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「ポスト冷戦時代のパラダイムが変わった」

 世界的な意味で第二次大戦の戦後が終わったのがベルリンの壁崩壊であれば、あれからほぼ30年、一世代と言われる時間が経過した。文字通り戦後に生まれた団塊の世代が世の中を動かすトップの層に存在してきたのが、このポスト冷戦の30年ではなかったのだろうか。

 冷戦の終了つまりポスト冷戦の始まりでは、米国一極支配の構造が共有され、当初は「歴史の終わり」などという今思えば能天気なことを言う学者がいたように世界は冷戦が終わったことを安堵する雰囲気に包まれた。この30年、中東を中心とする地域は不安定さゆえに何回かの戦争が断続的に発生してきたが、核戦争の恐怖までを間近に感じることはなく、先進国は概ね平和を維持してこれたと言える。それゆえ経済は比較的安定し、極端なインフレやデフレに襲われることなく、新興国国家群の勃興もあり世界全体としては順調な経済成長が見られた。団塊の世代は冷戦終結時にミドルとなっていたがその後の30年を平和の中で着実に歩んでこれたことになる。

 そうであれば、同世代の人口が突出して多いという団塊という名の通り、その世代が持つ金融資産も突出して多いということにあいなり、その世界の金融に占める割合からして、世界経済を左右することとなり今現在の経済が金融中心、ストック中心の経済になったのも道理である。またそれが平均寿命の大きな伸長とともにあったことによって老後の年金や資産に近来稀な注目が集まるようになった。果ては若い世代にまでその意識が急速に伝染し、いま世は、子供のころから資産形成を、と言われるほどで、10代20代の若者が将来の年金、云々と政治主張するようにまでなってしまっており、若い世代から年寄りまで全世代が老後不安を口にし資産形成に向かって走っているのが現今の状況であるとも言える。

 ここではそれが良い悪いを言うつもりはない。言いたいことは、そういう安定したお金を基軸とする価値観は変わってしまうのではないか、そこまででなくともかなり揺さぶられることになるのではないか、ということだ。ここで言うお金は株や債券、貴金属を含む金融資産を指している。確かにこの30年ほどは金融資産の価値が、かつてないほどの安定性を保っていた可能性が有る。それはマクロには団塊の世代が持つ金融資産の増加とともに金融資産全体が増加してきたという背景があると思われる。

 しかし一方で、一昨年からの新型感染症騒ぎ、今年のウクライナ戦争そしてそれらに誘発される形で急速に立ち上がるインフレという嵐は、明らかにこれまでの30年とは異なる大きなパラダイム転換を感じさせる。実際、情勢はこれまでの供給過剰のデフレが明らかに終わったことを示しており、これから中長期的にインフレトレンドに突入したことは識者の示すところとなっている。

 団塊の世代が世界から徐々に退場していき、中長期的にインフレトレンドとなるということならば、当然のことであるが、金融資産の安定性は揺さぶられることになるだろう。もちろんその揺さぶられる程度にもよるが、その安定性即ち信用に疑義が生じるならば、全世代が老後不安を口にし資産形成に向かって走るというのは喜劇以外の何物でもなくなってしまうではないか。

 私はかなりの確率でそういうパラダイム転換が起こっているのではないかと思っているが、おそらくパラダイム転換が起きているとしても、それが大きなものであるほど人々がそれに気づくのに5年や10年の時間を必要とするのは通例であるので、時代はすぐには変わらないが気付いたときには一気に変わっていたということになるのではないかと思う。

 お金の持つ価値に大きな揺らぎが生じたとき、少子化というものも或る時すっかり変わっていたということになる可能性が高い。人間はやはり人間しか信じることができないものだから。


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