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一条蛍(ほたるん)の「こまぐるみ」を通しての信仰、そのメカニズム

※のんのんびよりはあっと作の漫画作品であるが、ここではアニメ化された作品を扱う

概要

仏像や地蔵の前で手を合わせるように、一条蛍は越谷小鞠を信仰対象と見なし、自作した人形「こまぐるみ」を通して信仰を深めている。

一条蛍(ほたるん)とは  

のんのんびよりに登場する主要な登場人物のひとり。東京に住んでいたが、親の仕事の都合で、物語の舞台である旭丘分校に転校してきた。
黒いロングヘアが特徴の小学5年生。身長が164センチと非常に高く(注1)、スタイルが小学生離れしている。落ち着いた言動も相まって、成人女性と勘違いされることもしばしば。
宮内れんげ、越谷夏海からは「ほたるん」、越谷小毬からは「蛍」と呼ばれている。
小毬に憧れに似た感情を抱いている。

越谷小毬(こまちゃん)とは

のんのんびよりに登場するキャラクタのうちのひとり。旭丘分校に通う中学2年生で、夏海の姉でもある。身長が宮内れんげと大差ないほど低い。公式では身長140センチに満たない(注2)と紹介されている。
蛍からは「こまちゃん先輩」、「小毬先輩」、もしくはただ「先輩」と呼ばれている。
蛍が抱いている感情に関しては気づいていない模様。

イタチと格闘するこまちゃん

こまちゃんはほたるんにとっての信仰対象

転校してきたほたるんを旭丘分校のメンバーは快く受け入れた。しかし、都会の生活にどっぷり浸かっていたほたるんにとって、初めての田舎での生活は不安の連続だった。全校生徒は彼女含め5しかおらず、周囲にはコンビニもない。無意識のうちにストレスにさらされていたであろう彼女は、心の拠り所を求めた。実存主義の先駆けであったキルケゴールは、人間はすぐに絶望するから心の拠り所となるような真理(自分だけの信条とか生きる目的みたいなもの)が必要だと説いたが(注3)、ほたるんにとって、それは同じ学校の先輩であり、クラスメイトだった。

忘れがちだが小5なので両親の前では甘えん坊

どうして心の拠り所となる存在がこまちゃんだったのか。
こまちゃんが学校内でもっとも秩序立った存在だったからだ。
宮内れんげ、越谷夏海はアクティブなタイプで行動が読みにくく、教師である宮内一穂は授業中寝ているなど頼りない面が目立つ。越谷卓は存在感がなさすぎて、なにを考えているかよくわからない。
このようなメンバーのなかで、こまちゃんは常識人であり、ほたるんの目には混沌とした世界に降り立った神のように映ったのだろう。

こまぐるみとは

こまぐるみは、ほたるんが自作したこまちゃん似のぬいぐるみだ。
1体だけでなく何体も作成済みで、サイズはさまざま。通常の制服バージョンのほかに多様なバージョンが存在する。

summer version

これらはすべて、ほたるんがこまちゃんを敬うために作成した神聖な作品だ。(こまちゃん教では偶像崇拝は禁止されていない)

哲学者・倫理学者の和辻哲郎は以下のように述べている。

芸術鑑賞と宗教的帰依とが一つであった。それと同様にある少数者に取っては、芸術製作と宗教的救済とが一つにならなくてはならなかった。実際この特に象徴的な仏教においては、彼らが感じ得たある宗教的心境は、彼らの内に現れた時にすでに象徴的な形を取っているのである。

偶像崇拝の心理|和辻 哲郎

和辻が言及しているのは仏教に関してだが、彼の考えをこまぐるみに適用しても問題ないだろう。ほたるんもまた、こまちゃんを神格化させたと同時に、己の内部に、こまちゃんをモチーフとした芸術作品のイメージが浮かび上がった。こうなってしまっては、おぼろげな数字が浮かんでくれば目標数値にするしかないように(注4)、作品を製作するしかない。この時点で、こまぐるみをつくることと魂の救済がセットになるからだ。

