シュメル民話①

アルムルーク湖の畔に2人の親子が住んでいた。
母親は生来より体が弱かったが愛する息子の為、死んだ夫の分まで働いた。どんなに過酷な労働の後でも息子の前では笑顔を絶やさなかった。
息子はまだまだ遊びたい盛りであったが、そんな母を気遣い家の仕事を手伝った。母の咳がひどい夜には一晩中背中を擦った事もあった。

その年の流行病は村の人間の半分をも飲み込もうとしていた。体の弱い母親も例外ではない。
激しい発作が治まり、やっと母が寝ついたその夜、息子は湖に向かい神に祈った。

どれ位の時間が経っただろう、月が夜に別れを告げようとしたその瞬間、頭の中に声が響いた。

『願いは叶えよう。但し、二度と母親と口を利いてはならない。』

息子は大きく頷いた。

ふと我に返ると湖の前で呆然と立っていた。慌てて家に帰ると幼い頃から知っている笑顔がそこにはあった。

数日後、先に折れたのは母親だった。何を聞いても話さない息子に初めは笑顔だったものの、ただただ息子の声を聞きたい、その気持ちを押さえられず、息子の前で初めて涙を流した。

動揺した息子は声にもならない声で、
「母さん…」

誓いを破った事に激怒した神は息子から人の姿を奪った。それでも怒りが収まらなかったが、湖の奥深くに閉じ込める事で溜飲を下げた。

数十年に一度、その物は神の目を盗んで地上に上がる。まるで母親の姿を探すように。
人々は恐ろしくも神々しい姿をしたその物を、息子の名を取り ゛ヌマンガ ゛と名付けた。

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