「将棋星人タイトルホルダー」第1話

  八人の人間が天高く串刺しにされている。

 それを玉座に座って眺めている一人の男、レンヴェルクがいる。(描写は影だけ)

 レンヴェルク「全てのタイトルホルダーは敗北した」

 レンヴェルク「これより地球は私達、将棋星人ベルスオーリエのものだ」

 



 十年後

 ゼファーダ「注目! これより、このゼファーダ様の領地で勝手をした女の処刑を行う!」

 ゼファーダ(かなりゴツイ男。普通に身長3メートル以上ある)が貼り付けにされた立華(十代。女子高生程度の外見)を死刑しようとしており、無理矢理集めた民衆に向かって叫んでいる。

 貼り付けにされた立華には、既に暴行を受けただろう後がある。

 民衆達がざわついている

 民衆1「バカな女だ……今の地球であんなことを……」

 民衆2「将棋星人ベルスオーリエに支配された地球で許されるワケないわ……」

 民衆3「もう地球人はダメなんだ……誰も将棋星人ベルスオーリエに勝てないんだ……」

 ゼファーダ「この女は我らが禁止したくだらん遊びをのうのうとやっていた! 規律を守れんヤツは処刑されて当然だ!」

 立華「何が当然ですか! 将棋で遊ぶことが! 将棋をやって何が悪いというのですか!」

 歯食いしばるように、立華がゼファーダを睨み付ける。

 ゼファーダ「ああ? フッハッハァ! まだ仕置きが足りんかぁッ!」

 ゼファーダが鞭で立華を叩く

 立華「うぐッ!」

 ゼファーダ「お前達地球人は俺達将棋星人ベルスオーリエに負けた! 敗北した! 十年前に侵略され! 為す術無く支配されたんだよ!」

 ゼファーダ「竜王やら名人やら何やらの弱っちいタイトルホルダー達を信じたせいでなぁ!」

 ムチで叩き続ける

 ゼファーダ「あんなのが地球で一番強い棋士達とは笑わせる! この星のヤツらはクズばかりだったというワケだ!」 

 ゼファーダ「戦いに負けた劣等種地球人に許されるモノなど何もない! ただ奪われ! ただ怯え! ただ震えていろ!」 

 ゼファーダは気持ち悪い顔をして、立華の顎をさする。

 ゼファーダ「そもそも、何故地球の将棋をしている? “本物の将棋”とは棋力と棋力がぶつかり合う我々の将棋の事だろう?」

 立華「……将棋とは二人で行うボードゲームの事です。遊びであり、由緒正しい盤面の戦いです。あなた達の常識を持ってこないでください」

 痛々しい姿の立華がゼフィーダを睨み付ける

 立華「将棋は暴力のぶつけあいなんかじゃありませんし」

 立華「タイトルホルダーの皆さんが生きていたら、あなたは為す術無くやられています!」

 立華の態度にイラつくゼフィーダ

 ゼファーダ「……俺の慰みモノになるなら許してやろうと思ったが」

 ゼファーダ「ふっ!」

 ゼファーダが棋力を放ち、立華に軽くぶつける。

 立華「ううっ……」

 ゼファーダの棋力を当てられて、若干意識が遠のきそうになる立華。

 ゼファーダ「この程度の棋力も受け流せんヤツが俺に意見するとは」

