海からの贈り物 海ほおずき
東から西へ、緩やかに弧を描く湘南の海。
鵠沼海岸の沖合に浮かぶ江ノ島は、四季を通じて滴る緑に包まれる。ブナ科の常緑樹が島全体を覆い、まるで海に浮かぶ樹林のように見えることから「緑の江ノ島」と呼ばれ親しまれて来た。
今でも朝番組のオープニングの顔となって映し出され、日本全国、誰にとっても馴染みの景色になっている。
昔、島に向かう弁天橋のたもとには、涼しげなよしずで囲った土産物店が立ち並び、 サザエの壺焼き店のいい匂いに混ざって、赤や黄色の海ほおずきを小さな竹籠に彩りよく盛って売る店があった。
海ほおずきと言っても今の人には殆ど馴染みの無いものだろうから、少々説明を加えたい。
指先ほどの大きさで、下膨れの顔の様な形や、バナナの形をした袋状のものがフサのように連なり、そのひとつひとつの袋に小さな三角の穴が開けられている。
植物のほおずきと同じでひとつを口に含み、空気を押し出すようにブウブウと鳴らして遊ぶのだけれど、結構難しくて私など上手く鳴った記憶がない。
海ほおずきは、海岸近くの岩礁や漂流物に産み付けられた巻貝の卵嚢だそうで、この事実を半世紀以上知らずに来た。
海水浴中、白い小さな袋の房が波間に漂っていたり、海岸に打ち上げられているのを見かけたことがあったが、海藻の一種だとずっと思っていた。
この卵嚢に、赤や黄色や飴色の色彩を施し穴を開けたものが海ほおずきなのである。
どちらかと言うと、私は鳴らして遊ぶより可愛らしい形や彩りを楽しんだ。
何処で買ったか忘れたけれど、キャシャゴといって小さな円錐形の燻し銀のようなキラキラした貝殻が大好きで、海ほおずきの竹籠に一緒に盛り、勉強机置いて眺めたりしていた。
巻貝が全滅しない限り今もあるだろうけれど、うちの子供達に聞いても首をかしげるだけで植物のほうずきのことかと反対に質問される。
可愛らしい海からの贈り物、今の人は知らないだろうなぁ。
知っているのは昭和世代——過ぎし日のレトロな話でしか無いのかと時代の違いを痛感する。
自然界のものをそのまんま遊びのツールとして使う、まさしく持続可能な社会のはしりだと思うんだけれど……。
郷愁に浸りながら、海辺の土産物店の他に縁日の夜店でも売ってのを思い出して、もしかして今でも何処かで売っているはずと調べて見たら——浅草の夏の風物詩、ほうずき市で見かけたという情報を得た。
嬉しい! 欲しい!この節制の無い欲求は何なのだろう。
でも自然界のものなので入手はかなり困難とある。運良く入手出来たら永く手元に置くために純度の高いアルコールに浸し、一回ほど液を入れ替える必要があるらしい。
だとしたら、アルコール溶液のガラス瓶に入れて、水中花の様に永ーく飾って楽しむことが出来そうじゃない⁈
もう既に心は踊って来た。
☆ ☆ ☆
若者の言葉を借りるなら、インスタ映えする「海からの贈り物・海ほおずき」。
広く復活させる為には巻貝ばかりでなく、海洋の生き物が棲息できるきれいな海を取り戻していかなければなりません。(すみません、海ほおずきに特化してはいけませんね。)
海辺の清掃活動をするポランティアに任せるのではなく、健やかな未来のために自分の生活から見直していかなければと思います。
小さなきっかけですが、全ては持続可能な社会の目標に繋がっていくのですね。
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