないかという気がする。全てを予測ジャッジなしにピュアな耳で楽しむには聴きたい音楽が多すぎる・聴いてみたい音がありすぎる。ただでさえ音楽は時間泥棒である。誰にでも優先順位がある。何かきっかけがないと己の偏見を纏ってしまった名前の音楽をまっさらに受け止めることはできない。そのきっかけはどんなに不純でもなんだっていいと僕は思う。

で、最初は「Unite」と続く「ソナチネ」のドラマチックな美しさにやられてその2曲ばかり繰り返し聴いていた。で、ふとどんな風貌の人達だっけ?ってYouTubeで『THE PARK』のメイキング動画を見る。そこでのスタジオで「Mutant」のMIXプレイバックをノリノリで踊り聴く4人の姿を見た瞬間にこの子達はいい!そんでこのイントロヤバイ!みたいにグイッと引き込まれ、『THE PARK』を全体で聴くようになった。まあ誰かがアイドルを好きになるようなきっかけと変わりがないっちゃ変わりがない。

『THE PARK』収録の「Mutant」と「yumeutsutsu」の無敵な高揚感、「KILT OF MANTRA」の辺境の地のフォークソングのような独特さ、「絶対零度」の中にあるいくつものヤバい要素。特に”息を吸って吐くことが奇跡なんだとしても・淡い泡一つ潰したい”の部分のメロディは美しすぎて何回聴いても感嘆する。他の曲も聴き込む度に好きになっていき、名曲とカンフル剤と神曲しかない完全無欠なめっちゃくちゃ凄いアルバムだと思い至った。それが8月。

その後2017年の前体制でのラストライブ映像(「熱唱祭り」)を見て前のボーカル佐藤千明もど迫力で歌うまくてめちゃかっこいいな!ドラム歌川菜穂上手いしカッコいいしずっと楽しそうでめちゃかわいいな!ベース藤本ひかりファンキーだし上手いしエグい音ぴょんぴょんしながら出しててかわいいな!ギター津野米咲(つのまいさ)男の子みたいだけどカッコいいしフレーズセンス抜群だしえ?全部この人が曲書いてるの?100%天才だな!ってなって、過去のアルバムや津野米咲のラジオアーカイブなども遡って聴いていくようになった。

『THE PARK』以外のアルバムの曲でも、眩惑的な「デイドリーム」、スケールのでっかい「風が知ってる」、毎日聴かなきゃ気が済まず実際毎日聴いてる「勇敢なこども」、絶望の深淵が音になったような「ドライフラワー」、エレカシの「ズレてる方がいい」的な爽快なアンセム「journey」、決意が熱い「消えない」、代表曲として後世に残りそうな「Highway Cabriolet」、他「Canvas」「108」「KOIKI」「交信」「プラチナ」「牢屋」などなど特別気に入ってる曲は沢山ある。

ヴォーカリストが石野理子になって新たな魅力を纏って今までと違った雰囲気の傑作「消えない - E.P」「THE PARK」を放ち華麗に最高を更新した赤い公園がまた「THE PARK」すら超える素晴らしい新作をきっと連発していってくれるだろうことがもう目に見えていて、ワクワクの明るい未来しかないと思っていた。ファンはみんなそうだったろう。

だけども、赤い公園の唯一無二のソングライター津野米咲は今年10月18日、身体の無い世界に旅立っていってしまった。物凄い喪失感。何がどうしてそうなったのかはわからないけど思わず「なんでだよ!」って口から出ちゃったね。そのことについては語りたくない。語る言葉もない。ただただ残念極まりない。

私にとって2020年のベストアルバムは赤い公園「THE PARK」だ。だけどもそれは津野米咲が亡くなってしまったこととは関係がない。そのことが起こってなくても変わらず断トツのトップにあげてる。そこんとこは強調して言っておきたい。そして、それとは関係なく、もしまだあなたが赤い公園の音楽をちゃんと聴いたことがなかったんだとしたらぜひこれからでも遅くないから聴いてみてほしい。宝の山だよ。

津野米咲がこれからの時代にリアルタイムで書く新曲というのはもう聴くことはできないけど、これからもきっと赤い公園は活動を続けてくれるような気がする。そんな気配がある。それはそれで期待していたい。津野米咲がこの世にいたことを演奏で鳴らして証明していきたいとひかりさんも頼もしく言っている。






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