衆議院第一委員室の時計の謎〜或いは棚橋泰文になる方法〜
(今月の『フレイザー報告書』こぼれ話は休載します)
◯序章
2023年10月30日、国会になりたい人(17)はつぶやいた。
「ところで、それ時計よね?」
国会クラスタのひとたちは「本会議場の空気になりたい」だの「委員室のドアノブになりたい」などと言い出すhentai奇特な方々ですし、この世には『仮面ライダー』シリーズに出て来る小道具を蒐集されているマニアもおられるので、国会ウォッチャーの末端にいる者として、ちょっと調べてみようじゃないか……。
(調査対象は衆議院予算委員会のみに限定する。本稿ではすべて敬称を略す)
◯難航する調査
だが、調査はいきなり暗礁に乗り上げる。なぜなら、
通常、こうした物体(時計であるとは推測されるが)の左側背面しか映らない。よしんば正面が映ったとしても、
これは厳しい。振り向いてくれない分、エメロンクリームリンスのCM(註1)よりも厳しい。
まずは、この物体のスクリーンショットを撮り、画像検索にかけてみる……案の定、引っ掛からない。そもそもの話、製品写真で求められるのは正面の写真である。背面写真は相対的に少ないのは理の当然であろう。
ではどうするか。ひとつは、Amazonのような、360度で製品の形状を見られる機能を持つサイトで閲覧すること。
もうひとつは、ヤフオクやメルカリなど、オークションやフリーマーケットのサイトに掲載された写真を閲覧すること。
これらをしらみ潰しに捜索しなければならない……面倒臭ェ。
それでも見つからないわけだが、眺めているうちに、ある発見に至る。
「これはどこかで見ているぞ……!」
発言席に置かれている物体と酷似した姿。まさしく、これはセイコーの電波時計SQ767Kだ。
ここから、電波時計に絞り込んで地道なチェックをしていくと、ある時計の背面写真が目に飛び込む(著作権的にまずいと思われるのでリンクだけ)。
https://page.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/g1074198688
リズム時計(註2)のネムリーナラピス! まさに背面の形状、針を調整するダイヤルの位置は一致した。
だが、またしても壁にあたる。同製品はブルーとピンク、2種類の色しか出していない。頭頂部にあるライト/スヌーズボタンや、左側面にあるアラームのON/OFFスイッチまで含めて真っ白なコレは何か? 考えられるのは、
1. 同じモデルを型番を変えた再販。
2. 特定店舗向けのオリジナル・モデル。
2.だと、いよいよわからなくなるなと思いながら、型番である「4RLA11」で検索してみると、幸いなことにそれらしきものが引っかかった。
ようやく特定できた。リズム時計のスタンダードモデル117の白モデルである(註3)。
さて、これでミッション・コンプリートしたぞ……と思っていたら、
( ゚д゚) ・・・
(つд⊂)ゴシゴシ
(;゚д゚) ・・・
(つд⊂)ゴシゴシゴシ
( Д ) ゚ ゚
また違う時計ががが! まだ探さにゃならんのか……。
ということで調査網にかかるまで毎日チェックしましたよ、もう。
で、いつ御目当ての後ろ姿に出逢うかわからない間、「いつから電波時計は置かれていたんだろう?」と、ふと思い立ち、過去の審議中継を眺めていたら、
……もう勘弁してください( ;∀;)
そんなこんなで、ひたすら監視の網に掛かるのを待つこと三ヶ月。ようやく引っ掛かったのが、以下の2機種である。
ようやく委員室の4機種が特定出来た。
◯時計の変遷
さて、先にも述べたが、時計はいつから置かれ始めたのか? それは2012年2月10日である。
まず、発言席だけに置かれた。
同月末の29日、4RLA11RH03 に置き換えられる。
はじめて委員長席に時計が置かれたのは、民主党政権最後の予算委員会(中井洽委員長)である2012年11月13日のことであった。
第二次安倍政権時代の予算委員長は、委員長ごとに特徴がある。
初代委員長・山本有二のときは概ね委員長席に 8RZ021-019 、発言席は 4RLA11RH03 が置かれてる。
