ワコククリエイティブスピンオフ④

゛あの時…。本当の私は燃え朽ちてしまったのかもしれない…。゛

彼は端正な顔立ちに似合わず口を半開きで炎を眺めていた。

彼の異名は『仇討ち兎』。本名は誰も知らない。完璧に仕事をこなすその手腕に裏社会での評価は高い。仕事を完遂する為には自分の身を顧みないどころか、寧ろ好んで命を差し出すかのようなきらいすらあった。

彼が幼少の頃、生まれ育った村は大きな戦に巻き込まれ焼け落ちた。景色も、家族も、思い出も、全て炎が呑み込んでしまった。

その影響なのか、彼は炎を見ると刹那放心してしまう。

しかし不思議な事に、そこに憎しみや悲しみといった感情は無く、一番近い言葉で表わせば一種の郷愁感。


『おいっ!何ボーッとしてるんだっ!早く背中の火を消してくれっ!』

今日の標的がのたうち回りながら叫んでいる。

(おっと、仕事中だった。)

彼は自ら付けた火に、さも慌てたように水を掛ける。

「すまない。突然だったので驚いてしまった。さぁ火は消えたよ。ちょうど火傷の薬を持っている。これをお塗りよ。」

渡したのは薬ではなく唐辛子入りの味噌。依頼人から預かった物だ。好みのやり方では無かったが依頼人の指示ならば仕方がない。

(いよいよ、この先の海には木の舟と確実に沈む泥の舟を用意している。さて彼がどちらを選ぶか。どちらを選んでも楽しみだ。)

彼は微笑み、優しく標的の肩を抱きあげた。


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