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副業~多様な働き方の実現に向けて~

はじめに

こんにちは!
「新しい働き方のトレンド」をテーマとした連載の中で、今回は副業について考えてみたいと思います。
現在、副業を希望する労働者が年々増加しており、キャリアの選択肢としての副業に注目が集まっています。また、内閣府の会議の中で「副業・兼業の円滑化」が議題(2023年12月5日)となっており、副業は新しい働き方のトレンドとして推進が目指されています。
新しい働き方のトレンドである「副業」について、以下の目次の内容でご紹介していきたいと思います。


副業にご興味をお持ちの皆様や、副業推進の現状を知りたいと考えている方の参考になれば幸いです。ぜひご覧ください!

1. 副業の定義

そもそも副業とは、労働者が本業以外に従事する仕事です。副業の形態は、 正社員、パート・アルバイト、会社役員、起業による自営業主等さまざまです。
労働者は、本業勤務時間外の過ごし方について、私生活の自由を持ちます。本業の勤務時間以外の時間を自由に使うことができるのです。先述の副業は、労働者にとって私生活の自由の範囲内であり、労働基準法にも副業を規制する法律はありません。したがって、本来、労働者は副業を自由に行えるはずです。

2. 企業における副業規制

先章で述べた通り、労働者は副業を行う自由を持っています。しかし、実際の就業規則では、副業が規制されている例が多くみられます。(※就業規則とは→企業が定めた働き方に関する約束事。職場でのルールを定めた規則のこと)そのため、勤務する企業のルールによって、副業をしたいという希望が叶わないケースが存在します。
副業規制は、日本における副業件数を抑制してきたと考えられます。

副業規制の背景にある雇用システム

労働者が自由に行えるはずの副業は、なぜ規制されてきたのでしょうか?
副業規制の背景には、日本型の雇用システムがあります。日本の雇用システムは、労働者の終身雇用を前提に成り立ってきました。終身雇用システムでは、1つの企業に集中して勤めることを理想とする風潮があります。副業は1つの企業での本業以外の労働であり、企業にとっては終身雇用システムを阻害する要因ともなったのです。労働法学者の大内伸哉先生は、終身雇用システムにおいて「副業は一種の背信行為」と判断され、「他社に勤める余裕があるということは、本業で手を抜いているのではないか」と見られる風潮があると分析しています(2017)。つまり、終身雇用を前提とした旧来の日本型の雇用システムでは、副業は好ましくないものとされてきたのです。
このような副業を取り巻く日本国内の風潮が、多くの企業における副業規制の設定をもたらしました。
実際に、労働者の副業は、企業にとって悪影響を及ぼすリスクがあります。例えば、労働力や企業秘密の流出が挙げられます。企業は、こうしたリスクへの対策として、副業を規制してきたのです。

副業を制限できる条件

企業の副業規制は、一定の要件のもとで認められています。
副業規制は、企業による労働者の私生活の自由の制限と解釈することができます。そのため、労働者が持つ「私生活の自由」の権利を制限するためには、その制限に相応の事由が必要となるのです。

  • 労働者が行う副業が以下の条件に該当する場合、企業は副業・兼業を制限することが許されます。

  • 労務提供上の支障がある場合(職務専念義務

  • 業務上の秘密が漏洩する場合(秘密保持義務)→労働者が職務中、あるいは企業において知り得た秘密を他に漏洩してはいけない

  • 競業により自社の利益が害される場合 (競業避止義務)→在職中の企業と競業にあたる企業や組織への転職や競合する企業の起業といった行為の禁止

  • 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

以上の条件は、副業・兼業について争われた過去の裁判例から解釈されたものです。厚生労働省が定めた「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(参考:000962665.pdf (mhlw.go.jp) )にも、その内容が記載されています。

労働者の立場で考えると、自身が行う副業が以上の条件に該当する場合、副業・兼業が勤務する企業から制限されたり、副業をしたことによって解雇されてしまう場合があります。言い換えれば、労働者は、副業をする際には、本業の企業に対して、上記の条件を守る義務を負うということです。

