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☆45 玲瓏の賽

 玲瓏:(1)玉などの透きとおって光り輝くさま。
    (2)金属や玉などが触れ合って冴えた音で鳴るさま。

 壺の中でカラコロと音を立てる様子を言っているのだろう、賽子を指しているとは思えない綺麗な言葉だ。
 私たちがよく知っている賽子は、「一」の目が少し大きくて赤く塗られている物だが、ここで出てくる賽子は「六」の目が赤くなっている。中国は奇数より偶数を尊ぶので、「六」が一番良い目なのかもしれない。

 郎千秋と話す赤い垂れ幕の奥の者が「城主」と呼ばれたことで、風師はそれが「血雨探花」だと気づくが、郎千秋は気がつかない。後に花城が彼を「間抜け」と言うが、こういうところだろう。一本気で細部にこだわらない、男らしいと言えば男らしい郎千秋である。
 「天界にいれば良いものを、地獄へ乗り込んでくるなんて」と花城は既に郎千秋の正体に気づいている様子。おそらく謝憐や風師の動向も、鬼市へ足を踏み入れた瞬間から把握されていたものと思われる。千秋はカッとなり、目の前の卓を浮かせて垂れ幕に向かって飛ばすが、花城は触れもせずに指先でこれを操って対抗する。二人の力の差が歴然としてわかる場面である。

 花城は郎千秋を宙で磔にし、これを賭けの商品にする。風師と謝憐は進み出て大小の「小」で勝負するが、謝憐の出した目は「六」二つ。運の悪さは健在である。
 花城は謝憐を見て、賭場を取り仕切る女に意を伝える。「城主曰く、自分に勝てば上にあるあの代物は好きにして良い、と」。皆がうずうずするもののなかなか名乗りをあげようとしない中、謝憐は真っ先に挑戦しようと手をあげる。

 謝憐の壺の振り方が明らかにおかしい。慣れていないのは確かだろうが、それにしてもと周りも呆れた様子だ。壷を開く直前、「城主曰く、『壷を振る姿勢が正しくない』」「『上に来てくれたら、手ほどきをする』と」、そう告げられ壷を持った謝憐は階段を上がる。
 赤い幕の後ろに立つ者は、幕を透かしてはっきりとは見えないが、謝憐のよく知る「三郎」の姿ではない。背は少し高く、年も些か上のようだ。右目が眼帯で覆われており、落ち着いた声で自分を「俺」と呼ぶ。
 中国語の一人称単数は「我[ウォー]」しかない(男でも女でも子供でも大人でも「我」だ)ので、三郎の時に「僕」、花城なら「俺」なのは訳者の功績だろう。謝憐の前で謙っていう時(一期最終話、菩薺観で「誰よりもあなたに誠実だ」と言った時など)は「私」になっている。
 花城の姿は、紗が掛かっている分、謝憐にはより魅力的に見えただろう。

 花城は思いのままに賽子の目を操れるようだ。「大きい目で(勝負する)」と謝憐が言った後、先に振って「五」と「六」を出している。後の展開を考えると、花城が狙って正確にその目を出した、と考えるのが妥当だろう。
 謝憐が振ろうとすると、花城は「違う。こうだ。一緒に」と言って、謝憐の手に手を重ねる。これは手に触れたかったのではなく、謝憐にも気づかれないようなごく微量の運気を渡そうとしたのだと思う。効果は徐々に現れ、謝憐の振る賽子の目は少しずつ大きくなる。
 最後にもう一度手を重ねるのも、微量の運気をもう一度重ねて渡し、確実に「六」の目二つを出させるためだろう。そもそもそうするために、謝憐を上まで呼んだのだと思う。

 最後に賽子を振る前に、花城は負けた場合の代価を要求する。謝憐は袖の中を探ってみるが、相変わらず饅頭しか入っていない。しかも食べかけの(袖の中が屑だらけになりそうだ)。「いいよ、その饅頭で」と花城は笑い、郎千秋は「どういう意味だ。俺を食べかけの饅頭の値打ちー」と言いかけるが、風師が扇子をぶつけて黙らせる。
 鬼たちは「城主」が、賭けの最初に名乗りをあげた男を「兄さん」と呼ぶのに騒めき、謝憐が「六」二つを出すと、「城主は負けても完璧だな」「ヤツが勝てたのも城主の手ほどきがあったからだ」と花城を絶賛する。恐ろしいほどに信頼され敬われているようだ。

 謝憐は郎千秋の元へ戻るが、後から花城が降りてきて(その姿に、また鬼たちは最大級の賛辞を贈る)、立ち去ろうとする謝憐たちを呼び止める。最初に下で「小」で勝負して負けた時の代価を要求、謝憐は袖の中からおずおずと食べかけの饅頭を差し出す。
 それを受け取った花城は、鬼たちに囲まれながら「極楽坊へ」行くと言い、その場を立ち去る。同じく郎千秋と共に立ち去ろうとしていた謝憐は、ふと振り返って花城を見、饅頭を放り上げていた花城も謝憐を見て、饅頭を一口齧る。

 視聴者からは「間接キスだーっ」との感想がたくさん上がっていたが、これはそんな生易しいものではないだろう。少なくとも謝憐にとっては。
 おそらく彼は、自分自身が齧られたかのように感じたのだ。こちらを見て、まるで見せつけるかのように饅頭を口にする花城に、「おまえもこんなふうに食ってやろうか」と言われたような気がして、居た堪れなくなって逃げ出したのだ。「恐ろしくて」ではなく、「恥ずかしさにドキドキして」である辺り、もはや重症である。

 その後、謝憐と郎千秋は風師と合流。先程の花城の姿が本尊(本来の姿)であることを知っているのが自分だけであること、「三郎」の姿もそれと大差がないことから最初に会った時もほぼ素顔だったことを思い、一人微笑む謝憐である。

 尚、風師や郎千秋が「血雨探花」と呼び、天界でも謝憐以外誰も「花城」と呼ばないのは、「名前を聞くだけでも恐ろしい」という心理が働いてのことだと思う。「三郎」と呼びかけるのは、「そう呼ばれたいな」と言われたからだけれども、謝憐だけに呼ぶことを許された名前なので、それもまた彼にとっては嬉しいことなのかもしれない。

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