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京都サンガF.C.2021シーズンレビュー③チーム総括編

皆さんこんにちは、Ryu-Yです。

本記事は京都サンガF.C.2021シーズンレビュー第3弾チーム総括編です。

①GK、DF編はこちら。

②MF、FW編はこちら。

データはフットボールラボを参考にしています。

今季の主なスタメンはこちら。

2021サンガ

まず、CFについては開幕戦こそ李が務めたが、それ以降はウタカがほぼスタメンで、フルタイムで出ることも多かった。WGは前半戦はいくつかの組み合わせを試しながら徐々に固定されていった。曽根田、中川、武富と守備でも頑張れる選手を試したり左WGは本職の荒木を起用したものの結局は松田が主に努めることになった。右は宮吉がメインだが負傷が何度かあったので、その際は中川の起用が何試合かあった。IHについては左に関しては武田の台頭が大きい。6節千葉戦以降は主力として出場を続けた。右は福岡や三沢が務めることが多かった。アンカーに関しては川崎のほぼ一択。チームの躍進と共に自身も飛躍を果たした。CBは麻田とバイスが主力。左CBは開幕から本多が務めていたが彼の負傷で代わって出場した麻田の頑張りがスタメン奪取に繋がった。SBは荻原と飯田でほぼ固定。連戦時などは疲労を考慮して白井が代わって入ることもあった。GKは若原がスタメンで、彼の負傷後は清水が務めた。


〇シーズン開幕前~HUNT3~

シーズン開幕前に数値目標を掲げるチームはほぼ大コケするという(我々も含めた)ジンクスを察してか知らずか、「J1昇格」や「目標勝ち点〇〇」は表立って言わずにチームスローガン「HUNT3」を強調した新体制発表会。

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引用:京都サンガF.C. HPより

曺監督の「HUNT3」に懸ける想いは以下の言葉からも伝わってくる。

「勝ち点3を奪いにいく、直訳すると『狩りにいく』ですが、自分たちからすべてのものを得ていくようなチームにしていきたい。新しいチャレンジを恐れずタフに、本当に一つ一つ突き詰めて、究極に勝ち点3にこだわる。しかし選手の成長を妨げず、応援するスタンスを忘れず、我々がここにいる選手たちをハッピーにできるように、きれいごとかもしれないけどそれを目指して、純粋に勝負に対して、サッカーに対して向き合っていきたいと思います」/新体制発表会より

この言葉からも分かるように、自らが主導権を持ってサッカーをするんだ、そして曺監督がクラブに対して足りない部分と察していたであろう勝利に対するこだわりを強く植え付けさせたい気持ちを感じさせる。

そして、もう一つ長いシーズンを戦っていく中で重要となった言葉を記しておきたい。

「補強する選手が、いまの選手が足りないから変わるというより、『HUNT 3』のために切磋琢磨できる選手で、仲間をリスペクトして毎日いい競争をして、サンガスタジアムで戦うのではなくて、サンガタウン(練習場)で毎日戦った選手が代表してここでプレーするという循環を作るために来てもらったと認識しています。去年までの選手と新しい選手がいいところを出し合って融合すれば、必ずいいチームになると思います」/新体制発表会より

サンガタウンで競争して、その結果クラブを代表する選手がピッチに立つ。当たり前にも感じるチーム内の競争。ただ、これこそがJ1昇格に向けて最もキーファクターとなったのでは無いかと個人的には感じている。高い強度の練習を毎日続けていれば、むしろ試合になった時の方が楽に感じる、それくらい充実した日々をチームとして歩んできたことは監督や選手のコメント、安藤BAのレポートからも幾度となく聞こえてきた。