3. 政府主導の副業推進

日本の雇用システムでは、終身雇用を前提として労働者の副業規制が置かれてきました。
しかし、現在では日本の雇用システム自体が変革を迎えています。労働者は終身雇用以外のキャリア形成や、働き方の選択肢を幅広く持てるようになりました。
このような雇用システムの変化に合わせて、政府主導で労働者の副業が推進されるようになりました。例えば、副業を後押しする社会の構築に向けて、先章で述べた「副業制限」の緩和が目指されています。
本章では、これまで政府が行ってきた副業推進の取り組みをご紹介します。

2017年に「働き方改革実行計画」が閣議決定されました。働き方改革では、日本の雇用システムにおける柔軟な働き方の実現が目標とされました。柔軟な働き方の一例として、副業・兼業に注目が集まりました。「働き方改革実行計画」では、「副業や兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、第2の人生の準備として有効」と、日本の雇用システムにおける副業制度は高く評価されています。
「働き方改革実行計画」の閣議決定にしたがって、厚生労働省を中心として、各省庁が副業・兼業の推進に向けて動き始めました。

2018年1月に厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定しました。働き方改革の一環として副業を推進するために、「安心して副業・兼業に取り組むことができる」労働環境の実現が目指されました。当ガイドラインには、「副業・兼業の場合における労働時間管理や健康管理等について」示されています。
また、厚生労働省は企業のモデルとなる就業規則(以下、モデル就業規則)を定めており、その内容にも変更が加えられました。
旧来のモデル就業規則においては、副業について「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定がありました。つまり、労働者は副業を行う際には、本業として勤める企業に許可を取る必要がある、とされていました。この文言は、副業を抑制するものと解されました。
そこで、2018年の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の策定ともに、モデル就業規則から上記の文言が削除されました。

2020年9月には上述の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の内容が改定されました。改定では、副業のさらなる推進のために、副業・兼業の場合における労働時間管理及び健康管理についてルールが明確化されました。
ガイドラインに基づいたモデル就業規則にも改定された文言が加えられました。モデル就業規則に「勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」に変更され、副業禁止の規定が撤廃されています。

最新の政府主導による副業推進の取り組みは、2023年12月5日に行われた、内閣府規制改革推進会議です。内閣府規制改革推進会議では、副業・兼業の円滑化が議題となりました。副業の意義や利点を改めて議論した上で、企業における副業導入の現状と課題が話し合われました。
副業推進をする上の妨げとして、副業制度の理解不足や労働時間管理・競業避止義務の判断の難しさ等が挙げられ、それぞれの現状が分析されました。副業推進がどのような現状にあるかを踏まえた上で、今後の政策について議論された会議となりました。

以上、政府による副業推進の取り組みをご紹介しました。日本の雇用システムの変容に対し、政府は副業制度を含む働き方の改革を行っていることをお伝えしました。政府は、労働者がより副業をしやすい環境を整えることを目指しています。そのために、企業の制度改革が必要とされますが、現状では未対応の課題が残っています。(課題の1つである労働時間管理については、本note記事の第7章でも検討します。)

4. 副業の現状

本章では、日本における副業の現状を紹介します。

データで見る副業の実態

労働政策研究・研修機構が2022年に実施した「副業者の就労に関する調査」によると、副業者(仕事をしている人のうち複数の仕事をしていると回答した人)は6.0%でした。男女別では、男性が5.1%・女性は7.4%と、女性の方がやや高い傾向にあります。これには、本業の形態(正社員かアルバイトか等)によって副業実施率に差があることと関連すると考えられます。本業が非正規雇用である労働者の方が正社員より副業(つまり掛け持ち)をしている割合が高いうえに、日本では非正規雇用で働く女性(1432万人)が男性(669万人)に比べて多い(※)ため、全体として女性の副業実施率が高いとも言えます。
※出典:総務省統計局「労働力調査(基本集計)2022年

実施している副業数は「1つ」が78%と多数を占めています。
副業形態については、多い順に「パート・アルバイト」( 以下「アルバイト等」) 46.9%、「自由業・フリーランス(独立)・個人請負」 (以下「フリーランス等」) 21.7%、「自営業主」7.4% などとなっています。
なお本業形態ごとに、割合が多い副業形態は異なっています。
●本業が正社員の場合、副業はアルバイト等が39.6%フリーランス等が21.7%などだったのに対し、
●本業がアルバイト等の場合は副業もアルバイト等である割合が約74%と多い結果となっています。
●本業がフリーランス等の場合は、副業もフリーランス等である割合が57%と高く、次がアルバイト等24.1%という結果でした。

