Untitled #2 ~横光の文庫の出版事情~

太宰治に比べ、横光利一の現代の文庫本出版は少ない。

どちらも版権がおそらくは切れていて、太宰の場合は、各社こぞって文庫本を出しているのに、横光利一の場合はそうでもない。

太宰はまた、又吉直樹のような有名人が、推しを表明しているのに対して、横光には誰もいない。いるのかもしれないが、著名ではない。少なくとも私は知らない。私のように、情報が最後に入ってくるポジションの人でも知っているとなれば、本当の有名人だ。

今、(おそらく)購入できる横光利一の文庫本は、

新潮文庫
『機械・春は馬車に乗って』
『家族会議』(新潮復刊コレクションの一つ)

岩波文庫
『日輪・春は馬車に乗って』
『上海』
『機械 他八篇』
『旅愁』(上)
『旅愁』(下)

講談社文芸文庫
『上海』
『寝園』
『紋章』
『愛の挨拶 馬車 純粋小説論』
『夜の靴 微笑』
『旅愁 上』
『旅愁 下』
『家族会議』
『欧州紀行』

くらいだろう。

私はこれらに、

新潮文庫
『春園』
『旅愁』上(新潮文庫 草)
『旅愁』下(新潮文庫 草)

『旅愁』中(草の前の上・中・下の「中」巻だと思う)

を持っている程度だ。

初版を集めるのは、さすがにお金がもたない。全集は、図書館でいい。単行本もまあ、いい。

横光は書き直しを多くする作家だったので、決定版までに、いくつか異同があるものを刊行していて、それもまたややこしい。

『旅愁』についても、岩波文庫版は、GHQに検閲される前の版を使っている。だから、講談社文庫版と、まるかぶりでもない。

また、横光には気軽に読みづらい長編が多い。しかも、『暗夜行路』みたいに(語弊があるか)、短編のジョイントというわけでもない。しかも、ナレーターが、メタレベルから読みを指示してくれる頻度も少ない。読者ファーストとは言い難い側面があるということ。

そう考えると、現代の読書傾向と、太宰はマッチしているが、横光はマッチしづらい、という事情があるだろう。

パラテクストについても、確認しておこう。

新潮文庫
『春園』(1956 13刷) 
「解説」河上徹太郎
『機械・春は馬車に乗って』 → 配送中
『家族会議』(新潮復刊コレクションの一つ) → 家のどこかにある
『旅愁』上(新潮文庫 草) → 配送中
『旅愁』下(新潮文庫 草) → 配送中
『旅愁』中(草の前の上・中・下の「中」巻だと思う) → 配送中
*草版と連動したものかと思ったけど、どうも違う。さすがに、ここまでは集める必要はないのかと思った。

岩波文庫
『上海』(2008 改版1刷) 
付録「初版の序」/「解説」小田切秀雄/「横光利一の『上海』を読む」唐亜明
『日輪・春は馬車に乗って 他八篇』(2023 43刷)
「解説」川端康成/「作品に即して」保科昌夫
『機械 他九篇』 → 配送中
『旅愁 上』 → 配送中
『旅愁 下』 → 買うか悩み中

講談社文芸文庫
『上海』(1993 4刷)
「著者に代わって読者へ 身近になった父」横光象三/「解説 さまよう《上海の日本人》」菅野昭正/「作家案内 横光利一」保科昌夫・文芸文庫の会」
『寝園』(1992 1刷)
「解説 横光利一の悲劇」秋山駿/「作家案内 栗坪良樹」
『紋章』(1992 1刷)
「解説 秘めたる二つの狂気─雁金と久内」小島信夫/「作家案内 神谷忠孝・文芸文庫の会)
『愛の挨拶 馬車 純粋小説論』(1993 1刷)
「解説 表わしえぬ領域への接近」高橋英夫/「作家案内 十重田裕一」
『夜の靴 微笑』(1995 1刷)
「解説 「地獄の焔」」小島信夫/「作家案内 梶木剛」/資料 「横光利一弔辞」「天の象徴」川端康成/資料/資料 「「夜の靴」と「微笑」」河上徹太郎
『旅愁』(上)(1998 1刷)
「資料 旅愁解説」河上徹太郎
『旅愁』(下)(1998 1刷)
「解説 純粋小説の危機─『旅愁』と『パリの憂鬱』」樋口覚/「参考文献」作成・保科昌夫
『家族会議』(2000 1刷)
「著者に代わって読者へ 父の背中」横光佑典/「解説 小説は〈倫理〉たり得るか」栗坪良樹
『欧洲紀行』(2006 1刷)
「解説 現代史転換の証言者」大久保喬樹

90年代後半に、講談社文芸文庫で、かなり密に出版した。だから私も、講談社文芸文庫で持っていたのである。

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