審判の朝

城ヶ崎マリ。

名刺にそう書いてあった。

若いんだか若く無いんだから分からない名前だな。

胡散臭さが増してきた。

でも、背に腹はかえられぬ。

どうにかしなくては。



彼女の働く服屋の前の喫茶店で彼女を見ていた。

なんて話そう。
親父が実は借金を残してて
返すために働かなきゃいけなくて
返し終わるまで
待っててくれるか?


こんなドラマみたいな話
あるかよ。
ドラマチックな雰囲気に任せて
待っててくれなんて
言えるかよ。


俺が幸せにしたかったんだ。
俺と幸せになって欲しかっただけなんだ。

たくさん喧嘩もした。
学生の頃から付き合ってて
6年がたった。

一緒に大人になったんだ。



「将来、どんな人になりたい?」

「俺は、しょうこといれたら、それでいいよ」



あの日の海の夕日が子どもだった俺たちを

見守ってくれていた。



しょうこが
服を畳んでいる。

背の低い女の店員が
しょうこと楽しそうに話している。

あれがよく聞く小さい先輩か。



しばらく見ていて気付いたことがある。



しょうこを




見てる





男がいる。




背の高い店員。



最初は小さい先輩とやらを見てると思っていた。


でも、しょうこを見てる。



俺はしばらく殺気だった目つきであの男を見ていた。

独占欲が強すぎてよく
喧嘩になっていた。

俺は他の男がしょうこと話していることが
許せなかった。


許せない。


でも、今の俺にそんなこと言えるのか?

借金は全て母親に任せて逃げるか?
姉貴もいるからなんとかなるか?
相続を放棄するか?
死んだ後に父親を見捨てるなんて
その道は、選びたくない。
やっぱり、俺が稼いでキッチリ返して
母親にもまた幸せになってもらいたい。

そのためには

俺たちの未来を

犠牲にするしか

しょうこを幸せにする方法が

思いつかなかった。



背の高い男が俺に気付いてしょうこに何か言っている。


しょうこの顔が一瞬

明るくなった。




手を振るしょうこに

俺は泣きながら手を振った。


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