 ゼファーダは斧を取り出して立華に斬りかかる。

 ゼファーダ「気が変わったぁッ!」

 ゼファーダが立華に斧を振り下ろした瞬間、斧がたたき折れる

 ゼファーダ「何!?」

 尽「気を悪くしたか? ならよかった。クズ野郎の動揺する面は大好物でな」

 ゼファーダが振り返り、そこを立華も見る。

 斧の刃を持っている尽(男。立華と同年代)が立っている

 尽「お前そこそこ偉いんだろ?」

 尽は懐から取り出した写真を見せる。

 写真にはレンヴェルクの姿(顔のみ。少し荒い)が映っている

 尽「この男が何処にいるか知ってるか?」

 ゼファーダ「……まだ地球人にこんな真似をするヤツがいるとはな」

 ゼファーダは尽に向かって歩いて行く。

 ゼファーダ「自分が何をしたのかわかっているんだろうな?」

 尽「クズは理解が遅いんだな。聞いてるのはこっちだぞ?」

 ゼファーダ「決めたぞ。お前は徹底的にブチ殺す」

 空から将棋盤(駒は並べられている)が降ってくる。

 ゼファーダ「対局リーヴィスだッ!」

 ドラミングでもやりそうな勢いのゼファーダ。

 尽「構わんさ」

 尽が将棋盤の前に歩いて行く

 民衆1「対局リーヴィスなんて……身の程しらずな……」

 民衆2「自殺と同じだ……勝てるワケないのに……」

 民衆3「ああ……また地球人が殺される……」

 民衆達が聞こえてないような素振りの尽。

 立華「な、何をしているんですかあなたはッ!」

 将棋盤の前に行く尽を見て、立華は狼狽する。

 立華「その男は将棋星人ベルスオーリエなんですよッ! 棋士でもない地球人が対局リーヴィスして勝てるワケがありません!」

 立華は絶対にやめるべきと、尽を止めようとする

 立華「対局リーヴィスに負けた者は、勝者の命令に逆らえなくなる! 殺されてしまいます!」

 尽「オレは死なない」

 尽がゼファーダと対峙する。

 尽「先手はくれてやる」

 ゼファーダ「何だと?」

 尽「さあ、好きに仕掛けてこい」

 ゼファーダ「何処までもムカつくガキだッ!」 

 飛車先の歩が浮いて、盤面を直進する。

 ゼファーダ「くらえ! ガキがっ!」

 ゼファーダの歩が尽の歩にぶつかる。

 ゼファーダ「俺達ベルスオーリエの将棋は、貴様ら地球人の将棋のように軟弱ではない! 棋力と棋力がブツかる、純然な殺し合いだッ!」

 ニヤリと笑うゼファーダ。

 ゼフィーダの歩が尽の歩を弾き飛ばそうとしている。

 ゼファーダ「ほうら吹き飛べッ! そのまま王将を玉砕だッ!」

 だが、弾き飛ばせそうなだけで、全然弾き飛ばせない。

 ゼファーダ「ぐ……! ど、どうして!?」

 尽「知らなかったのか? 歩は一マスしか進めない駒だ」

 尽の歩を弾き飛ばせず、ゼファーダの歩は元の位置に戻される。

 ゼファーダ「ば、バカなッ!」

 尽「お前達ベルスオーリエとの対局リーヴィスで地球人は負けた。お前達は地球将棋界の頂点、タイトルホルダー達を倒し、この星を支配し、地球を終わらせた。それでオレ達地球人はこの様だ」