〇シーズン開幕~第5節秋田戦

シーズンが開幕してから序盤戦のサンガはかなりピーキーな戦い方をしていた。以下の画像は私が開幕戦である相模原戦を分析した画像であるが、

相模原A3

当時の相模原は5-3-2の引き込んだブロック守備をしていたことも影響はしているものの、両SBが双方最前線まで上がり、バイスがボールを持ってオーバーラップし、IHもゴール前に飛び込むなどボール保持ではかなり前がかりな攻撃を行っていた。開幕当初はイケイケドンドンで相手を圧倒する時間もありながら、逆にユニット間の崩しが仕込めていなかったのもあり相手に前向きでボールを奪われ、自陣の広大なスペースを使われるカウンターを受けるシーンも同様に多々あった。今シーズンが終わって振り返ってみると、これはチームとしてのベースとなる戦い方を浸透させる期間だったと言える。両SBは敵陣深くまで侵入する。ウタカが下りてきて空いた中央のスペースはIHやWGの選手が飛び込む。バイスがオーバーラップしたら川崎が最終ラインをカバーする。これらの約束事はシーズンを通じて変わることは無かったので、ひっくり返されるリスクは承知の上で序盤はこのような主導権を取りに行く戦い方を浸透させたかったのだろう。

磐田に打ち合いの末に敗れたり、秋田に対しては圧倒的に攻め込むも得点を奪えずにいるとロングボールの処理を誤りゴールを許し敗戦したりと、5節を終えて2勝1分2敗スタート。この戦い方でやっていけるのか、キャンプから手ごたえを感じつつもその自信を掴み切れていなかったのが第5節までの序盤戦と言える。

〇転機となった千葉戦、そして連勝街道へ

監督自身も昇格を決めた第41節千葉戦試合後インタビューで語っていた通り、転機となったのは奇しくも同じ千葉戦。第6節ホームでの試合だ。

特にこの先制点のシーンはサンガの主導権を握った守備から相手ゴールを陥れている。相手スローインのシーンで、ウタカ、松田、三沢、野田は全て相手をマークしておりスローワーは投げる選手がいない。若干ウタカのところが空いたのでボールを投げてサイドチェンジを試みるが、そのボールはウタカの出した足に当たり松田の下へ。ここからの全速力で相手ゴールに迫る様子はさながら電光石火のよう。見事にカウンターを成立させた。ボールを持っていなくてもこちらが主導権を握る姿勢が表れており、ボールを奪った瞬間にゴールまで最短距離で突っ走る戦い方もこのゴールが生まれたことで一気にこれから花開いていくことになる。対戦相手からしてみれば、ボールを持っていても常にプレッシャーを感じることになり、安定したビルドアップを可能に出来る能力を持った選手、策を仕込める監督がJ2には数多くはいないので、結果的にこちらのショートカウンターを発動させる場面を多く作り出せることとなった。

〇真っ向勝負で挑んで上回られた現実

第6節から6連勝を含む15戦負けなしなど好調な前半戦となった中でも、順風満帆だったかと言われるとそうとは言えない。90分間圧倒出来た試合は非常に少ないし、たとえ順位が下のチームでも簡単な試合は一つもない。また、今季を振り返ると、上位勢にことごとく勝利出来なかったのが悔やまれるポイントである。

