見出し画像

テルミンで低い音がでなくなったときの調節方法~チューニング/キャリブレーションの方法

「Etherwave Theremin」を購入して2か月でテルミンのピッチレンジの調整がうまくいかなくなりました。テルミンは始めたばかりで最初は故障と思いましたが、最終的には現在のテルミンのカスタマーサービスに相談し自分で調節が可能なことがわかりました。
この記事では、学研プラス「テルミンmini」と「Etherwave Theremin」を比較しながらテルミンの仕組みを我流で理解した事柄を記し、後半は問題の解決までの対処法を説明します。


テルミンの普通の状態は

「Etherwave Theremin」の音域は最大5オクターブで、安定しているのは真ん中の3オクターブくらいと考えられています。最も高音なのはピッチアンテナの近くで徐々に低音になりついには無音(ヌル・ポイント)になります。手を最も体に近く引っ込めた時に無音になるようにピッチレンジの調節本体につまみを回すと最大レンジを引き出すことができます。
つまみを反時計周りに回すとヌルポイントがアンテナから遠ざかり、音程の幅が広まり、半時計回りではアンテナに近づき幅が狭くなります。

音域と身体からの距離の関係とPitch Rangeの調節

テルミンが不具合の状態

最初はPitch Rangeつまみで調整できていたのですが、つまみを時計回りに回し切ってもヌルポイントに達せず、低音までをカバーできなくなりました。梅雨のせいで調子が悪いのかと思っていましたが、どんどん低い音がでなくなっていき、高い音域の1オクターブ強くらいの音域しか演奏できなくなりました。
ちなみに、ベテランのテルミン演奏者によるとテルミンのピッチが変わりやすいのは「環境、特に温度に敏感で、しばしば演奏途中に調整が変わって来てしまいます。温度が上がるとどうなるか、というと、最高音(ピッチアンテナの位置)から、最低音(手元)までの、鍵盤の長さが伸びる。(テルミンミュージアム、大西ようこ氏「テルミン演奏法の説明 (coocan.jp)」より)」そうです。

相談窓口

最初、KORGのカスタマーサービスにメールで相談したところ、KORGはMoog Music社製品については2023年12月31日で輸入代理店業務の全てを終了したのでinMusic Japanに連絡してくださいとのことでした。
……………………………………………………………………………………..
KORGでのMoog製品ユーザーサポートは、2023年12月15日にて受付を終了させて頂いております。
Moog製品のお問合せにつきましては、inMusic Japanまでお問合せ下さい。
inMusic Japan(株)
https://inmusicbrands.jp/
〒106-0047 東京都港区南麻布1-5-10 小池ビル1-2階
サポートセンター電話番号:03-6277-2230
(10:00〜17:00、月〜金(祝祭日は除く))
…………………………………………………………………………………..

あらためてinMusic Japanに電話で相談したところ、①チューニングのやり方に問題がないならば、②キャリブレーションを自分で行ってください、できなければ有償でサポートが可能ですとのお返事でした。

結局は、①チューニングのやり方には問題がなく、②キャリブレーションが必要だった。のでそれらの方法を順に説明します。

1.「テルミンmini」や「Etherwave Theremin」のチューニング方法

チューニングとかキャリブレーションとか初めてで理解が出来ないので、原理を勉強することから始めます。以下は学研プラスで出版された「テルミンmini」の本やら、「Etherwave Theremin」の解説書などに書かれた原理を自己流で解釈して簡素化したもので、時に不適切な解釈があるかもしれませんのでご了承ください。とにかく、本や解説書はテルミン用語であふれかえっていてたいへん読みにくいので我流にメモしておきます。

テルミンが鳴る原理から

ヘテロダイン(英: heterodyne)とは、ラジオや信号処理で、2つの振動波形を合成または掛け合わせることで新たな周波数を生成すること。受信電波に他の周波数の波を混合し,両者の差の周波数をもつ波に変換すること。高い周波数を取扱いやすい低い周波数に変換するなどの目的に広く用いられる。

  1. 二つの電子回路により振動を作る。片方はテルミン本体に備えた電子回路、もう一方は、アンテナ、手、その間の絶縁体としての空気を回路に含んだ、静電容量を手とアンテナ間の距離で変化させられる電子回路であり、これにより二つの周波数が異なる高周波が生じる。手とアンテナに近づけるほど静電容量が大きくなり結果的に高い音を発するようになる。

