SF小説・インテグラル(再公開)・第一話「現代人、Y」
前書き:
先日、noteで下記のようなつぶやきをしました。
で、ちょっと設定などを考えていたんですけど、そこでふと思ったんです。「ん? 似たようなのを以前書いていたような?」
ただ、その小説は非常に実験的なもので、構成がすごく難解なのですけど、「ま、いいか、解説などもつけながら、noteで再連載してみよ!」
ということで、解説付きのSF小説、全22話の第一話、はじまりはじまり。
SF小説・インテグラル 第一話 「現代人、Y」
その青年の名は、仮に「Y」としておこう。Yは、喫茶店で友人と待ち合わせたあと、大学で行われる予定の、ジョン・キューブリックの講演会に向かった。
電車でゆられていると、ポッケの携帯電話がピリピリとなったので、現代人であるYは、「あ、しまった、電源切っとけばよかった」、などと思うはずもなく、周囲をはばからない声で「んーもしもしいい」と叫んだ。そのとたん、携帯電話から、天使のように美しくて甲高い、キンキンとした声が、Yの耳をちくちくと刺激した。
「はい! 私がインテグラルです! Yさんはじめましてー。今日は突然のお電話でびっくりなさったと思いますけど、もっとびっくりするお話がありますよ! 実はあなたが書いたSF小説のおかげでもう未来は大変なことになってるんですから、反省してくださいね! ええ、わかってますよそのメモリースティックにデータが入ってるんでしょ? で、それを間抜けなことに会場で落としてしかもそれがなぜかジョン・キューブリックの手に渡ってそのお話に心酔してしまったジョン・キューブリックが本当にThe Kube なんてもの開発しちゃってそのせいで人類が滅びかけてかろうじて生き残った人たちが宇宙ステーションと地下シェルターを行ったり来たりしながらなんとか体外受精という手段で人類を量産しはじめたそのときに人類の遺伝子の異常が原因で子供たちはばたばた死にはじめてびっくりした大人たちが大慌てでジョン・キューブリックの研究を思い出してインテグラル世界というものを作ってそこに子供たちを住まわせ延命を図ろうとしたんだけど馬鹿な大人たちがインテグラル世界で破壊活動なんかはじめちゃってしかもインテグラル自身が暴走して増殖なんか始めちゃってインテグラル世界の神、といわれた三人のうちのン・ケイルは増殖したインテグラルに拉致されちゃったしロボットであるアランはもう何もできず酸性雨の中をおろおろあるくばかりだしニルスなんかあれしちゃったしでもうどうしようもない状態なんですけどすべての発端はあなたのSF小説ですのであなたに何とかしてもらおうと思ってお電話したんですけどどうですかびっくりしましたか?」
「……。えーと、もしもし?」
「びっくりしましたか?」
「……、すみません、よく聞こえなかったので、もう一度お願いできますか?」
「まあ!! なんですって!?」
受話器を持つインテグラルの表情が、一瞬変わりかけた。美しいエメラルド色の肌は、少し赤みがかったが、すぐに元の色にもどった。すう、と息を
いっぱいに吸い込み、インテグラルは大声でしゃべり始めた。
「はい! 私がインテグラルです! Yさんはじめましてー。今日は突然のお電話でびっくりなさったと思いますけど、もっとびっくりするお話がありますよ! 実はあなたが書いたSF小説のおかげでもう未来は大変なことになってるんですから、反省してくださいね! ええ、わかってますよそのメモリースティックにデータが入ってるんでしょ? で、それを間抜けなことに会場で落としてしかもそれがなぜかジョン・キューブリックの手に渡ってそのお話に心酔してしまったジョン・キューブリックが本当にThe Kube なんてもの開発しちゃってそのせいで人類が滅びかけてかろうじて生き残った人たちが宇宙ステーションと地下シェルターを行ったり来たりしながらなんとか体外受精という手段で人類を量産しはじめたそのときに人類の遺伝子の異常が原因で子供たちはばたばた死にはじめてびっくりした大人たちが大慌てでジョン・キューブリックの研究を思い出してインテグラル世界というものを作ってそこに子供たちを住まわせ延命を図ろうとしたんだけど馬鹿な大人たちがインテグラル世界で破壊活動なんかはじめちゃってしかもインテグラル自身が暴走して増殖なんか始めちゃってインテグラル世界の神、といわれた三人のうちのン・ケイルは増殖したインテグラルに拉致されちゃったしロボットであるアランはもう何もできず酸性雨の中をおろおろあるくばかりだしニルスなんかあれしちゃったしでもうどうしようもない状態なんですけどすべての発端はあなたのSF小説ですのであなたに何とかしてもらおうと思ってお電話したんですけどどうですかびっくりしましたか?」
