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「『ナショナリズムの美徳』ヨラム・ハゾニー 東洋経済新報社」のご一読のすすめ

 ヨラム・ハゾニーによる前掲書のご一読を請いたいと思います。
 米国保守を覚醒したという書物でもあり、トランプを支える米国保守の理論的根拠にもなっているらしいです。なるほどそれに値する重厚さを備えていると思いました。

 書いてあることは、リベラリズムあるいはグローバリズムとは帝国主義の別名であり、それよりも、複数の主権を持つ国民国家の政治秩序による平和と繁栄の方が本来の意味での個人の自由と繁栄が得られるものであり、帝国主義の世界より歴史的にも道徳的にも優れるものである、という主張です。
 そのこと自体は、90年代の後半にはフランシスフクヤマの「歴史の終わり」のウソを喝破した我が国保守論壇にとってはあまりにも自明のことですが、一貫性ある緻密な論理構成とクダクダしさはいかにもユダヤ人という感じがするものの、近年の米英保守の論理的支柱となってきたことが良くわかります。

 個人的には、以下の4点が勉強にもなり印象的でもありました。
 1点目は、宗教改革を経て国民国家により確立された個人の自由と独立、すなわち近代の確立が旧約聖書に基づいているということ、です。
 古代エジプトやアッシリア、ペルシャという帝国に対して、ユダヤ人の生き筋としての新しい概念としてモーゼが提示したものが国民国家であり、時代は下り神聖ローマ帝国とローマ法王からなる帝国主義に対して、旧約のその部分を根拠にして宗教改革と共に立ち上がってできたのが、イギリス、オランダ、フランスという国民国家でありアメリカの建国もその流れの中にあるということが説明されています。
 そしてそのことにより人間は個人の自由と独立を確立し繁栄を手にしてきた、つまり近代を切り拓いたということです。また、私自身にとっては、やはり近代と旧約は不可分であったか、と思ったし、確認もできました。

 2点目は、帝国主義は如何に善意であろうと普遍哲学を基礎にする限り歴史を異にする人間の心からの共感と忠誠を得ることは不可能であり、必然的に専制政治となるということです。結論的に、ここが非常に大事だと思うのですが、端的に言えば『聖なるもの』を共有する集団でなければ国家主権を共有し忠誠を捧げることができず、とどのつまり国民国家を形成する集団となり得ないということです。
 「聖なるものの共有」、これには確かに左成りと手を打ちました。

 3点目は、国民国家の多元的政治秩序が最善であるとする主張は、ハゾニー自身の母国イスラエルに加わるリベラリズムすなわち帝国主義からの圧力に導かれたものであり、それゆえその主張が芯のある力強いものになっているということです。
 このことは、一国一文明の悲哀を共にする日本のナショナリストにも直截に心に響くものとなっている理由だと思います。

 4点目は、謝辞の最後にあります。
「わたしの部族の一員であり、妻のヤエルとわたしがこの世に生み出し育ててきた子供たちに本書を捧げる。子供たちを教えながら、多くのことを学んだ。その一部は本書に織り込まれている。」
との本心の吐露は、私自身その保守の精神が導かれてきた実感とぴたりと一致します。最後に泪が爽やかな風を心に贈ってくれました。


 やはり、人類は、グローバリズムではなく、国民国家による多元的政治秩序による平和と繁栄を目指すべきだと信じられるのです。


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