対磐田 第4節 3-4●・第38節 0-1●

対甲府 第16節 0-0△・第28節 0-3●

対長崎 第21節 0-2●・第32節 0-2●

いずれの試合も強がりではなく完全に力負けしたことは無いと思うのだが、前半から惜しいチャンスを作りつつも得点を奪えず、逆に先制点を取られることで流れが悪くなった試合があった。特に磐田や長崎に対しては自慢の前線からの守備を上手くパスワークでかわされ、前がかりな守備組織をひっくり返されるシーンを多く作り出されてしまった。人件費でもサンガより上と見られるチームはそれだけ選手の能力で上回られる可能性が高く、結果的に相手の陣形を崩してその隙を攻め込むことが出来なかった。新潟や監督交代後の山形は戦い方が明確で、ボールを繋ぎたい相手の意思とこちらの圧力ががっぷり噛み合って結果的に勝利を収めることが出来た。一方、磐田や長崎はいわゆるオールラウンダータイプのチームになるのでボールを繋いで時間を作ることも出来るし、鋭いカウンターも持ち合わせある程度相手に合わせて戦うことが出来るので我々の戦い方を見た上でウィークポイントを突かれた。世界のトップオブトップは所謂カメレオンのように変幻自在な戦い方で、じゃんけんで言うとグーもチョキもパーも出せるチームが結果を出してきている。サンガもひたすら縦に速い攻撃だけでなくボールを保持して相手を押し込んでいくサッカーを作り出そうとはしていたものの、ボールを動かして相手を動かしてゴールに迫っていく戦い方は、そこまで発展することなくシーズンは終了した。カテゴリーが上がる来季はこれまでのように前からのプレスで相手を窒息させることが出来る機会は限られてくるとも想定されるため、前から行ってもダメだとなった時にプランBを出してくるのか、プランAを超えるA’を繰り出すのかには注目したい。

〇徐々にリスクヘッジ型の試合運びへと変化

第32節長崎に負けて以降は複数得点を奪う試合が少なくなっていった。同時に失点もゼロまたは1と同様に少なくなり、数字を見ると堅い試合が多くなっていった。10月の試合はサンガが昇格が見えてきて段々とプレッシャーが大きくなり、リスクを取って得点を狙うに行くよりまずは自分たちの配置を整えて試合を運んでいくことが多かったように思う。それに加え対戦相手が残留争いをするチームが続いたことも大きく影響した。今季はJ3に降格するチームが4チームになるので、残留争いのボーダーラインは必然的に上がる。その結果こちらも相手も先に失点したくない思いが強くなるのは当然で、拮抗した試合の連続になった。

これまでのサンガならば拮抗した試合をドローで終えることも多くあったが、今季はこれまでチームに欠けていた勝利への執念を感じ取ることが出来た。第36節愛媛戦のように前半早々に先制し、その後追加点が奪えない中で虎の子の1点を守り抜くことや、逆に第37節大宮戦では後半ATに川崎が劇的決勝ゴールを決めるなど、第29節琉球戦含め、ここぞという時に勝ち切るチームへと変貌を遂げたことはJ1昇格の大きな原動力となった。失点しないといっても、守備から堅く入るかと言えばそうではない。あくまで自分たちがボール保持、ボール非保持共に主導権を握るサッカーを展開することは常にチームの原則として表現されていた。得点シーンが少なくなったとはいえ魅力的な試合を見せ続け、常にファイティングスピリットを見せてくれるチームであった。サンガと勝負強さは今まで結び付くものではないと思っていたが、今季は勝負強さを発揮して勝利を掴んだ試合が何度かあった。振り返ってみると、分水嶺としては第29節琉球戦になるだろうか。

〇成長した選手たち

良い監督と呼ばれる人には大きく分けて2種類の特徴があると思っている。一つ目は監督自身が理想とする戦い方に選手を上手くフィットさせることが出来ることである。J2だと新潟や栃木、秋田、東京V(監督交代したが)が印象的で、監督のやりたいことが選手に落とし込まれ、ピッチで明確にこういうサッカーがしたいんだな、と理解することが出来る。選手の特徴に合わせて戦い方の細部を調整することはあるだろうが、基本的には監督のやりたいサッカーに合わせて選手を揃えるのがセオリーである。デメリットとしては、監督交代、移籍などでチームのやり方が変わるとそれまで見せていた選手の良さが失われているように見えることである。ある年チームが好調で良いプレーを見せていた選手が別のクラブに引き抜かれると、なんだか輝きを失ってしまったように見えることは多々ある。個人昇格の場合は戦う相手やチームメイトのレベルが上がるので競争に負けてしまう面もあるが、同じカテゴリー間の移籍でもそういったことは見受けられる。

