見出し画像

いや、違うよな、、、

今日は昔の話をすることにする。
俺は高校生の時、地元の焼肉屋でバイトしていた。本当は学校でバイトは禁止されていたのだが、どうしても欲しいギターがあったので先生に内緒でバイトしていた。俺の通っていた高校は校則がめちゃくちゃゆるいで有名だったのに、バイトだけは禁止されていた。あれなんでなんだろ。まあみんな普通にやってたけど。バンドやってるとめちゃくちゃ金がかかる。楽器買ったりアンプ買ったりエフェクター買ったりスタジオ入ったりってしてるとどんだけ働いても一瞬で金が飛ぶ。俺の周りでバンドやってた奴は大概金持ちだった。それか死ぬほどバイトしてる。俺は後者。
俺がバイトしていた店はそこそこ高いお店だったので、若い人より小金持ってるおっさんとか結構歳いった人が多かった。当時、俺はトガりにトガっていた。アシックスの陸上スパイク並にトガっていたので間違えて陸上部に履かれて三段跳びされたことがある。とにかくそのくらいトガっていた俺は偉そうに接してくる小金持ちの客が基本的に嫌いだった。
その日も客にイライラしながらバイトしていたのだが、ある一人のおじさんというよりおじいさんに近い、というか完全におじいさんの客に「見て、この爪。今日ネイルサロンに行って綺麗にしてきたんだ」とご機嫌に話しかけられた。おじいさんの爪を見ると、綺麗に整えられていて、なんだがツヤツヤしていた。早くビール持ってこいだのなんだのうるせー他の客と違い、そんなことをニコニコで報告してくるおじいさんがなんだかとても可愛らしく思えて「素敵ですね」と微笑みながら返した。おじいさんは、「俺なんてもう汚ないジジイだからさ、爪ぐらい綺麗にしておこうと思ってね。」と言った。歳をとっても身なりを綺麗に保とうと努力するのは素敵なことである。「いやいや、まだまだお若いですから、たくさんオシャレ楽しんでくださいね。」と俺は言った。そのおじいさんはご夫婦で来店しており、そこで向かい側に座っていた奥さんのおばあさんがこう言った。「綺麗でいいわよね。最近は男の人も爪綺麗にしたりするらしいじゃない。」奥さんもそういうことに理解のある人だった。素敵なご夫婦だなあ、俺も将来こういう素敵な奥さんに出会ってこうやってたまに二人で焼肉屋来たりしたいなーとか思っていた。その後もその席に料理を運ぶ度にちょっと話したりした。その老夫婦の席に料理を運ぶときだけがその日のバイト中の俺の唯一の癒しになっていた。その日はなんだかちょっとだけいい気分で家に帰った。
家帰って諸々終わらせてベッドに入ると、再びあの老夫婦のことを思い出した。素敵な夫婦だったなーとかまた来てくれるといいなーとか思っていたのだが、うん?ちょっと待てよ。そういえばなんで急に爪のことアピールされたんだっけ。当時、俺は自分で言うのもなんだがなかなか可愛い見た目をしていたため、働いていてもその手の人にジロジロ見られたり酔っ払った客に肩組まれたり、帰り際に連絡先渡されたりとかいうことがよくあったから、かなり疑心暗鬼になっていた。よくよく考えてみれば不自然な流れだ。注文聞いて席を離れようとした時に呼び止められて話されたのだ。その後もおじいさんにお兄ちゃん!ちょっと!と何度か呼び寄せられたりしていた。そう考えるとなんだかあの優しい笑顔もそういうことに思えてきた、、、変な想像が働く前に寝よう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?