民族主義原理論


 民族主義は、拡大主義的戦略に利用されることよりも、防衛主義的なそれに用いられる方が、安定的な効果を発揮するかもしれない。民族主義が領土的、イデオロギー的拡大を獲得するためには、民族主義の対象の民族の力が強大でなければならず、それを維持し、補強するための要素は莫大なものとなる。人口、内需、軍備、政治的統制・・・、これらの社会作用を一身に受けて、その民族は他民族との多様な形態の闘争に参加しなければならない。しかしながら、最も過重な負担になるのは、正にその民族主義自体である。というのも、その民族主義を発動し、実践できるのは、その民族主義の対象たる民族だけであり、それ以外の民族は全て、敵にならざるを得ず、畢竟それは民族主義を体現する民族の政治的孤立を齎すことになるのである。拡大主義的戦略にとって、政治的孤立は、他民族との戦争を誘発し、またそれを激化させていく事由である。民族主義の世界とは、その民族主義の対象たる民族においてのみ、有意の理念となり得るのである。民族という世界観は、イデオロギーの如き、政治的結合を招来することはできず、なぜならば、民族と民族は永久に結合することができない社会性としてのみ、その個性となることができるからである。

 これを考えたとき、民族主義の戦略的有効性は、国家的閉鎖状態という環境において巨大なものになると推察することができる。

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