本調査から考えると、副業を「本業以外に従事する仕事」「複数の仕事に従事すること」と一口にまとめてもその実態は様々です。そのため、「副業」をひとつの基準で語ることは難しいです。

正社員の「副業」

ここからは上記を踏まえ、企業で働く正社員の副業に焦点を当てて紹介します。
パーソル総合研究所「第3回 副業の実態・意識に関する定量調査」(2023年)によると、副業を実施している正社員は7.0%でした。年代別では20代から30代の副業実施率が8.8〜8.9%と高く、40代は6.5%、50代は4.5%と年代が高いほど実施率は低い結果でした。
正社員の副業の収入額については、月1万円~5万円未満が最も多く、次に5~10万円未満と続きます。
このように副業を収入面から見ると、多くの正社員にとっては生活に必要な収入源というより、収入の補填や自由に使える所得を増やすために実施すると言えます。

労働政策研究・研修機構「副業者の就労に関する調査」1か月あたりの副業の収入(本業が正社員)


5. 副業をするメリット・注意点

本章では、労働者(主に正社員)にとって副業をするメリットや注意事項を紹介します。
副業をするメリットと注意事項は、それぞれ以下のようになります。

メリット
(1)収入の増加
(2)視野の拡大や本業と異なるスキルの獲得
(3)将来の転職や起業の準備・試行
(4)自己実現の手段

②注意する点
(1)本業への支障
(2)副業に係る税金や社会保険加入

ここからは、それぞれの内容について、詳しくご紹介します。

①メリット

(1)収入の増加
副業を実施する最大のメリットは、「収入の増加」といえます。副業をする目的は経済的な理由が上位を占めています。パーソル総合研究所の調査によると、「趣味などに充てる副収入を得たい」が69.7%、「現在の仕事での将来的な収入に不安があるから」が57.5%などとなっています。

(2)視野の拡大や業務で役立つスキルの獲得
副業を実施して得た効果には、「視野の拡大」や「業務で役立つスキルの習得」が挙げられます。また副業が本業に近い内容のほうが、効果を実感した割合が高いという結果もあります。

(3)将来の転職や起業の準備・試行
副業では、リスクの少ない形で将来の転職や起業に向けた準備・試行ができます。なぜなら転職や起業を望むときに、本業を続けながら、準備・試行ができるからです。副業で、将来就きたいと考えている仕事の適性を確かめたり、必要なスキルを習得することができます。

(4)自己実現の手段
趣味を仕事にしたい場合、本業とするには金銭的なリスクが大きくても副業であれば実現のハードルは低くなります。本業を持ちながら、副業で好きな場所で働くことや自分の作品を販売する機会を得ることは大きなメリットとなります。この場合の副業は、収入源というより趣味の延長としての仕事と言えます。

②注意する点

様々なメリットがある副業ですが、労働者が注意すべき点があります。ここでは、副業をする際に注意点を2点紹介します。
(1)本業への支障
(2)副業に係る税金や社会保険加入

(1)本業への支障 ー 就業規則と社員が負う義務
第2章「副業を制限できる条件」でご紹介した通り、本業に支障をきたす副業は企業から制限される場合があります。
まず、副業での長時間労働仕事量に注意が必要です。これは健康面の問題に加え、第2章で述べた勤務先に対して負う職務専念義務に反する可能性があります。本人が労働時間や仕事量を調節できる環境が望ましいです。
もう一つは、副業内容です。社員は、副業の仕事内容が秘密保持義務競業避止義務に抵触しないか予め確認する必要があります。

(2)副業に係る税金社会保険加入
次に、副業に係る所得税・住民税の申告と社会保険の加入に関する注意事項です。副業をする際には、本業とは別に申告等の手続きが必要になる場合があります。以下では、それぞれの内容をご紹介します。

◆所得税
給与を一か所(本業先のみ)から受け取る場合には、そこで源泉徴収と年末調整が行われるため基本的に申告不要です。
一方で、副業の収入(給与所得や事業所得など※)があり、それらの合計が年20万円を超える場合には所得税の確定申告が必要になります。翌年2月16日から3月15日の間に、確定申告書を税務署に提出します。
(参考)国税庁サイト:No.2020 確定申告|国税庁 (nta.go.jp)

