アシェラレイ 漆黒を継ぐもの (8)

りらの21歳の誕生日、りらは緊張の面持ちで天翔蒼と一緒に亜瑠宮邸を訪れ綾乃に紹介した。
「綾乃さま、私の幼馴染で恋人の天翔蒼さんです」
「亜瑠宮様、天翔蒼(あまがけそう)と申します。
本日はお招き頂き有難うございます。光栄です」
「こちらこそ。楽しみにしていましたよ。
 何処かでお会いしたことがあるかしら?」
「いえ、本日、初めてお目にかかります」
「そうでしたね。ごめんなさい。
 蒼さんの佇まいが何となくある方に似ていらして。
 お噂はりらさんから聞いていますよ。今日はゆっくりなさってね。
 蒼さんは宇宙関係のお仕事をされていると聞いていますが」
「はい。日本宇宙開発機構に勤めています。
 今は宇宙観測の仕事をしています」
「宇宙は如何ですか?」
「はい、宇宙は本当に無限大だと思います。その無限大の世界に完璧な調和と軌跡を以て様々な生命が生まれ育まれやがて終わりを迎える。絶えず躍動し貴重な生命が紡がれている。私達もその宇宙の一つの生命だと思うととても敬虔な気持ちになります。全ての生命が愛おしいと感じます」
「そうですね。宇宙は本当に果てしなく広がっています。まだまだ解明されていないことばかりですが故に神秘的で私たちは何故か郷愁を感じ探求していくのかもしれませんね。蒼さんのご先祖様もきっと空を見上げて思いを馳せていたでしょう。何か感慨深いものを覚えます」
「はい、私もその様に日々感じています。多くの方々の思いが宇宙には織り込まれていると思います」
りらは二人の会話を聞いていてとても心温まるものを感じていた。
 
 
 
            ( 二 )

22歳を迎え、りらはアシェラレイ統帥を継承した。
共に歩むものとして親友の東坂万葉(とうさかまは)と仁義葵が勧めた金融機関の経済研究所に勤務の牧村結衣(まきむらゆい)が着くことになった。結衣はまだ30代だがその知識と経済動向予測の確実さで業界では一目置かれていた。
牧村結衣 徳島県美馬市に生まれた。美馬市から車で40分くらいの剣山の麓には天皇の即位関連儀式である{大嘗祭}のあらたいを調進できる阿波忌部の直系である三木家が麻の文化や織物の技術の伝統を引き継いでいる。
剣山も古代イスラエルのマナの壺が眠っているのではないか?と多くの観光客が訪れている。また、平家の落人伝説(祖谷渓)もあり歴史の謎に包まれている地域でもある。
結衣はその大自然のもとで代々織物を営む家で自由に謳歌していた。
中学・高校では弓道部に所属し乗馬も得意であり、生徒会長としてもリーダーとしての資質も発揮している。何事にも果敢に挑戦していく猪突猛進のイメージが先行するが、その一方で、家業の服飾にも興味があり自ら糸を紡ぎ染色しオリジナルの服を仕立てたり刺繍を施すなどとても独創的で尚且つ繊細な感性も持ち併せている。将来は服飾の歴史や織物の技術を専攻したいと考えていたが、ある日数式の美しさや不可思議さに目覚めてしまい理学部数理学科を受験し見事合格し上京した。
「数式は完成されたメッセージツールである」が信条である。
言葉を紡ぐ万葉と数式を解析する結衣、真逆の様にも見えるこの二人は奇跡の化学反応を生み出すだろうとりらは感じている。
四国88カ所のお遍路の「88」にも88星座・88音階との神秘的な繋がりを感じている。その意味の体現を結衣は生まれながらの気質として持っているのではないか?と想像が膨らむ。

万葉には受験シーズンに入り大学が休みとなり後は卒業を待つだけの梅の花が綻び始めた頃に打ち明けた。
万葉は驚きつつも「大学2年生の時、一緒に丹後国の歴史レポートを纏めていた頃から何となく感じることがあったの。丹後国の歴史って調べれば調べる程興味深く深く魅入られてしまったわ。私も20歳になって桃生の言い伝えを母から聞いて丹後国に惹かれるのはその血筋故なんだなと思うととても嬉しかったわ。そして、りらが綾乃さまをご紹介してくれたでしょう。
全ては自然の流れであり導かれたように思うの。
りら、勿論お引き受けするわ。とても光栄よ。これからも宜しくね」
「有難う、万葉」りらは万葉の言葉を聞いてとても心強く思った。
実務は神宮寺勝が引き続き担うことになった。メンバー全員が変わってしまうと不安だろうという綾乃の心遣いだった。
勿論綾乃たちも陰から支えてくれている。

