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2023年はこれを聴いとけばよかったベスト5

クリスマスイブ、医局のテレビを占領し、M-1グランプリを鑑賞する。平素当直時に常に思っていることであるが、このときばかりは格別な念をもって世の子どもたちの健康を祈り続ける。しかしとやたらと咳が出る。なんか変やなと思うて買った龍角散のど飴も底をつく。マユリカとカベポスターもうちょい点高くてもよかったな、と思いながら仮眠室で寝床につく。祈りが通じ、急患で呼び出されることもなかった。サンタクロースもなかなか見どころがある。

翌朝、起床とともに身体に悪寒が走る。外の電光掲示板を見ると氷点下4℃であり、こんな寒いところに人住むなや、と思いながらチャンピオンのスウェットを着込み午前の外来業務に勤しもうとする。寒気は寒さのせいにしていたがなんか身体もだるいし、と思って熱でも測ってみるかと思うと普通に熱が出ている。続く咳と発熱、コレは風邪や、と29年間鍛えた頭脳が冴えわたる。上司に熱出てきましてぇ、と暗に帰らせろと懇願すると「大丈夫?」だけで流されそうになり、大丈夫なわけあるか、こちとら直明けで病人で感染源やぞ、と遠回しかつ申し訳なさそうに懇願することでなんとか帰宅命令がくだされた。

息も絶え絶え帰路につき、まあ大丈夫やろ、と家庭用のコロナインフル抗原キットを試してみると、Cのラインにくっきりと線が出る。このCはコロナのCかコントロールのCか、とぼんやりした頭では判断つかず一旦寝る。翌朝、これはどう考えてもコロナやな、と納得し職場に一報を入れると、諸々の都合で年内の仕事が終わることになり、そして正月一日から仕事を組み込まれる。とんでもないクリスマスプレゼントやな、と具合の悪い身体を抱えて凹む。

パッとしない終わりで2023年が終わった。仕事に明け暮れて家で飯作って酒飲んでサッカーを見ていたら一年が終わった。どんな年かと聞かれたら、サッカーを見てたとしか言いようがない。

思えば本は一冊も読まんかった。あれほど過去には作家を自称し、読書は人生を豊かにするんやと信じていたものであったが、今や世界で一番おもろい娯楽はサッカー、サッカーが世界で一番おもろい娯楽、と反射的に言うようになっている。京都サンガは残留争いに巻き込まれ、トッテナムは勝てる試合を逃し続け、調子上げたと思うたら主力が軒並み怪我をする。こんなチーム応援して何が世界一の娯楽やねんと思われても仕方ないのであるが来年も応援し続ける所存である。

本棚の書籍のスペースをレコードが圧迫し始めたのもこの一年の変化である。レコード屋で物色する行動は、かつて休みになればTSUTAYAに赴いてCDの棚を睨みつけていたあの頃を思い出しなかなかに気分がいい。懐古主義と言われては仕方ないが、今や40〜50年前の音楽を探ることは歴史書を紐解くような感覚がある。

仕事をし、消費する、を繰り返して消費者としての感覚が自分の中に蓄積されていく。とはいえ全ての人間が創造的な人間である必要性もないわけであり、自分が創造者になることにこだわらなくなった。今の自分は消費者として肩を振り回しているわけであるが、今手にしているものは、かつて誰かの記憶に残り続けていたもので、そして今自分が手にするものも自分の記憶に残り続けるものであるように思う。誰かの創造をこの先に残していくことも小さなことではあるが重い仕事だと思う。

間違いなく今年一番ただ消費したのは高すぎるガゾリン代である。

前置きが長くはなったが、今年聴けてよかったアルバムを5つ選んだ。なんで10ちゃうねんと言う話であるが、今年は過去の曲を掘ることに勤しんでおり、新しい曲をあまり聴けなかったためである。

1.Stereo Mind Game/Daughter 
https://music.apple.com/jp/album/stereo-mind-game/1654233350

https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_kmExMk00jNlhx1_MSIkT_y3qy2d-2Y5bM&si=HVaWsVLl7x0oG1am

待ちに待ったDaughterの新譜。昔から本当に好きだった!
Daughterにしか出せないこの空気感、聴き入る曲ばかりなのにどうしてか重くなりすぎないバランス感覚は相変わらず素晴らしい。暗さの中に美しい光が染み入るようなそんなアルバムのように思えた。待っていて本当に良かった。

2.Silver/Say She She


自分の中では間違いなく今年ベスト。
NYのサイケデリック・ディスコ・バンド、Say She She、前作を聞いてなんだこれは!!!と衝撃を受けたまま2ndを出されて、さらに衝撃を受けた圧巻の作品。ファンク、ソウル、ディスコの要素が現代風にこうもうまくアップデートできるのかと感心させられっぱなしだった。グルーヴィなバックサウンドにソウルフルな声が重なり、ポップな曲調の中に強さが胸に迫ってくるようなそんな聞いたこともないような感覚を覚える曲ばかり。どうしてもそれが美しく聞こえるなんて、なんて贅沢な作品だ!と心から思う傑作です。

3.Lotus Glow/Adi Oasis

https://music.apple.com/jp/album/lotus-glow/1660061448

https://youtu.be/UyR2Qb3UcGY?si=zv-0nA0dqmNSijz2

今までネオソウルというジャンルに触れてこなかったのを恥じたぐらい、この人でジャンルにどハマりしたSSW。
どんなジャンルかと言われるととにかく聞いてみてくれとしか言いようがないのであるが、このポップさ、グルーヴ感、そしてソウルフルな声は、そう、こういうのが聴きたかったんやな、思わされる。
全曲こういうのが聴きたかったんよ、と思わされるなんてとんでもないアルバムとちゃうか、と思うに至る。どんな気分にも寄り添ってくれる、傑作だと思う。過去の作品も全部いい。

4.Yard/Slow pulp

同じスローでもSlowdiveがフジロックに出演したのも新しい(めちゃくちゃよかった)が、この若いバンドがインディロックファンに届けたこのアルバムが数々の人の心を掴んだことは明らかだと思われる。初期のEPの荒削りながら尖っていた感覚も好きだったが、今作は見事、こうしてバンドはデカくなるのかと思わされる完成度の高さだった。ソニックユースから好きだったこの音楽を好きでいて良かった、インディロック好きで良かった、と心から思った。4曲目のSlugsはマジで泣ける。

5.Flight Facilities Decade Mix 2012-2022/Flight Facilities


とにかく頭空っぽにして通しで聞いてほしいミックス。かっこよすぎる!!!なんて気が利くミックスなんだと思わず笑ってしまう。なんだなんだと思ってるうちに曲が変わって、おいこの曲知ってるぞと気づいたらさらにまた曲が変わっていく目まぐるしさ、どんなテンションでこのミックス作ったんやと思う。


来年もいい曲に出会えると嬉しい。
この数年、世界も変われば自分もよく変わっている。来年になってまた何を思うかはきっと変わっていることだろう。実は書かなくなった小説もまた書きてみたいとは思っていたりもしているのだ。

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