※所得は全部で10種類あり、雇用されている労働者が受け取る給料は「給与所得」、事業の収入から経費を引いた所得は「事業所得」などと分類されます。

住民税
副業に係る住民税は、所得額を問わず納める必要があります。住民税の納付方法は2種類あります。
1つ目の納付方法は「特別徴収」です。会社員などの給与所得について、勤務先の事業者(企業)が毎月の給与から控除して納付します。そして副業収入がある場合も、基本的に本業と合算して住民税が引かれるため、本人の申告は不要です。
2つ目の納付方法は「普通徴収」であり、納税者自身が申告して納税します。個人事業主などはこの方法で納付します。毎年自治体から納税者に通知が送られ、年4回に分けて納税します。ただし本業の給与所得があっても、副業の所得が給与所得ではない(事業所得や雑所得など)場合は普通徴収に切り替えられる場合があります。

申告方法は確定申告の有無によって以下のように異なります。

副業の所得が年20万円以上の場合
税務署で確定申告を行う必要があります。これにより住民税額も決定され、特別徴収の場合は事業者に住民税額の通知が届きます。この際に、確定申告書第2表の「住民税に関する事項」で「自分で納付(普通徴収)」を選択することで、副業の所得を普通徴収に切り替えることが可能です。

副業の所得が年20万円以下の場合
確定申告は不要となりますが、普通徴収の場合は住んでいる市区町村の役所で副業所得を申告し、住民税額を確定します。特別徴収から普通徴収に切り替えたい場合は、「普通徴収への切替理由書」を作成し役所に提出します。自治体ごとに書類や申告方法が異なっているので、事前に確認しましょう。

なお、副業先にも雇用されていて所得が給与所得となる場合は、原則として本業先とまとめて特別徴収されます。対応は自治体によって異なりますが、普通徴収に切り替えられない場合が多いため注意が必要です。

社会保険加入
副業先で雇用される場合は、一定の条件に該当すると一部社会保険への加入が必要になります。以下では、それぞれの社会保険の加入条件をご紹介します。
労災保険
労災保険は雇用される全ての労働者が加入対象となるため、副業先でも加入します。なお2020年に法改正が行われ、副業者の労災保険給付にあたり、全ての勤務先の賃金額と負荷を総合的に評価できる制度になりました。
(参考)労働者災害補償保険法の改正について|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

雇用保険
雇用保険は二重加入できないため、基本的に収入の多い本業先で加入し副業先での加入は不要です。

健康保険/厚生年金保険/介護保険
次のいずれかの条件を満たすと加入対象となります。
⑴週所定労働時間および月所定労働日数が、一般社員の4分の3以上
⑵下記の5条件をすべて満たしている
 週所定労働時間が20時間以上2か月以上使用される/月賃金8.8万円以上学生ではない/⑴の被保険者が常時100人超の企業に勤めている
 →2024年10月から、常時50人を超える企業が適用対象になります。
(参考)社会保険適用拡大 特設サイト|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

複数の勤務先で社会保険加入対象となった場合には、本人が日本年金機構に届け出る必要があります。そして決定した保険料額などは、管轄する事務センターからそれぞれの事業所へ通知されます。
(参考)日本年金機構 複数の事業所に雇用されることになったときの手続き


以上、副業をする際の注意点として、本業への支障、副業に係る税金や社会保険加入をご紹介しました。実際に副業をする際には、必要な手続きを労働者本人が正しく把握する必要があります。

「副業 バレない 🔍」は実現可能か

さて、インターネットで副業について検索すると、上位に「副業 バレない」などのワードが表示されます。いくら副業を推進する機運が高まっても、まだ「副業はいけない」という認識が根強いのでしょうか。もっとも、副業は労働者の自由であり隠れて行う必要はないうえに、先述した競業避止義務等の観点からも事前申告することが望ましいです。
それでも、本業先に黙って副業をしている人は一定数います。労働政策研究・研修機構の調査では、副業を本業先に「知らせている」正社員は33.5%、「伝えていないが上司や同僚は知っている」が23.0%、「知らせていない」が43.5%という結果になっています。そして本業先で副業が「禁止されている」場合には、副業を知らせていない割合は72.5%にのぼりました。
ここでは、黙っていた副業が会社に伝わってしまう経路とそれぞれの対策をいくつか紹介します。