二代目委員長・二階俊博になると、代わって 8RZ104-019 が置かれるようになる。
ところが、三代目委員長・大島理森、四代目委員長・河村建夫、五代目委員長・竹下亘までは、質問席にのみ置かれるスタイルに戻ってしまう(竹下が最後に委員長を務めた2016年8月3日を除く)。
六代目委員長・浜田靖一になって、委員長席の時計は常設されるようなり、初めて SQ767K が現れるが、すぐに 8RZ104-109 に取って代わられ七代目委員長・河村建夫(二回目の委員長)まで、この体制が続く。
八代目委員長・野田聖子になると SQ767K がメインとなり、現在の体制ができあがった……と思いきや、
九代目委員長・棚橋泰文の時代は委員長席、質問席に置かれる時計がコロコロ変わっていく。
またこの時期、のちの時代に先駆けて質問席と委員長席に同一機種が置かれることもあった。
菅義偉首相時代の予算委員長・金田勝年の頃は SQ767K が両席に置かれることとなる。
そして、岸田文雄首相の時代となり、初代委員長・根本匠から現在の二代目・小野寺五典へと至る。
同日の質問席の時計が本記事冒頭の写真Ⓐであるが、特定経緯でも判るとおり、4RLA11RH03 と SQ767K の2台置きという謎展開になるのだった(パネルを出す補助の議員用?)。
さて、なぜ委員長席や質問席に時計が置かれるようになったのであろうか?
まず、委員長席に置かれた経緯はある程度推測出来る。
写真の順序としてはⒶⒷⒸⒹとなるが、では写真Ⓒで二階たちが仰いだ先には何があったのか?
報道陣のカメラの先、正面と左側に掛け時計があるのが確認できる。つまり、二階たちの視界の先にはアナログ時計があったわけだ。
また、国会クラスタなら、委員会開会前のこの見慣れた映像はご存知だろう。
更に、以下の映像を見ていただくとおわかりいただけると思うが、つまり、第一委員室の四方の壁にはそれぞれひとつずつ、計四つの時計が存在しているのだ。
小泉進次郎は「私の前に二つも時計があるから」とのたまったが、実際は質疑中五つは時計を見ることが出来た。そもそも、発言席に時計が二つあるのすら、調査により以前からの状態と異なっていたわけである。
話を戻そう。なぜ委員長に時計を置いたか、それは間違いなく委員会開始を予定時刻どおり正確に始めるためであろう。というのも、予算委員会は、特に総理が出席している際はTV中継があるため、定刻(TVは9時開始)きっかりに質疑を始めたい思惑なのではなかったのだろうか(NHK側の要請があったとも思えないが)。ゆえに、始まってしまえばあとは流れなので、当初(浜田靖一以前)は事務方が撤去していたものの、いちいちやるのも面倒なので常設に至ったと考えられる。
では、そもそも質問席に時計が置かれる経緯は何だったのか?
これこそ推測であるが、質疑者が質疑に集中するために置かれたのではないだろうか。質疑に集中しすぎて残り時間を忘れたり、いちいち掛け時計に目を転じるのは気が削がれる、という指摘があったのだろうか?
だが、それであれば尚更、質疑とは無関係な事務方による『紙出し』(以下リンク先写真参照)が必要なのではないのか? 否、置き時計が置かれる以前に、あれだけ掛け時計が置かれていても『紙出し』がなくならなかったのは、先輩議員たちの知恵の結晶ではないと誰か言えるのか?
質問がスッカスカな人ならよいのだろうが、質問がいっぱいある人に自助努力で残り時間を確認せねばならない労力を費やす真似をさせてはならないのだ。(了)
(註1)……街頭でインタビュアーが後ろ姿の女性に製品を勧めつつ、最後には振り向いてもらうというもの。一種の観光CM要素があり、東京・銀座の他、大阪や博多などもロケ地となった。
(註2)……リズム時計はシチズン時計の系列会社。『シチズン』ブランドの時計を製造販売もしているが、子会社ではない。
(註3)……実際はネムリーナラピスが後発である。なお、スタンダードモデル117には白と黒の二色あった。
【タイトル画像】実際にSNSに投稿された画像を当方で再現したもの(部分)
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