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愛犬Paulineポリーヌのがん闘病記~発症から放射線治療

私は、2010年10月ベルギー生まれ、11歳のパーソン・ラッセル・テリア種の女の子、名前はPaulineポリーヌです。PaulineはPaulの女性形で少し古臭い名前のようで、ベルギーの人に名前を言うとああ、Paulineね、とちょっとクスっとされることもありました。家族はお父さん、お母さんと弟のベンガル猫のアルタ。アルタは7月7日に我が家に来たので、彦星Altair から名前をもらいました。ベルギーの私はとにかくやんちゃで活発でサッカー好きの女の子、いつもボールでゼーゼーハーハー動けなくなるまで遊んでいました。ヴァカンスには車でヨーロッパのあちこちに連れて行ってもらい、お友達には旅するポリーヌと呼ばれていました。楽しい楽しいベルギー生活でしたが、2019年5月に飛行機に乗って家族みんな一緒に日本に来ました。日本の夏は暑くて大変でしたが、それでもお散歩とボール遊びは変わらず、元気に楽しく暮らしていました。(#ペット犬の幸せヨーロッパ生活)

ブリュッセル郊外ジャンヴァル湖

それはオミクロン株感染者が爆発的に増加していると日本の人たちが騒いでいたころ、2022年1月17日の朝でした。私はいつものようにお父さんとの朝の散歩から帰って、嬉しい朝ごはんのはずでした。でもその朝は玄関先で鼻が変にムズムズしたと思ったら、いきなり左の鼻孔からだらだらとかなりの量の鼻血が流れ出たのです。私は生まれて初めてのことで、びっくりして立ち尽くし、鼻から流れ出る血を一所懸命に舐めとろうとしましたが、量が多く地面にも血は飛び散っていきました。玄関先が真っ赤に染まって、お父さんがお母さんにポリーヌが大変だと叫んでいたのを覚えています。その日は月曜日で獣医さんが休診だったので、お父さんお母さんは心配そうに一日様子を見ていましたが、翌朝もくしゃみと共に再び鼻血が出たので、急いで獣医さんに行きました。獣医さんで止血の注射をしてもらい、止血剤、炎症止めのステロイド、くしゃみ止めの抗ヒスタミン剤を出してもらいました。その日は出血のせいで貧血気味だったのか夕方まで食欲も無くぐったりしてたので、お父さんお母さんはそっと様子を見守ってくれていました。夕方になるとお腹が空いて、少し食べれるようになりました。うんちは飲みこんだ血が混ざって赤っぽくなってしまいました。
 
私、Paulineは鼻が割合長いパーソンラッセルテリア犬種です。生まれつき時々ですが逆くしゃみをしていました。ベルギーにいたころの獣医さんは、この犬種にはよくあることなので気にしなくていいと言っていました。が、今思えば去年の夏ごろからは鼻の中がかゆくて、特に朝起きた時や外に出た時にハクショーンと大きなくしゃみをよくするようになっていました。でも食欲もりもりで体調には全く問題がなく元気いっぱいで散歩に行って、走り回ってボール遊びをしていたので、お父さんお母さんも、そして私も日本の何かのアレルギーによる鼻炎違いないと思って いました。そこにいきなり鼻血が出て、獣医さんによれば、「犬が鼻血を出すのは普通ではなく、原因として考えられるのはくしゃみによる血管の損傷などに加え、鼻腔内に腫瘍のような何らかの原因があることが考えられる。正確に診断するにはCT検査を行う必要があるが、麻酔の負担が大きく、また、仮に腫瘍が見つかった場合には治療は難しい。」とのことでした。念のためにレントゲンは撮ってもらいましたが、特に問題となるものはこの時点では見つかりませんでした。

まだ元気いっぱいです

ここで獣医さんがすぐにCT検査をやるべきですと強く勧めてくれればまた違っていたのでしょうが、お父さんお母さんはよりによって私に腫瘍ができるはずがないと思い、小さいころから逆くしゃみをしていたので、それがアレルギーか何かでひどくなって血管が傷ついたのだろうと、投薬で経過を見ることにしました。私も少しほっとして、今まで通りに過ごすことにしました。 薬をのみだしてからは鼻血は出なくなり、一か月を過ぎて症状は落ち着いていて、このまま良くなるかなと私も安心していたところが、また2月の終わりころから時々出血するようになりました。その後4月27日には今までにないほど大量の鼻血が出て、私は出てくる血を鼻から舐めきれずに血が直接喉にゴボゴボと流れ込むほどで、とても苦しかったです。血を沢山飲み込んでしまったために消化不良になったのか、食事を吐き、赤っぽい下痢になり、そして食欲がなく全く元気がなくなってぐったりとしてしまいました。すぐに獣医さんで血液検査を行ってもらうと大量出血による明らかな貧血で、また左眼が少し出てきて白目のはじの俊膜という部分がが見えるようになってきていたのです。獣医さんは、鼻の中から腫瘍が眼を押している可能性があると言い、お父さんお母さんが話し合ってこれはさすがにCT検査をしないとまずいという事になりました。私は元気がないこともありとても不安な気持ちになりました。大量出血はもう一度5月4日にもありましたが、その後は落ち着きました。出血が無くなると体調も良く、ケロッとして食欲も散歩もいつも通りの私でした。

