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分子標的薬各論~HER2阻害薬~

HER2とは

ヒト上皮成長因子受容体2(Human Epidermal growth factor Receptor type2=HER2)のことである。前回記載した、EGFR(Epidermai Growth Factor Receptor)と似ていることからも分かるように、HER2にもチロシンキナーゼが含まれている。HER2タンパクは細胞を増やす信号を受けとると、2つのヒト上皮成長因子受容体がくっつき2量体を形成する。2量体となったHER2は活性化し、細胞を増やす信号を核に伝達し、細胞増殖を促すが、抗体薬は受容体に結合することで、小分子薬は膜を通過して細胞内からチロシンキナーゼに結合することで、チロシンキナーゼを阻害する。つまり、HER2阻害薬が効果を示すためには、HER2が発現している必要があるため、適応となるのはHER2発現している乳がんである。ただし、トラスツマブ(ハーセプチン®)はHER2陽性胃癌に対する第一選択薬となっていることも知っておきたい。なお、HER2陽性となるのは乳癌・胃癌いずれも20%程度とされている。

種類(抗体薬)

・トラスツマブ
・ペルツズマブ

トラスツマブ(ハーセプチン®)

HER2にトラスツズマブが結合すると、HER2の働きを抑えるとともに、抗体依存性細胞障害作用(antibody dependent cellular cytotoxicity=ADCC、免疫細胞を呼び寄せることによりがん細胞の増殖を抑える)もある。

ペルツズマブ(パージェタ®)

<適応>
・HER2陽性の乳癌
・がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌

副作用

インフュージョンリアクション、心毒性、間質性肺炎
※インフュージョンリアクション:抗体製剤投与時に見られることがある副作用。投与24時間以内に、発熱、悪寒、悪心嘔吐、頭痛、咳嗽などの症状が起きる。初回治療で最も見られやすく、腫瘍量の多い患者や安静時呼吸困難がある場合で重篤になることがある。
※心毒性:心筋細胞の生存、恒常性維持にHER2を介した複数のシグナル伝達経路が関与しており、抗HER2抗体がこれらを阻害することで心筋の恒常性を乱すほか、ミトコンドリアのアポトーシス経路を活性化することで心筋障害を来すと考えられている。投与後数週間~数ヵ月以内に発現し、投与量に相関せず、多くは可逆的とされている。投与中止してから3ヵ月前後で改善するが、約1/3の症例では心機能低下が遷延するとの報告もある。

種類(小分子薬)

ラパチニブ(タイケルブ🄬)

<適応症>
HER2過剰発現が確認された手術不能又は再発乳がん

<副作用>
EGFRと同様に、皮膚障害や下痢が起きやすい。また正常心筋細胞に発現しているHER2を阻害してしまうため、小分子薬であるラパチニブでも心毒性が見られる。

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