最愛の夜

しょうことの家を出て俺は

覚悟を決めた。


なんとしてでも
金を返して
なんとしてでも
もう一度しょうこに会いに行く。
勝手だってことはわかってる。
しょうこが幸せなのかを見に行くだけだ。

大切な人を守ろうとして何が悪い。

すぐに城ヶ崎マリに電話をかけた。

「遅かったじゃない。これから迎えをやるわ。」



迎えの車に乗って

俺はスーツのサイズを計ってくるように言われた。


「あなた!股下長いじゃない!肩も張ってるし!いい体してるわね!さすが城ヶ崎さんだわ!よくこんないい男ばっかり見つけてくるわ!すぐに飛んじゃうみたいだけど!あなたは頑張りなさいよ!」

「飛ぶって、どういうことですか?」

「生半可な気持ちでここに来たわけじゃないでしょうね。過酷よぉ?24時間つきっきりで、運転しなきゃいけないってことは。気がおかしくなって最後に会う時はみんな、廃人みたいな顔してたわ。1ヶ月持たないみたいね。」


「…」

「さぁ!チャチャっと縫い上げちゃうからあなたはあっちで待ってなさい!今日はさっそく、どこに行くのかしらね」


怖かった。でも、やるしかない。


「城ヶ崎さんが来たら、ドアを開けて、スマートに運転席に行くのよ。」

小声で仕立てのおばちゃんは教えてくれた。

背中を叩かれて

おれは

光るレクサスの前に立った。


ハイヒールの音がする。



「…似合うじゃない。なかなか。名古屋へ向かってちょうだい。」

城ヶ崎マリが来た。

言われた通りドアを開け、スマートに運転席へ行き


名古屋に向かった。


道中、会話はしていない。


それからというもの、夜中の2時にいきなり東京。
からの岡山。

朝5時から福岡。

いろんなところに行った。


休む時間がなく、俺は常に車にいた。

たまにホテルをとってくれたが

シャワーを浴びてまた

駐車場の車で寝た。

もうすぐ1ヶ月がたつ。

初めて給料が出る。

疲れからなのか、しょうこに会いたくてたまらなくなった。

今日はしょうこの誕生日だ。

たまたま近くに行くことが出来て

店を覗いたけどしょうこはいなかった。


いちかばちか、


しょうこにメールを送った。




俺はしょうこの家が見えるところで待っていた。


男がしょうこの家に入っていく。


なんだあいつ。

見覚えがある。



しょうこを見てた男だ。



しょうこからメールが来た。


「電話ならできるよ」


すぐにかけた。


かけたけど、今更どんな言葉をかければいいのか。


わからなかった。


すぐに電話を切った。


空いたかった。



電話してる間



俺を見てる男がいる。



またあの男はしょうこの部屋へ入っていった。



虚しい夜だった。


ゲリラ豪雨が降って

俺はまた運転しながら泣いていた。



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