「……。えーと、すみません……」
「今度はよく聞こえましたか? 大丈夫でしたか?」
「……、すみません、ちょっと速すぎてよく聞き取れなくて……」
「まあ!! なんですって!?」
再びインテグラルの表情が変わった。このYという男は……。なんと理解が遅いのだろう。まあ、数百年前の人間、いわば原始人、であるからしょうがないとは言え、この緊急事態に二度までこのインテグラル、にくどくどと説明させるとはなんと愚かな……。あ、ちんたらしている間に電磁シールドが破られパスワードも解析されそうな勢いじゃあありませんか!! せっかく過去に情報を伝える手段を突貫工事で完成させたというのに、これじゃあなんの意味もありませんよもうお終いですよ私知りませんよ!!
だらだらと脂汗(?)を流しながら、携帯電話を握り締めるインテグラルの前で、パスワードの破られた分厚い鉄製のバーチャルなドアが、ギギーという音を立てて開いた。
つづく
解説(ネタばれあり):
実験作にして問題作です。超難解で、読む人を選びます。めっちゃハードル高いです。だめな人はたぶん、第一話で投げ出すでしょう。
この小説、私が2008年に書いたものです。もう15年も経つのですね。
で、「携帯」を持った青年に、未来から電話がかかってきます。その声の主は「インテグラル」と名乗るのですけど、本小説のタイトル「インテグラル」は、その名前から来ています。
で、そのインテグラルが、一方的にしゃべりまくるのですけど、実はその電話の内容が、今後連載していく本小説の内容の、要約になっているんです。でもただの要約ではなく、この電話の内容でしかわからない事実というか設定も含まれているため、この作品を最後まで読み終えた上で、もう一度この電話の内容を見ることで、「あーそうだったのか」と思えることも、あるはずです。
それがどいう効果を発揮するかというと、もう完全にネタバレしちゃうとこの第一話と最終話の前の一話がつながることで、この作品自体が「円環」をなすのです。さらに言っちゃうと第二話以降の各エピソードが、非常にゆるいつながりでいろんな時空を語っていくことで、「円環」から「球」へとつながるように、色々試行錯誤しています。
「小説で球を? それってどういう意味があるの?」
と、思われる方もいるかも知れませんが、それを私が答えることは出来ません。なぜならわからないから。わからないからこその実験作で、その効果は作者である私よりも、読者である皆さんの方が、正しく感じ取れるはずですので。
ただ、さきほども書いたように、この作品非常に難解で、しかも読者を選別するようなトラップが第一話から入っているため、誰も最後まで読むことが出来ない作品となっているかも知れません、てへぺろ!
どれがトラップかというと、①インテグラルのセリフが、非常に読みづらく長ったらしい、②しかもそれを、寸分たがわず2回繰り返す、③第一話を読み、現代を舞台にしたSFで、主人公は青年であろうと思いきや、全然違う。
インテグラルが全く同じセリフを2回言い始めた所で、くすくすゲラゲラ笑えるような、経験値の高い人でないと、たぶん最後までは読めないでしょう。
ただし、2008年当時はそれ自体が難解だった、AIとか脳科学とか、仮想空間みたいなものは、今ではほぼ一般常識となりつつありますので、そこは当時よりも簡単に読み解かれてしまうかも知れません、ぐぬぬ。
第二話はこちら。
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