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「小説 雨と水玉(仮題)(3)」/美智子さんの近代  ”出会い”

(3)出会い

この手紙の五年前、昭和五十五(1980)年の7月、啓一は半年ぶりにサークルの会合のために豊島公園に来ていた。
大学では修士一年となって、先生の指導は厳しくなってこういう会合にも頻繁には来にくくなっていたので、久しぶりに学部の時の後輩や仲間に会えるのは楽しいことだった。

梅雨曇りの過ごしやすい土曜の午後、公園で遊ぶ子供たちもにぎやかでゆったりとした気分でこれから気持ちを発散できそうな予感を感じていたとき、
「あのお、H大の方ですか?」
まだ大人の女性にはまだ時間のありそうな、白いニットのシャツに薄い肌色のロングスカートが似合う女子大生が立っていた。お化粧をしているところを見ると女子高生ではない、女子大生だった。続けて、
「○○の関係の方ですか」
「○○の催しに用事があるんですか、それなら、すぐそこだから一緒に行きましょう。」
「ありがとうございます。お願いします。」
しっかりとこちらの目を見て話してくるのに好感が持てた。
ただ、啓一も女性に慣れているわけでないので多少ドギマギしながら聞いてみると男所帯の運動系のサークルに興味があるとのことで、啓一も知っている後輩のY君と知り合いだとのことだった。
その少し遠慮がちに話す様子が程よく、若さの中に芯のある落ち着きが服装の可愛らしさを際立たせていた。
「ここですよ」
「どうもありがとうございました。」
丁寧にお辞儀してあいさつをする姿が、不自然でなく真面目な性格から出て来ていることを感じさせ、こういうときに当意即妙の出来ない啓一には有難かった。

あまり女性がくるような活動ではなく、まれに興味を持つ女性はあったが、たいていはすぐに辞めていった。
それが彼女は、四年間しっかりと過ごしていくことになった。そういう意味では特異であったのかもしれない。

顔かたちは少しふくよかで笑うと鼻に横じわが重なって愛嬌があり、胸は大きくはないが想像される形がほどよい色香を醸していた。高校生の時ソフトボールをやっていたということで、腰のあたりから太ももに抜ける線は重厚だが、立ち居振る舞いがすっきりしているためだろう、それが健康的でイノセントな女性らしさに転化していた。
本人は、下半身にコンプレックスを持っていたのか、普段の服装は足元まで隠れるようなロングスカートを良く穿いていた。性格なのだろう、そういう姿に誰しもが微笑ましさを感じてしまうところがあった。

しかし、後から考えれば、少し変わったところがある女の子だったのだろう。
贔屓目に見なくても並み以上に美しかったので、男性の側からアプローチは絶えずあったはずで、そうするとたいていの場合丸く収まらないと問題となって、四年間丸々続くということはない。
そんな下世話な話は別としても、女一人で男所帯に入ってやっていくのだから、諸事少し背伸びするところが有ったのかもしれない。そしてそれは、彼女の人生全般に対する姿勢を表わしていたのかもしれなく、なにか、未知のものに対する憧れの強い、いわば近代的な精神の発露なのかもしれなかった。

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