ワコククリエイティブスピンオフ①
その年は稀に見る不作の年であった。農民、商人、多くの庶民の命が奪われたが、庶民にとって更に不幸であったのは、大名家に暇を出された侍崩れが、山賊宜しく度々事件を頻発させた事であった。
特に峠辺りは侍崩れにとって格好の狩り場。金を携えた行商人が行き来するからである。地元の者は決して近付かないが土地勘の無い行商人はまんまと餌にされてしまう。
茹だるような暑さのある夏の日。一匹の ゛狼 ゛が獲物に牙をむこうとしていた。
「そこの行商人待てっ!」
既に本身を抜いている侍崩れが叫ぶ。
「ひぃーーーっ!」
腰を地面に落っことした行商人が震えた声で訴える。
「命だけは…、命だけは…、」
「安心しろ。大人しく金を出せば命までは取らん。」
垂れ落ちる汗を拭いながら侍崩れはそう答えたが、更々そのつもりはなかった。そう言えば早く狩りが済む事を何度かの経験で学んでいたのだ。
「ちょっ、ちょっと待って下さい。体が震えて上手く財布が取れません。落ち着かせる為に、み、水を飲ませて下さい。」
そう言うと行商人は腰の竹筒に手を掛けた。
「水?そう言えば喉がカラカラだ。それも寄こせっ!」
行商人から竹筒を取り上げると汗ダクの侍崩れは一息に飲み干した。
「何と美味い水だ!こんな水は初めてだっ!」
「飲んだね。」
行商人は先程まで震えていたのが嘘の様に凛と立っていた。
「…ッ!!か、体が……動か…な………この水……何………。」
侍崩れが声を絞り出す。
「 ゛薬 ゛さ。但し飲んだ人間を閻魔様の所まで連れて行っちまう薬だけどね。」
言い終わるや否や侍崩れの懐から金の入った袋を取り出し、
「おっ、結構入ってるじゃないか。」
そのまま袋を自分の懐にしまうと、行商人は ゛狼 ゛の笑みを浮かべて森の闇へと消えて行った。
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