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PL(偏光)フィルターを用いた無反射フォトグラメトリ撮影

こんにちは、SUPERSCANSTUDIOの仙石です。今回はフォトグラメトリー撮影において光沢のある素材を撮影する際の方法を紹介します。

フォトグラメトリーの原理

フォトグラメトリーは、複数の画像から同じ場所を捉えたポイントを見つけ出し、そのポイントを使用して三角測量を行うことで、3Dデータを生成する技術です。通常、異なる角度や位置から撮影された複数の画像を使用します。これらの画像は、重なり合う領域を持っており、この重なり合う領域が重要な役割を果たします。

フォトグラメトリーの原理は、画像間の共通の特徴点を見つけ出し、それらの特徴点の位置を把握することに基づいています。これらの特徴点は、一般的には明るさの変化やエッジの検出など、画像内のパターンの局所的な特性に由来します。各画像から見つけ出された特徴点の対応関係を特定することで、それらの点の3次元位置を推定することが可能になります。

特徴点の対応関係を見つけるためには、画像のオーバーラップが重要です。つまり、異なる画像間で同じ対象を捉えるためには、それらの画像が重なり合う必要があります。オーバーラップが不十分だと、特徴点の対応関係を正確に特定することが難しくなり、結果として3Dデータの精度が低下します。そのため、フォトグラメトリーにおいては、撮影時に十分なオーバーラップが確保されるように計画することが重要です。

オーバーラップ率を担保した撮影

フォトグラメトリーに不向き素材

光沢のある素材、特にメタリックな素材は、フォトグラメトリーにおいて非常に挑戦的な対象です。なぜなら、光沢がある素材は撮影環境の光の影響を受けやすく、撮影された画像間で一貫性が欠けることがあります。このような素材を撮影する際、光源の位置や強度の変化によって、隣接する画像で異なる光反射が生じる可能性があります。その結果、固有の物体の表面にある特徴点が、異なる画像で異なる見え方をすることがあります。

この問題は、特に解析段階で顕著に現れます。フォトグラメトリーのソフトウェアは、異なる画像から同じ物体の特徴点を正確に特定し、その特徴点を使って三次元モデルを構築します。しかし、光沢のある物体では、同じ特徴点が異なる画像で見た目が大きく異なるため、解析ソフトウェアが正しい対応関係を見つけるのが難しくなります。その結果、生成された3Dデータが不均一で、表面がノイズによりデコボコ​になることがあります。さらに、特徴点の正確な特定が困難な場合、完全な3D形状を再構築することが難しくなる場合もあります。

光沢のある対象を扱う際には、撮影環境の光の影響を最小限に抑えるための工夫が必要です。これには、均一な照明を確保することや、反射を防ぐための表面処理を行うことが含まれます。また、光源の位置や角度を調整して、光の反射を最小限に抑えることも有効です。さらに、撮影時に使用するカメラやレンズの選択も重要であり、反射を最小限に抑えるための適切な機器を選ぶことが重要です。これらの工夫を行うことで、光沢のある対象に対するフォトグラメトリーの精度を向上させることができます。

ストロボの光が反射した様子1
角度によりストロボの光が反射した様子2
オーバーラップ率が下がりアライメントが取れない状態

PL(偏光)フィルターを使用した無反射撮影は、光沢のある素材に映り込む反射を抑えるための効果的な手法の一つです。

手順は以下の通りです:

  1. カメラとストロボの両方にPLフィルターを取り付けます。

  2. カメラのPLフィルターを縦方向に、ストロボのフィルターを横方向に設置します。

  3. カメラとストロボにそれぞれフィルターが装着されているため、光量がそれぞれ半減します。このため、ストロボの光量を元の2倍に増やす必要があります。これにより、撮影時に十分な光量を確保し、明るさの均一性を維持します。(それぞれ半減していますので、ストロボの出力を4倍となります)。

この手法により、縦方向と横方向の両方向からの直進的な光がカットされ、全体の明るさが担保されたハイライトを消した画像を撮影することができます。つまり、反射を抑えつつも被写体全体の明るさを一定に保ち、光沢感のある素材の撮影品質を向上させることができます。

通常撮影
PLフィルター使用

実際の撮影

今回は亀の剥製を撮影してみました。

仕上げにニスが塗ってあり光沢がある
セッティング図
光だけでなく周りの環境も映り込むので囲って影響減らす
 ストロボにPLフィルターを設置した様子


今回撮影した亀は光沢があり、その性質ゆえにフォトグラメトリー撮影を行う際には、エラーが起こる可能性があります。光沢のある表面は、カメラの視点や照明条件によって反射が変動し、撮影した画像間で一貫性が損なわれる可能性があります。また、テクスチャーにはハイライトが書き込まれる可能性もあります。これらの問題を解決するために、PLフィルターを使用して無反射撮影を行うことが有効です。PLフィルターは、光の偏光を制御し、反射を最小限に抑える効果があります。その結果、撮影された画像の品質が向上し、エラーが少なく、高精度なデータが生成されることが期待できます。

さらに、スケッチファブや各種のレンダリングソフトウェアに合わせてマテリアルを調整することも重要です。艶感や反射の調整を行うことで、光沢のある素材の表現をよりリアルに近づけることができます。このようなアプローチにより、よりリアルなデータが作成され、フォトグラメトリーによるモデリングの精度が向上します。

昨今は、AIを使った生成モデル技術の話題も頻繁に聞かれ、テクノロジーの進化によるモデル表現の発展は日々驚かされます。​

一方で、SUPERSCANSTUDIOでは、文化財や重要な収蔵物そのものの唯一性をフォトグラメトリによるアーカイブデータ化するニーズのご依頼を頂きます。このような場合は、撮影の手法検討を綿密に検討し、極力そのものの特徴を正しくデータ化して遺していくことを大切に取り組んでおります。​