個人と社会

 人間の二つの部分。個人と社会。この二つが交錯することはない。それは別な次元を夫々構成しており、一人の人間に二人の存在を抱かせている。
 社会的存在としての人間の原基は、民族である。この基盤の上に諸種の社会性は置かれるのであるが、その状態が逆転するようなことはない。人間は自らの民族性を放棄することは能わず、たとえそれを超越するような社会性を自らに課しも、差し詰め民族性によってそれは溶かされることになる。
 個人的存在としての人間の原基。それは愛する家族である。人間は確かに自己保存の欲求を持っているが、家族はその自己と完全に同化できる存在である。それゆえ、家族は正確には社会ではない。それは自己そのものなのである。
 家族と民族との関係。これこそが、国家の世界観を描出している。それは対立しつつも、相互に依存している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?