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前世紀の洋楽鑑賞 その4

原題:PETER GABRIEL
邦題:ピーター・ゲイブリエルⅢ

1980年5月発表。ピーター・ゲイブリエルのソロ第三作。ヒプノシスによるピーターの顔が半分溶けたように見えるジャケットから、別名「Melt」とも言われます。
アルバム・チャート全英1位、全米22位。

大学生の頃、GENESISからの流れで、ソロに転じたゲイブリエルも聴くようになりました。彼のオリジナルアルバムの中で、個人的には一番好きです。
一般的には全英1位、全米2位となった、1986年の「SO」が彼の代表作ですが、ロックと民族音楽の融合へのチャレンジや、旧友フィル・コリンズが参加したレコーディングで、音がはねる石壁で発生したゲート・リバーブを活かしたドラムサウンドなど、今聴いても新鮮さは失われていないと思います。

感想
1曲目
Intruder
いい意味でサウンドも歌詞も気持ち悪い。
その後一世を風靡したゲート・リバーブのドラムが印象的。ドラマーはフィル・コリンズ。
旧邦題の「侵入者」は、サウンドを聴いた当時しっくりときました。


2曲目
No Self Control
ケイト・ブッシュが初参加。ギターは前作でプロデューサーだったロバート・フリップ。
当時としてはロック・ミュージックに珍しいマリンバの音が印象的。

3曲目
Start
サックスがいい味を出してます。
荘厳な葬儀の曲に聴こえるのは私だけ?

4曲目
I Don't Remember
旧邦題「記憶喪失」
リズムマシーンを手に入れたピーターは、このアルバムからコードやメロディの代わりに、リズムを発展させて曲作りをするようになります。最初にできたのがこの曲。
ライブでの常連メンバーとなるトニー・レヴィン&ジェリー・マロッタのリズムセクションが力強い。

5曲目
Family Snapshot
獲物を狙う暗殺者の思考回路がもとになった暗い歌詞。しかし、イントロのキーボードはじめサウンドは素晴らしい。トニー・レヴィンのスティックがいい感じ。

6曲目
And Through the Wire
ギターの感じが決まらない中、同じスタジオでレコーディング中だったザ・ジャムのポール・ウェラーにギターを弾いてもらったところ、一発で決まったそうです。
プログレとパンクの断絶を、ピーターは乗り越えていることがわかります。

7曲目
Game Without Frontiers
リズムマシーンに被さるケイト・ブッシュの声、口笛のように聞こえるキーボードが味わい深い。全英4位。

8曲目
Not One of Us
旧邦題「異邦人」。リズムが心地好い。

9曲目
Lead a Normal Life
ボー・ディドリーのメロディの一バリエーション。繰り返されるキーボードのフレーズが耳に残る。

10曲目
Biko
南アフリカの政治活動家スティーヴン・ビコの死に触発されて書かれた曲。短波放送でたまたま拾った部族的なリズムがベースに作曲。コードは3つしか使っていないそうです。
その後、ピーターは人権運動に積極的に関わるようになります。

まとめ
プロデューサーは当時20代のスティーヴ・リリーホワイト。のちにローリング・ストーンズのプロデュースもする大物になります。エンジニアはヒュー・パッジャム。のちにフィル・コリンズの片腕としてジェネシスのプロデューサーを務めます。
こうした才能あるスタッフとともに、民族音楽の影響を受けたリズムの斬新さなど、当時としては最先端をいったことは、暗い歌詞も相まって、当時のアメリカのレコード配給会社からは商売上の自殺行為としてみなされ、契約を解消されましたが、結果的にアメリカでは1、2枚目のアルバムを凌ぐ25万枚のヒットとなりました。


参考図書です。アルバムや曲の説明のかなりの部分がこの本からの引用です。

ピーター・ガブリエル(正伝)1989年
スペンサー・ブライト著、岡山徹訳

帯には「人間,私生活,音楽のすべてを明らかにする決定版」とあります。
自分は発売直後に購入しましたが、今、本屋を覗いても見かけませんね。

生い立ち、ジェネシス結成から脱退、ソロとなり5枚目のアルバムSOの成功、そして、夫婦関係を含めた私生活が描かれています。

Ⅲの制作過程は、「リズム革命」という章の中で触れられています。
ゲート・リバーブが誕生した経緯、シンセサイザーなど最新テクノロジーや南アフリカのアパルトヘイトへの深い関心など、その後多くのミュージシャンが取り上げる分野を先取りしていたことがわかります。
クリエイターとしての彼の面目躍如といったところでしょう。

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