①副業を見られてバレる
社内・社外で副業をしているところを目撃されたり、PCを見られたりして発覚する場合があります。
関係者に見られる可能性がある場所では、副業に関する作業はしないことをおすすめします。

②交友関係からバレる
直接言わなくても、うわさや人的交流から伝わる可能性があります。これには筆者の想像も入りますが、業界や職種内では会社を超えたネットワークが発達しており、他社であっても同僚や上司がつながっていることは十分考えられます。
副業をしていることを知られたくなければ、関連領域の仕事は避けた方が良いかもしれません。

③SNSからバレる
SNSに副業に関する情報を載せた場合、そこから同僚などを通して伝わる可能性があります。
限定的に公開しても広がる範囲は不明であるため、副業に関する投稿は避けるか副業用に別のアカウント等を用いる方が良いでしょう。

④住民税からバレる
先述の通り、住民税は基本的に本業と副業の収入を合わせて本業先に通知されます。住民税額が本業の給与に対して不自然に高ければ、本業以外に収入があると想定され、会社に副業を感づかれる可能性があります。そして副業で給与所得を受け取っている場合は、自分で納税する普通徴収への切り替えが難しいです。
雇用されないフリーランス等の副業であれば、普通徴収に切り替えることで知られるリスクを減らすことはできるでしょう。

⑤社会保険でバレる
副業先での社会保険も、先述の通り条件を満たすと加入が必要です。その場合、本業先に二重加入したことを知らせる通知が届くため、必然的に会社は社員の副業を知ることになります。
これを避けるためには、副業で社会保険加入基準となる労働時間を超えて働かないことや、始めからアルバイト等の雇用される副業に従事しないことが対策として挙げられます。

この章では、副業をするメリットや注意する点を紹介しました。副業はそのメリットによって、キャリア形成の選択肢を豊かにしてくれます。副業を積極的に活用するためにも、制度上の注意点を十分確認することが必要です。

6. 企業側から見た副業

これまで、日本の労働社会や労働者の視点で副業を考えてきました。本章では、副業を行う労働者を雇うことになる企業側から見た副業について紹介します。
2023年11月のパーソル総合研究所の調査によると、自社社員が社外で副業することを「全面容認」または「条件付き容認」で認めている企業は60.9%になりました。特に、従業員数が1000人以上、1万人以上の企業では前回(2021年)の調査から、約17ポイント上昇しており、従業員が100人未満の企業でも65%の割合で副業を認めています。正社員の副業実施率は7.0%にとどまっているものの、副業を「行いたい」また、または「やや行いたい」と答えた人の割合は計40.8%になるなど、企業側、労働者側ともに副業に対する注目度は年々増加しています。
このように企業からの注目があつまる副業について、企業が副業を解禁するメリットやデメリット、注意点、副業を実際に認めている企業の事例を紹介したいと思います。

企業側から副業解禁のメリット

企業が副業を認めた場合に生じるメリットは、
・労働者のスキルアップ
・優秀な人材が確保できること
・事業拡大につながる可能性
が考えられます。
副業を通して新たな知識や経験が身についた労働者が増えることは、事業拡大につながるという点で企業にとってもメリットになるでしょう。それだけでなく副業はその性質上主体的に行うものなので、主体性を持つ労働者の意欲が本業にも活きるようになるかもしれません。
人手不足の解消という観点からみても、業務委託やアルバイト・パートなどの時短労働者という形で新しい人材を取り入れることはもちろん、転職というリスクを取らずに自分のやりたいことができるので離職者が減り、結果的に会社に長くとどまってくれるというメリットもあります。
また、副業によって得た情報や人脈をうまく活用できれば、事業の拡大や会社の成長につながります。このように副業を認めることには会社の発展につながる多様なメリットがあり、副業を認めるような社会になりつつあると考えます。