そして、このメンバーに加わる人物がもう一人いた。
りらの最大の理解者となっている天翔蒼である。
統帥を受け継ぐと決めた時に「蒼と共に務めたい」という強い気持ちがあり綾乃に相談していた。綾乃は前例のないことに考えあぐねていたが
「時代が必要としているりらさんが真剣に蒼さんと一緒にと望むのであればそれが必然なのでしょう。良いのではありませんか?
蒼さんに話してごらんなさい」
「有難うございます」
りらはアシェラレイ統帥を継承した誕生日に蒼がお祝いをしてくれたレストランで躊躇することなく単刀直入に話を切り出した。
「蒼さん、今日はお誕生日のお祝い有難う。嬉しかったわ」
「りら、おめでとう。あんなに小さったりらがもう大学卒業か。早いな。
万葉ちゃんと亜瑠宮コンツェルンで仕事をするとか」
「えぇ、私は博物館の学芸員で万葉は情報管理のお仕事なの。
実はね、あまりにも現実離れしているのだけれど・・・」とりらは今迄の経緯やアシェラレイの仕組みを蒼に話し始めた。蒼は静かに聞いている。
りらは話し終え蒼の瞳を見つめた。蒼はおもむろに
「これで納得がいったよ。りらは20歳の誕生日の頃から何か遠くを見つめ始めている様に感じていたんだ。僕も仕事柄毎日宇宙を眺め、衛星の軌道を計算したり惑星や銀河の位置確認を行っている。そうすると、益々人間はというより全ての生命は宇宙と一体なんだなという思いが強くなってくるんだ。もしかしたら僕たちは宇宙から生命を頂いて遥かな旅をしているんじゃないか?その軌跡を宇宙に刻んで来たのではないか?
りらが話した様にこの地球以外にも生命体をもつ星々もあるだろう?とね。
アシェラレイの様に宇宙から生命の脈絡を受け継いでいても何の不思議はないだろう。
僕に出来ることは協力するよ。いや、関わらせて欲しい。子供の頃から何となく感じていた宇宙の神秘を紐解いて行きたいんだ。
僕を必要としてくれて有難う」
蒼の真摯な言葉にりらは心から感謝した。
「私らしく責務を果たしていこう」と心に誓った。

 
淡い桃色の花びらが喜びに満ち溢れて深窓の貴婦人の如く咲き誇っている。
東京の桜の饗宴を幻想的な白銀の景色に変えてしまう程の雪が降り続いた。
息を呑むほどの神秘的な美しさと揺らぐ情景が佇んでいる。
りらは「この桜が明けた頃から日本は苦難の日々を送ることになるだろう」と感じていた。自然は絶えず私達に語りかけている。
りらが意識的に予知を行う時は、必ず周りに起きる何気ない事象を粒さに観察した上で時間軸と同調しその軸上にある事象を感じたり読み解いていく。
本来は誰もがその感覚を有していたが文明の発達によりその記憶を忘れ機能を退化させ、何よりも人類も全ての万物と共に地球と共生している根源を失ってしまったことにある。

一部地域で発生した未知のウィルスは世界に感染拡大し世界はその対応に奔走された。経済は大きな打撃を受け、人々の心にも大きな恐怖と不安を落としていった。
琳彩庵でりら・蒼・万葉・結衣・神宮寺が情勢を分析しながら推移を見守っていた。
ある歴史学者はこの未知のウィルスは2024年・25年を超えた頃から漸く落ち着く兆しを見せ始めるだろうと予知の様な予測を置いた。
未知のウィルスは変異・感染拡大を繰り返しながらも弱毒化し自然感染やワクチン・治療薬の普及と相まって世界は徐々に日常を取り戻していった。
しかし、その実態の解明にはほど遠く後遺症や副反応に苦しむ人々への有効な治療方法が見つからず対処療法を駆使しての暗中模索が続いている。
更に突然の日常の遮断による心身への影響も大きく抵抗力低下や精神バランスの崩壊等様々な事象や収束の為の医学的施策への検証はこれからの最重要事項として人類への重責を課している。

