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医療において、お金より大事なのは家族という現実

医者として働いていて、理不尽だなと思うことのひとつです。

今の日本では、お金のあるなしで、受けれる医療は変わりません。
もちろん、お金に余裕があったら大部屋ではなく個室で過ごせたりとか、貯金がなければ、例え医療費は変わらなくても仕事ができないから生活に困るとか、突き詰めれば公平ではないかもしれませんが、必要な検査、治療は経済状況に関わらず受けることができます。

そしてもちろん、検査や治療といった医療行為は患者さん本人の同意によって行われます。医者はこういう検査や治療をしたほうがいいと思う、と提案はしますが、勝手に方針を決めることはないし、家族がどんなに心配していても、本人が同意されなければ基本的には入院できません。

でも、正直なところ、受けれる医療レベルは家族がどれくらい熱心か、患者さんに寄り添っているか、によるところが大きいと思います。間違っている状況だと思うのですが…。
この高齢化社会なので、患者さん本人がかなりご高齢で、つきそいのご家族がその息子さんや娘さん、というケースは多いです。そうすると、どうしてもご本人よりご家族のほうが理解がはやくて、「お医者さんはこう言ってるからそうしよう」とご本人を説得するような場面がでてきます。ご本人がどこまでしっかり理解できているか分からない、本当はよく分かっていないけど、子供が強く言うから同意されただけなのでは…というケースもあります(本来は医者がご本人が理解されるまでお話するべきなのですが、忙しいこと、また正直なところ医者もその治療方針でいいと思っているので、説得されてだろうが最終的に同意されたならよし、としてしまうこともあります)。
また、いやな話としては、もしなにか合併症などトラブルが起きたとき、「訴える!」「ネットに書いてやる!」というのはご本人よりご家族が多いのです。ご本人は高齢で、ネットを使っていないことも多いですし、そもそも体調が悪くて検査や治療をされているわけなので、そこまでの元気がないからです。そのため病院側としても、ご本人は治療方針に納得されてリスクも理解されているが、ご家族はリスクをとりたくない、リスクがあるなら治療はしてほしくないと考えている場合、治療を躊躇ってしまいます。
そのほか、他の病院にうつって緊急手術が必要、という場合もあります。そのときも、リスクが高い手術であるほど、手術をする病院はご家族のつきそいや理解を重視します。それこそ手術しないと命を落とす状況だが、術中死のリスクもある場合。もし術中死した場合、「手術したのにどうして?」とあとから言われないために、事前のご家族への説明を行いたいのです。
なので手術できる病院を探していると、「家族は同意されているのか?」「すぐに来れるのか?」とほぼ100%聞かれます。ちなみに「お金は払えますか?」と聞かれることは、まずありません。
ご家族が熱心でない(医者からの説明を聞いたり、手術につきそったりを拒否される)場合、あるいはなかなか連絡がつかない場合は難しい状況になります。現実的には、どうにか来てくれないか、連絡がつかないか手をつくして、もうやるしかないとなったら検査や治療を行うことが多いです。ただ、その結果、必要な医療行為の開始が遅れる可能性があります。

患者さんが同意しているのに、すぐに医療行為を開始しないのは間違っていると思います。患者さんのために、患者さんの希望に沿った医療行為を行うべきだと思っています。理想はそうだけれども、私は、現実の正しい選択肢がわかりません。

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