 尽の飛車先の歩が浮く。

 尽「だが、それから10年も経った。

 尽「お前達ベルスオーリエが油断しきり、オレ達地球人が反撃できるようになるには十分な時間だ」

 ゼファーダ「うううッ!?」

 尽「それがこのオレ! 鏑木尽かぶらぎじんだっ!」

 立華「鏑木……ですって?」

 浮いた歩がゼフィーダの陣地に突入し、王以外の駒を全て弾き飛ばしてしまう。

 弾かれた駒は宙に浮いた後、尽の手の上に落ちてくる。

 ゼフィーダ「なっ!? た、たった一手でッ!?」

 尽「一手で詰みだ。将棋星人下つ端

 ゼファーダ「う……うううッ!」

 尽から発せられている棋力にたじろぎ、後ずさってしまうゼファーダ。

 だが、身体を震わせつつも尽を睨み付ける。

 ゼフィーダ「こ、このオレが! 領土持ちディリンであるこのオレがッ!」

 ゼフィーダの王が尽の陣地に突撃する。

 ゼフィーダ「地球人なんかに負けるワケがないんだぁぁぁぁぁ!」

 尽「地球にはこんな言葉がある」

 尽の陣地の銀が全部浮いて、ゼフィーダの王将に襲いかかる。

 尽「王の腹から銀を打てってな!」

 飛来した一枚の銀がゼフィーダの周囲で旋回しながらビームを撃って、ゼフィーダを黒焦げにする。

 同時にゼフィーダの王将も黒焦げになる。

 尽「5二銀!」

 ゼフィーダ「ぐあああああああああああ!」

 将棋盤が空に戻っていく。

 ボロカスにやられたゼフィーダが倒れ、そのまま動かない。

 尽「……しまった。やり過ぎたな」

 尽は貼り付けにされた立華を解放し、そのまま去ろうとする。

 尽「逃げな。コイツをどうにかしたいならそれでもいいが。二度とまともに動けないからな」

 尽は民衆にも視線を向ける。

 見物人達がやられたゼフィーダをどうしようかとざわつき始める。

 立華「ま、待ってくださいっ!」

 尽「なんだ?」

 立華「いえ、あの……その……」

 立華は顔を赤らめている

 立華「お腹……空いちゃって」

 立華がバタンとその場に倒れる。

 尽「……こういうのってオレが腹減ってるパターンじゃないのか?」




 シーンが変わって、どこかの廃屋。

 立華「ありがとうございました。助かりましたー」

 尽「あんたよく食べたね……」
 
 立華「二日くらいずっと吊されてたので、お腹が空いて空いて」

 尽「凄い胆力のある女だ……」

 尽が持っていた食料を立華が全部食べたであろう後(大量の缶詰)がある。

 立華「あの、鏑木って……もしかして鏑木剣かぶらぎけんさんの?」

 尽「ジジイを知ってるのか?」

 瞬間、立華の目が輝く

 立華「知ってますよ! 鏑木剣と言えば王座のタイトルホルダーじゃないですか! しかも二十期以上もわたって防衛し続けた凄い人ですし! 将棋の普及にも尽力していました! それで私は将棋を知ったんです!」