企業側から副業解禁のデメリット

メリットがある一方で、企業が副業を認めることにはデメリットも存在します。
まず考えられるのは離職を促してしまう可能性です。優秀な人材が本業を離れて副業の方へ転職してしまう可能性をゼロにすることはできません。
次に、労働者が負う「競業避止義務」や「秘密保持義務」、「職務専念義務」に関わるリスクです。各内容については第2章、第5章②でもご紹介した通りです。「競業避止義務」では、在職中の企業と競業にあたる企業や組織への転職や競合する企業の起業といった行為が禁止されています。「秘密保持義務」は労働者が職務中、あるいは企業において知り得た秘密を他に漏洩してはいけない義務のことです。つまり、これら2つは副業を解禁した結果、情報漏洩やノウハウの流出が起こり、結果的に会社に不利益が起こってしまうことを懸念したものです。企業が、労働者(社員)に対して「副業をしてもいい」とだけ通知してしまうと、禁止してきたこれらの行為なども認めると受け取られてしまうリスクがあります。このデメリットに対しては、秘密保持義務における秘密が何かなど情報漏洩に対する対策を考える必要があります。
また、従業員が副業を行うことで、仮に本業と副業の両方が繁忙期になった場合、従業員はどちらかを優先せざるを得ないなどといった問題が生じます。第7章で後述しますが、労働時間の把握や支払いの調整といった問題も生じてしまいますし、副業を解禁したことによる業務の増加といった問題点も無視できないでしょう。

実際に上記のデメリットを懸念して、副業解禁に踏み切れない企業が多く存在します。
2018年1月に、副業解禁を促進するために「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が制定されました。しかし「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は、あくまでガイドラインであり法的拘束力はありません。したがって、企業の中でも、労働者の副業・兼業に積極的ではない事例が見られます。例えば、労働者の副業・兼業によってデメリットがあると予想される中小企業では、副業規制が現存しています。ガイドライン策定以前の平成26年に中小企業庁が行った「兼業・副業に係る取組み実態調査事業報告書」によると、副業・兼業をみとめていない企業は85.3%と大多数でした。中小企業におけるこうした傾向は、ガイドライン策定後も顕在です。

本章では、副業解禁をすることによる企業にとってのメリット、デメリットについてお伝えしました。副業解禁には様々デメリットが存在します。
だからといって副業を認めないというのは間違っていると考えます。もちろん、業種や職種にもよりますが、副業は推進されるべきです。転職のリスクなどを気にして社員に副業をさせないのは会社の権力の濫用とも言えますし、なにより副業を推進するようなオープンな会社のほうが優秀な人材が集まりやすくなっていくと思います。

7. 副業の労働時間管理~安全配慮義務と残業時間問題~

企業が労働者(社員)の副業を解禁する場合には、安全配慮義務と残業時間問題について、それぞれ労働時間管理に関する配慮が必要となります。以下ではそれぞれの内容についご紹介します。

安全配慮義務

安全配慮義務は、労働契約法第5条で「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ 労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定められています。
副業・兼業の場合、労働者全体の仕事量が荷重であることを知っていたのに、何も配慮をしないまま、労働者の健康に支障が出た場合に安全配慮義務違反になる可能性があります。
会社として副業を推進したい場合は、副業・兼業を届け出制にするにして、労働者の安全に支障が出ないように確認する、副業の開始後に状況について定期的に報告させるなどといった形を取る必要があります。
それだけでなく副業を解禁したいのであれば、副業受け入れる場合にしても、他社で働く事に対し許可する場合にしても、残業時間が長時間にならないようする、どうしても労働時間が長くなってしまっている労働者に対しては副業の許可をださないといった個々の対処も必要になってきます。業種や職種にもよりますが、そうした対処をすることによって副業や兼業が行いやすい環境づくりをしていきましょう。

残業時間問題

副業を解禁する場合には、残業時間に対する賃金の支払いについて、労働者のケースに合わせた配慮が必要となります。

①同じ日に本業と副業先で仕事するケース

本業であるA社と「所定労働時間8時間」、副業先B社と「所定労働時間5時間」の雇用契約し、同じ日にそれぞれの所定労働時間働いた場合
(A社)
A社での所定労働時間は8時間であり、1日8時間を超えていないため、A社に残業代は発生しません。
(B社)
A社では、既に法定労働時間である8時間働いているため、B社での労働時間(5時間)はすべて残業扱いとなり、残業代の支払が必要となります。