獣医さん経由で東京大学農学部にある動物医療センターでCT検査検査の予約がようやく取れたのが5月18日です。幸い5月5日以降は大きな出血が止まり、食欲も戻り、一時は10㎏まで落ちた体重も10.5kgと正常に戻り、貧血状態もかなり改善していました。動物医療センターは朝10時のアポで、私は病院が好きなので、自分からしっぽを振り振り診察室に入りました。今日はまず初めに全身麻酔に問題ないかなどの予備検査(血液検査、レントゲン、エコー)を行った後、大きな問題はないとのことでCT検査と生体検査に進むことになりました。レントゲン検査では本来空洞で黒く映る左の鼻腔が白っぽくなっていて、鼻汁か腫瘍で空気の通りが悪くなっていることが分かったようです。

東京大学農学部付属動物医療センター

午後4時頃に麻酔から覚めて、待っていたお父さんお母さんのところに終わったよと叫びながら飛んで帰って、CT検査と生体検査の結果の説明を待ちました。しばらく待っていよいよお医者さんとの面談です。お父さんお母さんはもちろん良い話を期待していましたが、お医者さんの説明は、「残念ながら鼻腔内に悪性の腫瘍(移行癌)があり、前頭部や頭蓋骨の一部の骨を溶かして大きくなっている。眼球が出てきたり、眼と眼の間が腫れている(かかりつけの獣医さんでも言われておらず、今日初めて気が付きました)のは腫瘍が滲出しているせいです。このまま何もしなければ最短で余命1か月程度かもしれない。今後脳内に腫瘍が滲出すれば発作や呼吸障害を起こす可能性もある。」との思ってもみなかった最悪のものでした。お母さんは泣き崩れ、お父さんはひたすら耐えていましたので、私もなにか悪いことを言われたんだろうなと感じてすごく不安になりました。

お医者さんは、「放射線治療をすぐやるべきですが、当センターでは必要な線量を出せる設備がないので、かかりつけの獣医さん経由で治療のできる病院を予約してください。費用が掛かるのと、全身麻酔のリスクがあります。東京近郊では、所沢市の日本小動物医療センターか武蔵野市の日本獣医生命科学大学です。」と言って、申し訳なさそうな顔をしていました。私は、本郷キャンパスがきれいで、治療するならここがいいと思っていたのに、ちょっと残念でした。帰りの車の中で、私は家に帰れるのが嬉しいのと一日の検査で疲れてすやすや眠っていました。夢うつつにお父さんお母さんがとにかく奇跡を信じて、ポリーヌのためにできることはすべてやろうと話しているのが聞こえました。

この日から、私のがんとの闘病生活が正式に始まったのです。 早速かかりつけの獣医さんに結果を報告して、放射線治療の予約をしてもらいましたが、ようやく予約が取れたのが所沢市の日本小動物医療センターで、26日後の6月13日でした。しかも初回は検査診断で、実際に放射線治療が始まるのは7月とのことで、お父さんお母さんは、こんなことなら最初から東大に行かず所沢にしていれば一か月は早く治療を始められたのに、と言いながらも、なんとかそれまで頑張ろうね、ポリーヌは絶対に大丈夫だよと私を繰り返し励ましてくれました。二人で何度も地元の神社やお寺に私が良くなるようにお参りもしてくれたようです。

幸い次の検査まで体調は良く、大きなな出血もなく、6月13日を迎えました。 病院のアポは9時半、道路が込んでいる時間だし、家から遠いので遅れないように早めに家を出て9時前には到着しました。私はいつものように病院の建物にダッシュして受付のある2階に駆け上がりました。この日は、東京大学の診断結果と検査データをベースに、これからの治療をどうするか決めるのが目的です。