二つ目は選手に成長を促してクラブとしてのレベルアップを図ることである。クラブを強化するには補強するのが一番手っ取り早いのは全世界共通とはいえ、当然それには無尽蔵に資金を必要とする。選手を引き抜く側のチームなんてのはほんの一握りで、大多数は引き抜かれる側である。Jリーグで選手の成長に長けているクラブとして思い浮かぶのは、J1では川崎、J2では水戸である。川崎は近年海外移籍する選手が多数出ているが、それでも今季もリーグ優勝を果した。特に大卒選手の育成に関してはずば抜けており、加入したほとんどの選手が主力となってチームを支えている。また、水戸は少しテイストは異なるが、J1、J2上位クラブが若手選手を預けたいと思わせる育成力を付け始めている。秋葉監督の手腕も大きく、首都圏に近い立地を生かし、育成型クラブとして好循環を生み出している。(レンタル移籍が多いリスクはここでは割愛)

さて、前置きが大変長くなったが、曺監督率いるサンガは後者の選手が成長出来るクラブになっていると考える。それは特に下部組織出身の若手選手を見れば納得して頂けるであろう。若原、麻田、福岡、川崎の今シーズンの成長ぶりは目を見張るものがあり、個人としての能力アップだけではなく、各選手が京都サンガF.C.の為に最後まで戦い抜く、その姿勢を植え付けたことも曺監督の大きな功績だと思っている。他にも荻原、飯田などシーズン開幕当初と比べ明らかにプレーが進化していった選手もおり、サンガに来て成長出来た、と感じた選手は今季J1昇格という結果も相まって非常に多いに違いない。

更に言うと、曺監督自身も成長というかアップデート出来たのではないかと思っている。湘南時代はもっとテクニカルエリアまで出て来て選手たちにあれこれ指示しているイメージがあったのだが、今季スタジアムで感じた印象としては案外指示しないな、ということだった。最も大声を出しているのは被セットプレー時の冨永GKコーチで、曺監督は杉山コーチと話し合っていることがほとんど。練習の段階から選手たちにやりたいこと、やるべきことを落とし込むことが出来ているからこそ試合が始まってから慌てて指示を出す必要が無くなり、試合中の修正はおそらくはスタンドで見ている長澤ヘッドコーチの声をインカムでやり取りする杉山コーチから間接的に情報を得て判断している。昨今しきりに言われている「サッカーはピッチ内では個人で判断してプレーしなければならない」という言葉。練習からやるべきことが明確だからこそ判断の基準が各選手の頭の中にインプットされ、結果的に迷いがなくなることで主体的にプレー出来る。前述したサンガタウンでの競争が選手の成長の観点からも良い影響が生まれている。

〇来季に向けて

来季は12年ぶりのJ1での戦いとなる。現時点での情報では、リーグ戦が2/18(17?)~11/5迄、その間にルヴァンカップと天皇杯も全て含まれる。そうなると当然過密日程は避けられず、試合の強度を高く保ちたいサンガにとっては非常に苦しい戦いが待っているかもしれない。交代枠が5人のまま継続するのは朗報だが、おそらく飲水タイムは廃止されていく方針とみられる。今季どの相手にも果敢に披露した高いインテンシティ、ゴールへ迫る迫力、相手シュートを防ぐ際の身体を張ったプレー。我々サンガのようなインパクトある戦い方をシーズン通して行っているチームは他にないし、J1で同じかそれ以上の戦いを見せることが出来れば、きっとリーグでも際立った存在になれる。

「京都のフットボールを、皆さんと一緒に世界へ近づける」

曺監督の言う「世界」とは何か。

それは今季のピッチで表現出来ていたのか。

「今シーズンは、サンガタウンでの積み上げとサンガスタジアム by KYOCERAでの皆さまの応援で、昇格という結果を勝ち取ることができました。ただ、この結果はこれから続く世界への冒険が始まったにすぎません。」

世界への冒険は始まったに過ぎない、とも言う。

曺監督の言う、サンガが目指す世界とは何か。それをもっと知る為に来季もサンガスタアジアムへ足を運びたい。


ではまた。

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