  2. 二つの高周波を足し合わせたときに周波数のずれによって波のうなり(ビート)が発生する。

  3. ビートの輪郭部分を特殊な回路で電圧信号として取り出し「ビートと同じ周波数を持つ波」を作る。

  4. このままでは波が小さすぎるのでアンプで増幅、スピーカーから音として出力する。

  5. 環境要因により波の状態は変化し、その都度手動で変化させて音の範囲を調整する可変抵抗部分があり、それが調節つまみとなっている。

テルミンの原理をテルミンミニの構造で説明した図

チューニングの簡単な説明

チューニングとは楽器の音域をどのくらいの幅にするかを決める作業です。テルミンの音は、天候など周囲環境でベースが変化してしまうためチューニングで音程を演奏の都度に微調整する必要があります。そのために、テルミンには外からチューニング棒を差し込んで回路の抵抗を変える部分(アジャストといわれます)があり、時計回りに回すと抵抗が小さくなるようになっています(上の図の下のあたりにテルミンミニを使って説明しています)。
手の最遠の位置からアンテナの距離で音がちょうど鳴らなくなるタイミング(ヌル・ポイント)にすると、最も幅広い音階をとることができるので、はじめは取り合えずそれが最適条件として設定します。

「テルミンmini」でのチューニング

テルミンミニでは上図のように、本体前面に二つの穴(前述のアジャストです)があいています。左の穴が本体固有の電子回路、右の穴が手とアンテナを含んだ電子回路となるので、ベースとなる左の穴を主にいじります。チューニング棒を差し込んで右に振り切ってから、反対に半時計周りに回していくと、二つの高周波が一致した部分が現れ、無音となります。無音となるギリギリ手前でチューニング棒を止めます。つまり、説明書きの通りですとテルミンミニの場合はチューニング棒を持った手の位置がヌル・ポイントとなるような調節をしています。ただし、このままだと演奏音域が狭いので、音域を広げるために、左側は少し低音がなるくらいにしておいて右側で微調節して広げる工夫をしている人もいます。
YouTube「学研テルミンminiのチューニングはこうすれば簡単!」
https://youtu.be/pNdy5tmky78?si=K0vlq5ookdQc31pq

「Etherwave Theremin」の日本語版取扱説明書

商品についてくる取扱説明書は英語版ですが、日本語のはネット上にあります。

https://www.korg-kid.com/moog/wp-content/uploads/2022/08/Etherwave_Theremin_Manual_J.pdf

「Etherwave Theremin」でのチューニング

日常的にチューニング棒で調節する必要がないように、「Etherwave Theremin」では本体に手で調節するつまみが本体前面についています。
このつまみは説明書内でノブと言われることもあるし、テルミン用語ではトリムと表現されます。
トリム:つまみの部分。微調節する。
演奏前にはトリムで微調節して演奏するので頻繁にいじるところです。
ピッチレンジは、手を体にひっこめたときの位置をヌル・ポイントになるようにすることが多く、さらに指の開閉で1オクターブを表現するのにちょうどいい程度に微調節する演奏者もいます。

ピッチとボリュームアンテナレンジのチューニングのつまみの説明図(取扱説明書より一部引用)

さて、「Etherwave Theremin」でのチューニングは演奏の都度行うものですが特に難しさはなく戸惑うのははじめだけですぐ慣れます。通常、チューニングはピッチレンジとボリュームレンジの二つを行います。ここでのボリュームレンジは、音全体の大きさではなくてボリュームアンテナに手をかざしたときの音の立ち上がりの速度や範囲などの調整です。

問題は、チューニング棒を穴に突っ込んで行うキャリブレーションと呼ばれる調節です。なかなか説明書を読んでもわかりにくいところです。

「Etherwave Theremin」はすぐに演奏できる状態に工場で設定されているのでチューニングはトリムと呼ばれるつまみを回して調整すればいいのですが、それより大きく調整する場合は次の用にチューニング棒を使ってアジャストを調整するキャリブレーションを行うことになるのです。