 立華がハッと気づいてシュンとした顔になる。

 立華「……すいません」

 尽「気にしなくていいさ。タイトルホルダー達が皆殺しにされたのは事実なんだ」

 立華「……地球に将棋星人ベルスオーリエが来たせいで」

 尽「ジジイは言ってたよ。強いヤツが勝ち、弱いヤツは負ける。勝負ってのはそういうもんだって」 

 尽に寂しさとか、そういった表情は見られない。

 尽「タイトルホルダー達は将棋星人ベルスオーリエと戦える棋力があった。でも将棋星人ベルスオーリエは強かった。だから負けた。そういう事だ」

 立華「でも、そのせいで地球の将棋は――」

 尽「あんた、地球の将棋をやってたせいで捕まったんだろ?」

 立華「え? は、はい……」

 尽「こうなっちまった世界で対局リーヴィスではなく、対局をしてくれるヤツがいる。ジジイは喜んでるよ」

 尽が慰めるように立華に言う

 尽「ジジイは将棋が好きだった。あんたと同じだ」

 立華「ありがとう……ございます」

 立華が申し訳なさそうな表情で感謝する。

 尽「そういや、あんたの名前は?」

 立華「え? な、名前ですか? えっと、その……」

 何故か立華はしどろもどろになる。

 立華「り、立華りっかです! 泉立華せんりっかといいます」

 尽「立華。お前はこの男を知っているか?」

 尽が切れ端を見せる

 立華「……はい」

 尽「知ってるのか!?」

 立華「レンヴェルク・ハク・レスキオン。地球を支配する八爵レーヴェの一人で……その、鏑木さんの……」

 尽「そうだ。ジジイを殺したヤツだ」

 尽が立華に詰め寄る。

 尽「コイツはどこにいる?」

 立華「ここからずっとずっと先にある……かつて千駄ヶ谷と呼ばれた場所にいるはずです」

 立華は、火の海になった千駄ヶ谷に一人立っている男、レンヴェルクの姿を思い浮かべる。

 立華「レンヴェルクは千駄ヶ谷の棋士達を倒して、将棋星人ベルスオーリエで初めての領土持ちディリンになりましたから」

 尽「千駄ヶ谷か。何処にあるか教えてくれ」

 尽が立ち上がる。

 立華「た、戦う気なんですか!」

 尽「勝負は弱い方が負ける。それはそうだと思う。タイトルホルダーだろうと誰だろうと、ジジイが負けたのは弱かったからだ」

 尽の拳が強く握られる

 尽「でも、レンヴェルクはジジイを殺した。オレのたった一人の家族を殺したんだ」

 尽「なら、オレはレンヴェルクを殺す。それが孫であるオレの目的だ」

 立華「む、無茶です! レンヴェルクは八爵レーヴェなんですよ! タイトルホルダーの方達を倒したとんでもない棋力の持ち主なんです!」

 尽「たかが八爵レーヴェ。諦める理由にはならない」

 立華「い、いえ! 理由は棋力の話だけじゃなくて――――」

 尽「わかった。こうしよう」

 尽が折りたたみ式の将棋盤を出す

 尽「オレが勝ったら立華は千駄ヶ谷の場所を教える。立華が勝ったらオレは立華の言う通りにする。どうだ?」

 立華「え? い、いいんですか?」

 対局リーヴィスだと思ったので、立華は拍子抜けな顔になる。

 尽「なんだ? 将棋ならオレに簡単に勝てる思ってるのか?」

 尽が得意満面な顔になる。

 尽「オレは将棋でも強いぞ」

 立華「う、うぐっ!」

 立華(鏑木さんは王位のお孫さん……絶対に油断できない)

 尽「いくぞ!」

 立華「はいッ!」

 将棋が始まり、あっという間(一コマもかからず)に尽が負ける(王将以外、全部立華に取られている)

 立華「弱ッ!」

 立華に圧殺され、尽は項垂れる

 尽「ば、ばかな……」

 立華「今の私が負けるパターンだと思うんですけど……」

 尽「立華はジジイとも互角に戦えるな。胸を張っていい」

 立華「王位と戦えるなんて、とても思えませんけど……」

 立華「でも、何にせよレンヴェルクと戦うのは無理です。というより、戦えません」

 尽「戦えない? 何故だ?」

 立華「八爵レーヴェと戦えるのは竜王、名人、王位、王座、棋王、叡王、王将、棋聖のタイトルホルダー達だけです」

 立華「タイトルホルダーでない者が八爵レーヴェ対局リーヴィスを仕掛けると、その身体が燃え尽きてしまうんです。戦う以前の問題なんですよ」

 尽「そうだったのか」

 尽は理解はしても、特に驚いた感じはない

 
 立華「だから、尽さんがどんなに強くても、レンヴェルクに対局リーヴィスを仕掛けたら燃え尽きてしま――」

 尽「!? 伏せろッ!」

 尽と立華のいた廃屋が吹き飛ぶ。

 ベルドント「ヒャッハッハァッ! ここかぁ! ゼフィーダを倒したヤツがいるのはよぉ!」

 廃屋を吹き飛ばしたのは、見た目からしてロクでもなさそうな雰囲気満載で十メートルはありそうな巨漢の男。ベルドント。
 他にも、その男の大量の部下達(こっちのサイズは普通)がいる。こちらもガラが悪い