神宮寺がりらに報告した。
「未知のウィルスの感染症状は全くの無症状からICUでの治療を要する重篤に陥ってしまう等様々なようです。感染後の様子も7回接種・2回罹患して而も酸素マスクをつける状態に迄陥っても何事もなかった様にお元気に回復する高齢者もいれば、若くても日常生活に支障を及ぼす等々様々な事例が報告されています。対処療法で治療に当たっていますが、中には普通の風を引き治ったと同時に後遺症も完治したという事例も見受けられたようですが。未知のウィルスのゲノム解析は完了しています。治療薬の完成も間近だと連絡を頂いています。後遺症や副反応問題の対処方法も確立されていくことでしょう」
「治療薬はどの時代にも解毒薬として処方できる植物や生物・呪術的伝承及び科学的見地が存在しています。
周礼の春宮にもありますね。
『音律は宮(脾臓)・商(肺)・角(肝臓)・徴(心臓)・羽(腎臓)』の五音から成り、その五音(周波数)を正して行くことが肝要であると。
驪妃(りひ)-The Song of Glory- | ドラマ - BS11 イレブンより引用

山岡理化学研究所深津博士からも興味深い深い報告がありました。
ニガヨモギ(ワームウッド)の成分であるアルテミシアがサンナに対して有効であると確認されたそうです。ニガヨモギの抽出物はウィルス増殖を著しく阻害することが出来る可能性があると。
疫病は太古の昔から繰り返し発生していました。当時人々は病症状に対しての植物・生物の効能を熟知し療法を行っていました。ヨモギを燻したウィルス駆除や大黄を服用し人体に入ったウイルス除去の促進や鉱物・貝の粒粉による解毒・古代から伝わる呪術・伝承やその時代の理に適った様々な療法が自然と共に存在していました。
未来は病巣の乱れた周波数を修復する為に修復に見合う周波数を持つ元素を合成し注入していく療法が確立されて行きます。
遺伝子に問題が発生しても遺伝子が本来持つ周波数に修復していくことは可能でしょう。本来の美しい遺伝子は全て凍結保存され遺伝子解析情報も厳密に管理保護されています。その遺伝子情報を時が熟せば再び人類に転写することも出来るでしょう。
また生命の誕生は受精だけではありません。女性は自らだけで生命を産みだす神秘を包括しています。
解明できない・不可能・絶望の中にこそ希望の種は宿っています。
全ての問題をクリアー出来る布石は置かれています。
しかし、本来であればスムーズに移行され展開される未来が人類は他生命との意思疎通を喪失し余りにも地球環境を破壊してしまったことと、現在の医学が発展した陰には多くの尊い生命の犠牲があったことも否めません。
動物のみならず人知れぬ地域での検証もあったのではないのでしょうか?
故に暗闇の中を歩まざるを得なくなってしまったのです。
人間社会がもたらした因果とも言えるかもしれません。
私はそのことに懸念を覚えています。

ニガヨモギは黙示録で
『第3の天使がラッパを吹いた
すると松明の様に燃えている大きな星が天から落ちてきて、川という川の三分の一とその水源の上に落ちたこの星の名はニガヨモギといい、水三分の一がニガヨモギの様に苦しくなってその為多くの人が死んだ』
ニガヨモギはウクライナ語でtチェルノブイリを意味するという説や
堕天使ルシファーであると解釈されている説があります。
KYOTOラボから届けられた文献では
ニガヨモギはアルテミシア・アブシンティウムの名称で、
「アルテミシアは月の女神アルテミスに捧げられた」とあります」

りらは銀色の輝きいつも繊細で優しい光を放つ月に想いを馳せた。
「私のイマジナリーフレンドは『ルナちゃん』だった。
ルナちゃんと呼びかけるといつも降りて来てくれて色々とおしゃべりを楽しみ、眠る前には一緒に平和と安寧への祈りを神様に捧げていたわ。
現実社会で私が見えている世界を話せない私にとって心強い理解者だった
丹後国の歴史を調べていても最終的には月の神に巡り逢っていく。
最近興味を持ったインド占星術ナクシャトラ・九曜の概念。
釈迦が息子に名つけた九曜の一つラーフ(羅候)
西洋占星術では水瓶座 風の時代に入ったと言われるが、歳差運動のずれを修正しているラヒリアヤナムシャの座標から鑑定するインド占星術ではまだまだ変革の時代を表していると言われる。

「コロナ禍 地球は 一瞬 静寂に包まれた」

アルテミスは多産をもたらす出産の守護神・妊婦や子どもの守護神とされるが、一方で弓を携え獣を引き連れた森の神として描かれ「矢を注ぐ女神」とされ弟アポローンと共に疫病と死をもたらす神の一面を持っていた。

『生と死・動と静・風と地・覚醒と変革』2つの時代が混在している・・・

『超えて開くもの 二つの輪廻相交え 静寂が混沌を包む
 深く深く 今生の息を刻み  子宮に還るもの 紫を抱く』



アルテミス - Wikipedia  ニガヨモギ - Wikipedia

インド占星術 - Wikipedia

引用・参考にしております

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