トリムとアジャストの効果

日常的なつまみ(トリム)を使ったチューニングでは音域が適正でないばあいには、チューニング棒を使ったアジャストで大きく動かして調整します。
実際は同じ効果をもたらし、アジャストで調整した方が大きい効果が得られますが、音域を大幅に変えたり、回しすぎると予期せぬ状態(詳しくは取扱説明書)を引き起こすことがあるので、注意が必要とのことです。

トリム(つまみ、ノブ)とアジャストの違い

2.テルミンのキャリブレーションの基礎


「Etherwave Theremin」で環境状況によって上述のチューニングでコントロールできなかった場合は、「テルミンmini」と同じようにチューニング棒アジャストに差し込んで音域を調節します。チューニングとキャリブレーションは時々混同されて使われますが、チューニングはより一般的な言い方です。ここではつまみを回して行う調整をチューニング、棒を差し込んで行う調整をキャリブレーションと呼んでいきます。
下図のように「テルミンmini」では黒いチューニング棒、「Etherwave Theremin」では赤いチューニング棒がついています。
アジャスト:ネジに通じる穴でチューニング棒をいれるところ。大きく調節する

2022年9月1日発売の『大人の科学マガジン BESTSELECTION 06 テルミンmini』(学研プラス)付属の黒い棒(左)に相当するETHERWAVE THEREMINの取扱説明書の上の赤い棒(右)

過去歴代のテルミンでは、箱を開けて内部のトリムポット(またはトリマー)を目で見ながら調節することが出来ました。このトリムポットは、おそらく電気部品ではIFTコイル(下図)という名で売られているものでしょう。上から見るとマイナス記号ーのようにへこんだ部分があり、チューニング棒を引っかけて回すことができます。

テルミンの外壁を外して中の三つの穴を音を聞きながら調節しているところーYouTube”「出張!テルミン鑑賞会、街角マチコ”」から画像を切り取りました。「Etherwave Theremin」ではこのように中を開けることはできず、外側から「アジャスト」とと呼ばれる穴を通してアプローチします。
動画は以下から閲覧できます。

https://youtu.be/od2-EyrD43M?si=u0RCbPqLvcGrdOTD

YouTube”「出張!テルミン鑑賞会」街角マチコ”

「Etherwave Theremin」では箱の中身は見られませんが、外箱の穴からチューニング棒で調節できるようなしくみの穴が六つ空いています。

「Etherwave Theremin」の外側に開いたキャリブレーションが可能な六つの穴

この六つの穴の奥の内部には下図のようなパーツがあり、樹脂製であるため精密な操作が必要とのことです。溝のある部分にチューニング棒を差し込んでコアを回して調整際に、限界以上に回したり力を入れたりすると破損する可能性があるそうです。溝の形はマイナスではなくクロスの形です。

「inMusic Japan」より提供されたキャリブレーション部位のパーツの写真

フロントとリアパネルにある3つのパラメーターと、トップパネルにある3つのオシレーターに上のクロスの溝があるパーツがあります。

パラメーター:フロントとリアパネルに外部に開いた穴があり、比較的アプローチしやすい構造をしています。周波数を変えずに調整できます。

  • ベースリスポンス(フロントパネル)

  • スケールパラメーター(リアパネル)

  • レンジパラメーター(リアパネル)

オシレーター:周波数を制御できるデバイス部分を発振器(オシレーター)といいます。「Etherwave Theremin」では3基のアナログ・オシレーターを内蔵しており、ボリュームをコントロールするボリューム・オシレーターが一つ、ピッチをコントロールするピッチ・オシレーターが二つあります。トップパネルの黒い細い板を外すと現れます。

  • ボリューム・オシレーター

  • 固定ピッチ・オシレーター(Fixed Pitch Oscillator: FPO)

  • 可変ピッチ・オシレーター(Variable Pitch Oscillator: VPO)

これらオシレーターは、すぐに演奏できる状態に Moog Music の工場で調整され、再調整する必要はほとんどないと説明書には書かれています。人間の可聴帯域をはるか に超える高い周波数にチューニングされており、ボリューム・オシレーターは通常 515kHz 付近、2 つのピッチ・オシレーターは通常 330kHz 付近に設定されているそうです。

今回のように、ピッチレンジに問題のあるばあいにまず試みるのは、フロントパネルにあるパラメーターのベースリスポンス、それでうまくいかない場合にはトップパネルの固定ピッチオシレーター(FPO)という部分を調節します。