暑い時期に通った日本小動物医療センター

腫瘍科のH先生の結論は東京大学と変わりませんでした。H先生の説明は、「鼻腔内移行がんです。頭蓋骨の一部が溶け、脳まで腫瘍が達しそうな状況で決してよい状況ではない。今後けいれんや呼吸困難につながる可能性がある。鼻腔がんは周囲に広がっていて進行も早いので根治はできない。治療は症状の改善と延命が目的となる。抗がん剤は、腫瘍を小さくできないが、進行を1~2か月程度遅らせる効果が期待できる。副作用は食欲不振、下痢など。放射線は、一時的に腫瘍を小さくし、2か月程度進行を止めることができる。(私の症状、頭蓋骨の一部、篩骨をがんが溶かしている、とこれから受けることになる放射線治療の場合)延命効果は平均で4~5か月程度。副作用は脱毛、皮膚のただれ、結膜炎、ドライアイ、などで抗がん剤より内臓への副作用は小さい。治療時は全身麻酔なのでそのリスクもある。」とのことでした。

この後、放射線治療と全身麻酔に耐えられるかの検査(血液、尿、X線、エコー)で、私はお父さんお母さんと離れて検査室に行きました。あとで聞きましたが、この後お父さんお母さんは、治療を抗がん剤にするのか放射線にするのかでとても悩んだようです。一番大切なのは、私が少しでも長く、そして痛い思いをしたり気持ち悪くなったりしないで安心してのんびり過ごすことです。そう、私のQuality Of Lifeです。この時点で一度は放射線でお願いしたのですが、私の検査の待ち時間にネットで調べると抗がん剤だけで一年以上生きているワンちゃんもいるようで、いずれにせよ助からないのならリスクのある全身麻酔を何回もして顔も焦げてしまうよりは、抗がん剤でゆっくり過ごしたほうがいいのではと悩んだのです。

15:00に検査の麻酔から覚めて、お父さんお母さんのところに帰れてとても嬉しかった。そして放射線治療に決める前に、朝のH先生にもう一度話を聞きました。H先生は、「放射線の方が延命効果が高く、抗がん剤より副作用は小さい。今日の検査の結果は元気なので全身麻酔に耐えられる。腫瘍は小さくなるので、鼻血は間違いなく止まる。」と説明しました。そのご放射線科のS先生と面談して、お父さんお母さんは、いまは鼻血が止まって、食欲が普通に戻って少しでも元気に長生きすることが私にとって一番だということで、改めて放射線治療をお願いしました。

がんの進行度合いから、根治は難しいとのことで、「緩和的放射線治療」で、8Gyの放射線を4回行う治療をすることになりました。私はなんだかよく分かりませんが、昨夜から何も食べていないのでお腹空いたなあと思いながら、とにかくお父さんお母さんとお医者さんに任せて安心していました。 治療はとても混んでいて、予約ができたのが3週間後の7月4日に放射線を正確に患部に照射するのためのCT検査と型撮り、4週間後の7月11日から毎週一回8月1日までの合計4回の放射線治療でした。それまでの間がんの進行を少しでも遅らせるために一日おきに抗がん剤、がんを直接攻撃するのではなく、副作用も小さい分子的療法薬のパラディアを飲むことになりました。

この日から放射線治療が始まるまでの4週間、後から振り返れば私にとっては最悪の4週間となりました。6月21日の朝の散歩の帰り道にいままでなかった右の鼻腔からの出血が始まったのです。この後出血はだんだんひどくなりながら数日続きました。朝はお腹が空かず何も食べたくなく、ウンチはゆるくなり、ときどき下痢になりました。左に加えて右の鼻の穴も詰まってしまったのですぐにゼーゼー呼吸が苦しくなり、暑さもあってお散歩に行きたくなくなりました。苦しいので早く何とかしてください、と私はお父さんお母さんにお願いしていました。お父さんお母さんは、私が家でゼーゼー言い出すと冷房の温度を下げて、呼吸が楽になるようにしてくれていました。放射線治療中は抗がん剤は飲めないとのことで、抗がん剤は7月3日でとりあえず終了です。食欲不振やウンチがゆるくなったのは、出血のせいだけでなく抗がん剤の影響もあったかもしれません。

