給食のおばさん1️⃣

私はとある給食センターで働いている。

いわゆる、給食のおばさんだ。



1人の人を毛嫌いしながら働くおばさんがいる。

その人も

いわゆる給食のおばさんだ。


その人は責任感が強く、頼りになるしっかり者。
初めの方はぶっきらぼうだけど一番面倒見てくれる人だと思っていた。

しかしだんだん、
「自分で考えてやってみなさい」という言葉と、
「迷ったら確認しなさい」の言葉に
板挟みになり、

私はこの人から円満に離れたが、

なにやら毛嫌いされている人がいる。



その日はくもりだった。

私たちは分担して仕事を進めているのだが

その割合が1人に傾いている日があった。

「こりゃ誰かにお願いしたほうがいいわ。私は今日あの仕事だから行ってやれないけど」

仲良くさせてもらってるおばさんが
メニュー表を見てメガネをずらしながらその人に言う。

「やっぱりそう思いますか?これだけ、あの方にお願いしようかと思ってるんですよね。いいかな?」

来たばかりの毛嫌いされている人はあっけらかんとそう言った。

朝一、持ってきた着替えとカバンを整理しながら話を聞いていた。

「そっち?あたしゃこれの方が気にかかるけどね。」

「わかるよ?でも昨日それ心配だって言ったら、は?って顔してたからさ、こっちなんじゃないかと思ってさ」

「あんたも色々大変だねぇ」

おばさんは笑っていた。失笑というか、なんというか。

その会話を聞きながら私もメニュー表を見た。

肉が多い。魚もある。
数えなきゃいけないものもある。
卵もある。大量だ。時間制限もあるときたもんだ。

これは今日大変なんじゃなかろうか。

来てすぐの苦手おばさんにその人は声をかけた。

「あの、すみません、今日これだけお願いしてもいいですか?」

「あ?私はいいけど、トップさんに確認しないとダメだよ」


そうきたか。


あの人じゃなけりゃ何も言わずにやってくれる場面だということは

その場にいた人たちみんな、気付いていたように思う。

私は仲良しのおばさんをちらっと見た。

おばさんは頷いていた。



調理場に入り、手を洗い

すぐにトップさんに確認していた。

トップさんはその人とおばさんの関係を知っていたので

「あんた一人でやりなさい。あれとあれはやっといたから。」

と言った。

苦手おばさんはそれを聞いて微笑んでいた。

「確認しなさいって言ったのよ私。全部やらせるのね。」

目をキラキラさせて笑っていた。


その横を通り過ぎ、可哀想に。と思う。

今日は私もやることがあって助けにいけないのだが、

あの苦手おばさんはそんなに忙しくないはずなのに。。。


700枚近い肉を一枚ずつ数え

300超えの魚を数え

20キロを超える卵をわり

他の肉も下味をつけていた。

時間以内に。

途中、膝がガクガク震えて怖かったと明るく話すその人は、とっ散らかった作業場を丁寧に片していた。

「結果できたけど、健康的な働き方ではなかったよ。一歩間違えたら崖の下みたいなさ。私が落ちれば皆落ちる。的な。」

そこに

苦手なおばさんがやってきた。

「よくできたねぇ」

これは褒めているのではない。そう感じた。

「いやーおかげさまで!途中膝がガクガク震えましたよー!結果できましたけど、心の面で健康的な働き方じゃなかったですね!」

と笑っていた。

「私はいつもその思いで仕事してるのよ?」

自慢げに苦手おばさんは言った。


ーーーこの人は次なんて言うんだろう。


2人の顔を交互に見てしまう。


「それは健康的じゃないですね。みんなでもっと支え合わなくちゃいけませんよ。一人のミスはみんなのミスになって、頭を下げなきゃいけないのはトップの人ですから。」

「それが仕事だと思ってやってるからね!」

「そこまで追い詰められてやる必要ないですよ。手が空いてる人いますから。そういう風にトップの人は組んでるはずですよ。」

二人の会話はまだ続いていたようだが、
私はサッと離れた。


休憩の時、仲良しのおばさんが

「よくできたね。あんたがあれやったら私もやらなきゃならないじゃない。でも、その必要なかったよ今日は。だってあんた以外暇してたよ。」


「知ってるよ。だけどやれって言うんだもん仕方ない。結局、人を見て仕事してんだよ。そういう働き方は私は好きじゃないし、尊敬もしてないよ。私はあの人好きではないけど、仕事中は普通に話しかけるよ?だって、仕事だから。あんな風にあんたとは話したくない、手伝いたくありませんし手伝ってもらいたくありませんみたいな働き方、私は好きじゃないね」

「そりゃあんたが正しいわ」


「みんなで給食作らなきゃいけない仕事でしょ?本当は味方でいなきゃいけない人たちじゃん。なのに敵みたいだもんね。それがお気に入りの人たちの足も引っ張ってるってことに気づいてないんだよ。あー疲れた。」


この人って、明るいけど仕事早くて抜けてて
言うこと言って、余計なことまで言って、大変な人だよなぁ。

私は嫌いじゃないけど。


ここで働く前の給食のおばさんのイメージは

みんなニコニコしながら仲良しで

大きな鍋を引っ掻き回して

子どもたちのためにっていう思いひとつで

幸せそうに働いてるんだと思ってた。

でも、現実はそうでもないみたい。

そんなことを考えながら

曇った空を見上げて

干してきた洗濯物に思いを馳せ

トボトボと帰路に着いた。

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