① 「Etherwave Theremin」でのフロントパネルでのベースリスポンスのキャリブレーション

下図のちょっとへこんだ穴にクロスの溝があり、そこにチューニング棒を差し込みます。低音レスポンスがdullになるのかsharpになるのかという解釈でよいのかわかりませんが、時計回りに回すと少し低音が出るようになりました。
取扱説明書の記事を下に転載します。
「PITCH RANGEとWAVEFORMノブの間にあるアクセス・ポイントで、Etherwave Theremin の低音レスポンスを設定するトリムポットを調整できます。工場出荷 時の状態では、このパラメーターは FPOとVPOとの間で生じるカップリング(結 合)の大きさを低めに調整しています。この場合のカップリングは、ゼロ・ビート の時点で 2 つのオシレーターが互いに軽くロックされる状態を指します。カップ リングの強度を高めにするとゼロ・ビートがより強くなる(ゼロ・ビートの状態に 入りやすくなり、そこから出にくくなる)反面、低音でのプレイアビリティが多少 損なわれます。逆にカップリングの強度を低くすると、低音をよりスムーズに演 奏できるようになりますが、ゼロ・ビートは弱くなります。…スムーズな低音のプレイアビリティを最大限確保したいときは、トリムポットを反時計回り方向にやさしく回し切ります。ベース・レスポンスの調整は、トリムポットを時計回りに回し たときには結果が大きく変化し、反時計回りに回したときには結果はそれほど大きく変化しません」

フロントパネルのベースリスポンスの穴

② 「Etherwave Theremin」でのトップパネルでの固定ピッチオシレーターを介したキャリブレーション

ベースリスポンスでピッチレンジの補正がうまくいかなかったため、トップパネルのオシレーターをいじります。
Etherwave Thereminでは、ふたを外すことはできず、トップパネルの黒い細い板をスチック製のヘラなどで端から持ち上げると見える穴にチューニング棒を差し込んで調節します。

トップパネルでのキャリブレーションのアクセス部位

具体的なキャリブレーションの方法は経験がないと取扱説明書を読んでも全くわかりませんので、「inMusic Japan」より送っていただいたデモ動画を基に行ったことを記します。
まず黒い板が外しにくく、私は付属していたアースの金属部分で持ち上げてプラグの金属部分で持ち上げました。2か所の穴で固定されているので無理やりすると黒い板が折れ曲がるかもしれません。
「テルミンmini」のキャリブレーションと同じで、いじるのは二番目の固定ピッチオシレーターです。ここは覗いても見えないくらい深いところにクロスの溝があるはずです。手加減が始めはわからないので、耳の鼓膜と思って最初はそっと棒を差し込むだけにします。無造作にすぐにぐるぐる回すと、工場で適正な周波数に設定していたところがめちゃくちゃになって後から修正の方法がわかりにくくなるので、慎重に行います。

トップパネルの固定ピッチオシレーターにチューニング棒を差し込んだところ

「ツールを用いて固定ピッチオシレーターを反時計回りに回していくと
全体のピッチが下がっていきます
ので、その状態でチューニングをやり直し、音程が下がる事を確認します」(「inMusic Japan」のカスタマーセンターの方から個別に教えていただいた内容です)。
チューニングの場合は、トリムを時計回りに回してヌルポイントを見つけていましたが、キャリブレーションは、トリムを12時に合わせて音を確認しながら、アジャストは1回の調整につき1/8周くらいに微妙に回して、その都度チューニングを確認して判断します。「inMusic Japan」でのデモでは1度の調整で十分に低音が現われましたが、私の場合は2度の調整後にヌル・ポイントが現われ、元通りに演奏することが出来るようになりました。

キャリブレーションは、トリムを12時に合わせて音を確認しながら、アジャストは1/8周

終わりの感想

テルミンを長く演奏している方は、テルミン内部をチューニング棒でいじってキャリブレーションすることを当たり前のようにされていたのですね。テルミンを始めるにはテルミンの中身の構造についても理解が必要なんだと思って今回は初歩から勉強しました。取扱説明書は日本語でも意味がわからなかったので、わからないところを「inMusic Japan」に相談して丁寧に教えていただけたのは大変ありがたかったです。
テルミンで問題になるのは主にピッチレンジが狂うことだと思いますので、今回の記事がどなたかのお役に立てればなと思います。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?