同じ日に本業と副業先で仕事するケース

②本業の休日の日に副業先で仕事するケース

本業であるA社と「月曜日から金曜日、所定労働時間8時間」、副業先B社と「土曜日に所定労働時間5時間」の雇用契約をし、それぞれの雇用契約通りに働いた場合
※ここではA社、B社ともにお互いの雇用契約を把握しているという前提にします。
(A社)
A社での所定労働時間は8時間で月曜日から金曜日まで働いた時、週の労働時間は40時間となり、法定労働時間(週40時間以内)の労働なので、Aは残業代の支払義務はありません。
(B社)
日曜日または月曜日を起算とした場合、A社ではすでに法定労働時間である週40時間働いているため、B社での土曜日の労働(5時間)はすべて残業扱いとなり、割増賃金(残業代)の支払が必要となります。

本業の休日に副業先で仕事するケース

③A社に残業代支払の義務があるケース

本業であるA社と「所定労働時間4時間」、副業先B社と「A社と同じ曜日に所定労働時間4時間」の雇用契約し、その日A社では5時間労働して、B社では4時間労働した場合
※ここではA社、B社ともにお互いの雇用契約を把握しているという前提にします。
この場合はA社とB社、それぞれの所定雇用時間を合算して法定雇用時間に達しているので、新たに残業をさせた会社に残業代の支払い義務が発生します。
(A社)
A社で新しく発生した時間は法定雇用時間外となり、A社は「B社と合算してこれから8時間労働する」と把握しているため、残業代の支払いが義務付けられます。
(B社)
B社での労働は法定雇用時間内なので残業代は発生します。

A社に残業代支払の義務があるケース

④A社、B社それぞれで所定労働時間超えて働いたケース

本業であるA社と「所定労働時間3時間」、副業先B社と「A社と同じ曜日に所定労働時間3時間」の雇用契約し、その日A社では5時間労働して、B社では4時間労働した場合
※ここではA社、B社ともにお互いの雇用契約を把握しているという前提にします。
(A社)
A社では5時間労働したため、雇用契約よりも2時間多く働いています。しかしA社で労働が終了した時点では、B社での所定労働時間を含めて(3+3+2の)8時間となるため、法定雇用時間内に収まります。そのため、A社は残業代の支払い義務がありません。
(B社)
そのあと、B社では1時間多く働いたため、通算9時間となりました。
この場合、「法定労働時間を超えた時点で働いている会社」はB社となるため、B社で1時間分の残業代を支払うこととなります。

④A社、B社それぞれで所定労働時間超えて働いたケース

このように、現状では法定時間を超えて働かせた方、あるいはあとに労働契約を結んだ副業先が割増賃金を支払う仕組みになっています。しかし、A社が副業先で働いていることを把握していない場合など、残業代の支払いに関しては労働時間の通算は非常に複雑な制度になってしまっています。
そのため、2023年12月の内閣府・規制改革推進会議でも「端的に労働時間通算を否定すべき」との意見が上がるなど、労働時間の把握義務がないことを強調する意見も出ました。

8. おすすめの副業形態と注意点

それではこれまでの内容を踏まえ、正社員の副業に適した働き方を紹介します。
副業を始める場合、本業との兼ね合いで長い勤務時間は取れないことが多いでしょう。また第5章で紹介した税金の申告や第7章の労働時間といった観点からも、副業先に雇用される仕事は制限が大きいと言えます。
単発や短時間の仕事であれば、休日などに働けるため融通が利きます。ただし、単発でも雇用されていると労働時間が通算されるほか、本業と合算して住民税が課されます。単発の仕事も、本人がそれぞれの労働時間や収入を把握して本業先に届け出ることが望ましいです。なお、単発アルバイトの副業先が本人の総労働時間を把握して、時間外労働の割増賃金を支払う事は現実には難しいです。安全配慮義務に観点からも、働きすぎには本人と本業先が注意する必要があるでしょう。

これに対し、就業形態が雇用ではなくフリーランスや自営業等であれば、労働時間とは見なされず収入も給与所得にならないため、上記の問題は減ります。さらに、クラウドソーシングなどのインターネット上で進める仕事であれば、自身の都合に合わせて働けるため負担も少ないと言えます。
しかしフリーランス等は、仕事に対してより一層本人が責任を持つことが求められます。仕事に関する知識や技術がないと成功は難しいため、常に最新の情報を収集しましょう。さらに成果物の納期や質をきちんと管理して、取引相手と関係構築も含めて自分で行うことが必要です。