 ベルドント「あっけねぇ! あっけねぇなぁ! これで大金星とはボロいぜぇ!」

 部下1「簡単でしたね兄貴!」

 部下2「ゲラゲラ。俺達に逆らわなきゃもっと生きられたのによぉ!」

 部下3「おとなしくヘーコラしてねーからこうなっちまうんだぁ!」

 ベルドント「ヒャヒャヒャ! 鏑木尽を倒したのはこの俺! ベルドント様だぁ!」

 将棋星人に歩が飛んでくる

 ベルドント「なにッ!?」

 ベルドントは部下2掴んで盾にして防ぐ。

 部下2「へぎゃっ!」

 歩が額に刺さって部下2が死亡。

 尽「驚いたか? ならよかった。クズ野郎の動揺する面は大好物でな」

 ベルドント「ちっ。いい歩の使い方するじゃねぇか」

 爆炎が晴れて、ベルドント達の背後で、立華を守るように立っている尽がいる。

 ベルドント「簡単に大金星ってワケにはいかねーか」

 尽「大金星?」

 ベルドント「お前は領土持ちディリンを倒しちまったからな。やりすぎたんだよ。俺達ベルスオーリエの間じゃ有名人だぜ? おめぇをやっちまえば、どんな褒美も思いのままってな! ギャハハハハハ!」

 部下達も一斉に笑い出す。

 ベルドント「さあ、お前ら気合い入れろよ! コイツをやっちま――」

 ベルドントが立華に気がつく。

 ベルドント「あ、あなた様はまさかッ! おい! お前らッ!」

 ベルドント達が一斉に跪く

 ベルドント「も、申し訳ありません! まさかプリジャイン様がいらっしゃるとは……」

 尽「プリジャイン?」

 立華「…………」

 立華が将棋星人達の前にくる

 立華「久しぶりですねベルドント。本邸の庭で会ったのが最後でしょうか」

 ベルドント「ハッ! あの頃からプリジャイン様はお変わりなく――」

 立華「もう私はプリジャインではありません。レスキオンの名は捨てました」

 ベルドント「し、しかし! レンヴェルク様はプリジャイン様を心配しておいでです! 早く最愛の妹に帰って欲しいと、いつも悲壮な顔で――」

 立華「私はタイトルホルダー達を排除し、地球をこのようにした兄が許せません……認めることができないのです」

 ベルドント「プリジャイン様! どうか! どうかお戻りを! お願いいたします!」

 立華「兄に伝えてください。プリジャインは立華の名でこれからを生きると」

 ベルドント「どうしても! どうしてもお戻りになる気はないのですか!」

 立華「地球がこのままなら、私はレスキオン家に戻る気はありません」

 ベルドント「……わかりました」

 ベルドントの顔が極悪人のように変わる

 ベルドント「なら、この女は迫害モンだぁ! 地球人と同類ってこったからなぁ! ぶっ殺すぞお前らぁ!」

 部下達「ヒャハハハハーーーー!」

 ベルドントの部下が一人、立華に突撃してくる。

 部下「死にさらせ元王女さんよぉぉぉぉ!」

 その部下の額に、尽の投げた歩が刺さる

 部下「ヒャウッ!」

 さっきと同じように、歩が額に刺さり、地面に転がって死ぬ部下

 尽「なんだかよくわからんが」

 ベルドントの前に立ち塞がる。

 尽「目の前で女性が襲われてるのを、見ないフリはできんな」

 ベルドント「ヒャヒャヒャ! バカだなてめぇはよぉ!」

 空から大量の将棋盤が降ってくる(ベルドントとその部下の数)