眼と眼の間の腫れが一番大きい時

こうして過ごす中、ようやく7月4日になりました。朝10時に病院に到着、全身麻酔でCT検査をして腫瘍の大きさや位置を確認し、それに基づいて放射線を照射する場所を決める型作りが行われます。血液検査もしました。今日も全身麻酔なので、前日から絶食でしたが、朝はお腹が空かないのであまり気になりませんでした。検査は無事終了、腫瘍は5月の東京大学で撮ったCT時点から大きくなっている。鼻出血のせいで貧血気味だが放射線治療には問題ないとのことで、予定通り次週11日から治療を行うことになりました。 この1週間も症状はどんどん悪くなりました。右の鼻腔からの出血はひどくなり、起きているときも寝ているときも一日中、呼吸時にいびきのようにグアーグアーと音が出るようになりました。すぐに呼吸が苦しくなって口でゼーゼー、鼻でグアーグアーの繰り返しでとにかく食べるときとトイレに行く時以外はぐったりと横になって過ごしていました。一度大きな出血があったときはかかりつけの獣医さんで止血剤の注射をしてもらって、出血だけはどうにか収まって、東京大学に行ってから8週目でようやく放射線治療の日を迎えました。お父さんお母さんは、私の症状がどんどん悪くなっていくなか、東 京大学に行って無駄にしてしまった4週間を悔やみながらも、ポリーヌは絶対よくなるから頑張ろうねと私を励まし続けてくれました。

7月11日、いよいよ放射線治療の開始です。朝10時のアポで、全身麻酔なのでいつものように前夜から絶食でお腹空いたなあと思いながら治療室に入りました。放射線治療は10分程度で痛いこともないので、午後2時に麻酔が覚めてお父さんお母さんに会っても何事もなかったかのようでした。これから8月1日まであと3回同じ治療を受けます。 嬉しいことに治療による症状の変化がすぐにありました。今日はまず、鼻の呼吸音がグアーグアーからヒューヒューと汽笛のような音になりました。息苦しさはあまり変わりませんが、腫瘍が少し縮んで、空気の通り穴が変わったようです。そして翌日、7月12日には眼と眼の間の鼻の腫れが小さくなったねとお父さんお母さんが話していました。鼻詰まりはありますが、鼻の呼吸音も小さくなりました。鼻血は出ませんがまだ血の混じったピンクの鼻汁が出ます。

2回目、7月18日の治療の後はさらに症状が改善しました。眼と眼の間の鼻の腫れが引いて、平らに戻りました。そして鼻が通って鼻詰まりが無くなり、いびきのような呼吸音も無くなって呼吸が楽になりました。食欲は100%戻って、朝から美味しくご飯を食べられるようになりました。ただ鼻汁は相変わらず多くて、くしゃみもまだたくさん出ます。なにより嬉しいことには、鼻出血が全くなくなり、鼻汁に血が混じることも殆ど無くなりました。

眼と眼の間の腫れが引いた

3回目は7月25日。治療の位置合わせのCTで腫瘍の縮小が確認できました。ピンクの鼻汁はまだ出ることもありますが、一週間で数回程度、もう気になりません、普通に元気です。ただ放射線の後遺症で左目の目頭の毛が禿げてきました。また両目が結膜炎で黄色い目ヤニが出てきたので、抗生物質の入った目薬をもらいました。

そして最終回の8月1日、放射線科のS先生から、治療終了頑張りましたの表彰状、ピンクのバンダナ、そして全身麻酔の時に口が閉じないようにするためのマウスピース(表彰状の右下に写っている)を記念にもらって帰りました。

放射線治療終わった!

その後2週間経ちましたが、後遺症は目頭の脱毛、結膜炎と眼の周りの毛の色素沈着(白かった部分が黒くなりました)ぐらいで、元気に過ごしています。鼻汁は減り、くしゃみもあまり出なくなりました。夜はいびきもかかずにすやすや静かに寝ているので、お母さんはまるでいないみたいと喜んでいます。食欲は朝からもりもり、でも治療中は体重を落とさないようにたくさん食べて理想体重を1KG以上オーバーして12KGを超えてしまったので、今は少しダイエット減量中です。呼吸が普通になって、お散歩も自分からおねだりして距離はまだ短いですが連れて行ってもらうようになりました。後は、意識しないで時々頭が少しカクカクっと動くようになりました。若隆景が仕切りで頭を動かすような感じです。脳に何らかの影響があったのかもしれませんが、大したことはないのであまり気にせず様子見です。

S先生と記念撮影。眼の周りが黒っぽくなった。

これからは、まず治療完了から4週間後の8月末に副作用の検査があって、その後定期的に腫瘍の状態を確認する予定です。今はとにかく食事と日光浴と軽い散歩を楽しんで、このまま腫瘍が大きくならないで、いつまでも楽しく過ごせたらいいなというのがお父さんお母さんと私の唯一の願いです。アルタも応援してくれています。奇跡を信じてます。

大好きな日光浴


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