副業詐欺に注意

昨今の副業を推進する風潮を受けて、副業に挑戦する人が増えていることでしょう。最近webサイト等で、「未経験からすぐ○○万円稼ぐ方法」や「資格取得サポート」などの広告を見かけるかもしれません。情報収集の際には、簡単に稼げるといった魅力的なフレーズに注意が必要です。中には教材費等と称して不釣り合いに多額の費用を請求したり、個人情報を入力させる副業詐欺も存在します。安易にアクセスしないことが第一ですが、万が一詐欺にあってしまった場合には、消費者生活センターや警察に相談しましょう。副業は相当の知識や技術が求められるため、誰でも簡単に稼げるものとは言えません。本気で副業を成功させたいのであれば、受け身にならず自分から必要な情報を選び取る姿勢が重要です。


おわりに

副業が推進され、副業をする労働者が増えようとしている中、制度上の問題点や副業が推進されない理由となっている日本の雇用システムが今現在も残っていることをお伝えしました。
副業ができる環境が整えられてきましたが、副業をするかどうかや、どのような副業を選ぶかどうかは私達の自由です。

とはいえ企業の側にも、言ってしまえば副業に向いてない人を上手く制限しないといけない場合もあると思われます。良くも悪くも多様化が進むと、社員を管理する手間は増えてしまいますが、今後は、個々に応じた労働条件を提示する必要があるのかもしれません。

キャリアを考える上で、双方が副業をする上での知識を身に付け、自分に合った副業の形を選びましょう。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

参考文献リスト

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「第3回 働き方・人への投資ワーキング・グループ 議事次第」内閣府ホームぺージhttps://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/2310_03human/231205/human03_agenda.html

「第3回 副業の実態・意識に関する定量調査」パーソル総合研究所https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/sidejob3.html

 働き方改革実行計画」首相官邸ホームページ(最終閲覧日2023年12月4日)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html (最終閲覧日2024年1月9日)

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副業の確定申告は20万円超で申告が必要!方法、必要書類を解説|freee税理士検索 (advisors-freee.jp)

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Q80 個人住民税を「特別徴収」から「普通徴収」に切替できるケースは? (mikagecpa.com)

マネーフォワード クラウド「住民税の納付方法」(最終閲覧2024年1月2日)
住民税の納付方法|知っておきたい住民税の基礎知識 | 給与計算ソフト マネーフォワード クラウド (moneyforward.com)

三菱UFJ信託銀行「住民税の普通徴収と特別徴収はどう違う?切り替えの方法も」(最終閲覧2024年1月3日)
住民税の普通徴収と特別徴収はどう違う?切り替えの方法も|気になるお金のアレコレ〜老後の資産形成・相続に向けて〜三菱UFJ信託銀行 (mufg.jp)

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副業分の収入の住民税を、自分で納付することはできますか|東京都小平市公式ホームページ (city.kodaira.tokyo.jp)

厚生労働省ホームページ(最終閲覧2024年1月4日)
雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか! |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

サンカク「副業すると社会保険はどうなる?2か所以上から給与をもらう場合の注意点」(最終閲覧2024年1月3日)
副業すると社会保険はどうなる?2か所以上から給与をもらう場合の注意点 │ サンカク|ふるさと副業・社会人インターンシップ (sankak.jp)

株式会社ビズヒッツのプレスリリース「副業がバレた理由ランキング」(最終閲覧2024年1月7日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000051.000041309.html

副業起業塾「1日だけ、1回だけのアルバイトでも申告は必要?‐副業がばれない方法」(最終閲覧2024年1月8日)
1日だけ、1回だけの副業のアルバイトでも申告は必要? - 副業がばれない方法(副業起業塾) (fukugyou-kara-kigyou.jp)

スキルハックス公式メディア「【事例あり】副業詐欺にありがちな手法4選!見分け方や安全なビジネスについても解説」(最終閲覧2024年1月8日)
https://skill-hacks.co.jp/media/side-business-fraud/

こころざし経営労働事務所「副業、兼業時の確認すべき4つのルール」(最終閲覧2024年1月14日)
https://sr-kokorozashi.jp/blog/20200719-753/

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