 ベルドント「戦いってのは数なんだぜぇ! それがわかってねぇとはよぉ!」

 大量の将棋盤から歩やら香車やら色んな駒が、大量に尽へ迫ってくる

 部下達「ダヒャヒャヒャー! 死んじまえぇぇぇぇぇぇ!」

 だが、その駒達は尽の前でピタリと止まり、バラバラと落下する。

 部下達「は?」

 尽「将棋星人ってのはバカの集まりなのか?」

 部下達「ギャアアアアアアアア!」

 全将棋盤で尽側の歩が浮いて、部下達を皆殺しにする。

 ベルドント「コイツ! この人数に多面差しができやがるのか!!」

 尽「オレにはできないと思ってたのか? おめでたいヤツだ」

 ベルドントの部下達が全員死亡し、ベルドントだけになる。

 ベルドント「たしかに、ただの人間じゃないようだ」

 尽「御託はいい。さっさとかかってこ――」

 ベルドント「横歩取りぃ!」

 尽の脇腹に飛車がボディブローみたいに突き刺さり、尽が吹っ飛んで行く。

 立華「鏑木さん!」

 ベルドント「ハッハァ! すまねぇなぁ! オレはゼフィーダと違って強いんだよ!」

 吹っ飛んだ先、瓦礫をどかして尽が出てくる。

 服についた埃を叩きながら余裕の表情。ダメージをうけた様子はなし。

 尽「埃をつけたくらいで喜べるとはな。とても真似できん」

 尽「少し教えてやる」

 尽の駒の飛車が浮いたと思ったら消える。

 尽「これが横歩取りだ」

 ベルドント「がふぁっ!?」

 
 尽の時のように、ベルドントの脇腹に飛車が突き刺さり、ベルドントはすっ飛んでいく。

 横歩取り威力はベルドントより尽の方が明らかに上

 ベルドント「ぬ、ぐうっ……」

 無傷とはいかないが、どうにか尽の横歩取りに耐えて、瓦礫から姿を現すベルドント。

 尽「今のでそのザマか。あと何発耐えられるだろうな」

 ベルドント「はっ、ぬかせぇっ!」

 ベルドントが迫ってくる。

 ベルドント「横歩取りぃ!」

 またベルドントの飛車が尽の横腹に刺さろうとするが、それを尽は腕にいくつかの歩を纏って防御する。

 ベルドント「なんだと!?」

 尽「本気でやったほうがいいぞ。もし、これが本気だというなら――わかってるのか?」

 尽の身体が炎を纏ったように輝きだす。

 尽「対局リーヴィスが殺し合いだと言ったのはお前達だぞッ!」

 ベルドント「ば、ばかなッ!?」

 立華「このくれないの輝きは!? 王位タイトルホルダーの棋力!」

 一瞬で尽がベルドントの目の前まで移動する。

 ベルドント「は、速いッ!?」

 尽「はあっ!」

 桂馬を握りしめた尽のパンチがベルドントに深々と突き刺さる。

 ベルドント「はぐおっ!」

 その場でヨロヨロと後ずさり、跪くベルドント。

 同時にベルドントの盤面にある銀と金が弾け飛んで地面に転がる。

 尽「終わりか?」

 立華「鏑木さんは鏑木王位の孫だけど……でも、まさかタイトルホルダーの棋力を……王位を持っているなんて……」

 ベルドント「こ、こんなっ! こんなことがっ!」

 立華「王位タイトルホルダーの棋力があるのなら……本当に倒せるかもしれない……」

 ベルドント「こ、このオレが対局リーヴィスで地球人なんかに……!」

 立華「八爵レーヴェを倒して……ごく普通に将棋ができる世界を……」

 立華の脳内で、普通に将棋を遊んでいる人達の姿や、ごく普通にタイトル戦が行われているシーンが思い浮かんでいる。

 尽「王手だ。ベルドント」

 尽の銀が浮いてベルドントへ向かう。

 尽「8六銀!」

 銀がビームを撃って、ゼフィーダとゼフィーダの王将を黒焦げにする。

 ベルドント「があああああ!」

 ベルドントが倒される。

 尽「しかし、困ったな。灼かれないのはいいとして、千駄ヶ谷は何処に――」

 立華「訂正します鏑木さん」

 尽「ん?」

 立華「鏑木さんならレンヴェクルと戦える――いや、違いますね」

 立華が首を振る。

 立華「きっと、尽さんならレンヴェルクを倒せます」

 尽「どうしたんだ? さっきと言ってる事が――」

 立華「さ、行きましょう。千駄ヶ谷まで私が案内します」

 尽と立華が千駄ヶ谷に向かって旅を始める。

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