それだけでは飽き足らず、ほたるんは「メカこまぐるみ」と呼ばれる自立歩行型のこまぐるみを作成する。
メカこまぐるみは、内部にロボットのキットを搭載した犬のぬいぐるみとこまぐるみから成る次世代型こまぐるみだ。

メカこまぐるみはシンギュラリティの一形態だ

ほたるんは、メカこまぐるみに、3つの行動を実装した。

  1. 電源を入れると直線方向にまっすぐ前進する

  2. 一定の間隔を空けながら「私、こまぐるみー」、または「こまぐるみー」と発音する

  3. 平らな壁を認識すると「行き止まりー」と発音しながら方向転換する

  上記の機能は、自立歩行型ロボットとおしゃべりロボの組み合わせで実現されている。ほたるんには工学的な才能もあるようだ。

メカこまぐるみの内部部品組み込み前

メカこまぐるみがほたるんの手元から離れ、山や川を自由に闊歩するシーンでは、川を渡ったり、鳥にさらわれたりしている。知育用のロボットにしては、耐水性、耐衝撃性にかなり優れているとわかる。ほたるんの信仰心と内部機構であるロボットの技術力の相乗効果がもたらした賜物だ。このエピソードは、科学と宗教が敵対する概念ではないと示唆している。
いずれにせよ、こまぐるみという完成された枠組みに満足せず、新たな技術を取り入れ拡張し、より傑作を生み出そうとする試みは多くの創作者が見習うべき姿勢だ。

試練

とある日、熱心な宗教家ほたるんに試練が与えられる。
ピクニックに来たほたるんとこまちゃんは、互いにつくった弁当を交換することになる。しかし、こまちゃん先輩は料理が苦手で、開いた弁当の中身は黒っぽくなっていた。
こまちゃんは「無理して食べなくてもいいよ」と言うが、ほたるんは彼女を悲しませまいと料理をすべて平らげてしまった。ほたるんの信仰心の厚さが窺える。

こまちゃんの料理を食べて満身創痍のほたるん

そんな彼女に追い打ちをかけるかのようにこまちゃんはデザートと言ってお好み焼き粉でつくったホットケーキ(?)を取り出す。さすがのほたるんも限界を感じ断ろうとするが、こまちゃんは神なので褒美を与えることを忘れていなかった。「あーん」することでほたるんと視聴者に救いをもたらした。

かわいいね

結び

以上がほたるんの信仰の形態である。
次にこの考察を行うのは、ほたるんの信仰が第二段階へ移行したときだろう。すなわち、こまちゃんがほたるんの好意に気づき、どのような反応を示すか、である。願わくばそれが、相互依存の関係であればと思う。数学者のバートランド・ラッセルは「最上のタイプの愛情は、相互に生命を与えあうものだ」(注5)と言っており、その形がふたりにとってベストに近いものであるのは間違いない。そうなれば「信仰」といった言葉は適切ではなくなる。そのとき両者のあいだに介在しているのは、双方向の愛情なのだから。

注釈

1.文部科学省の学校保健統計調査によると令和2年度の女子小学5年生の平均身長は、10歳で141.5cm、11歳で148.0cm
2.1と同データにより、女子中学2年生の平均身長は13歳で155.2cm、14歳で156.7cm
3.キルケゴールは『死に至る病』で「私にとって真理であるような真理を発見することが必要なのだ」「しかも、その真理は、私がそのために生き、そのために死ねるような真理である」と述べている。「真理」には「主体的真理」と「客観的真理」があるが、ここで言っている「真理」とは「主体的真理」を指す
4.TBSのニュース番組『NEWS23』の2021年4月23日の放送で、インタビューを受けた小泉進次郎環境大臣の発言。正確な表現は「くっきりとした姿が見えてるわけではないけど、おぼろげながら浮かんできたんです。46という数字が」である。放送前日に開かれていた気候変動サミットにおいて、菅総理が2030年度の温室効果ガスの削減目標を2013年度比26%減から同46%減に引き上げる方針を表明したことを受けてのもの
5.『幸福論』第12章より

参考

ばいばいなーん

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